第ニ十話 冷徹生徒会長・如月玲!?
鬼塚烈は、自分の高ぶる気持ちが落ち着くまで、屋上から静かに校舎を見おろしていた。
賑やかだった文化祭も終わり、生徒達はそれぞれ片付け作業を始めている。
脳裏に浮かぶのは、先程までここにいたアメジストの瞳を持つ人物――生徒会長・如月玲。
いつからだろう。あいつから目が離せなくなったのは……。
はじめから綺麗な奴だとは思っていた。でもそれだけだった。
人形みたいに整った顔。機械仕掛けの美貌にさほど興味をそそられなかった。
それがいつの間にか、くるくると表情を変える姿に目を奪われるようになった。
笑って、怒って、慌てて。
その全部が愛おしいと思ってしまった。
(おいおい……男同士だぜ?)
何度、自分にツッコミを入れただろう。
でも、そんなものはどうでもいい。
男だからとか、女だからとか、そんなことじゃない。
きっと俺は――あいつの魂に惹かれたのだ。
きっと、他の奴らも同じだろう。みんなが自覚するのも時間の問題だ。
「はぁ~、潮時かなぁ。」
この屋上で想いを伝えるつもりだった。
自分だけの、とっておきの場所で。
……だが結局、勇気が出なかった。
「さて、俺も生徒会室に戻るとすっか……」
そう呟き、階段を下りようとしたその時だった。
数段下、そこに先程別れたはずの玲がぐったりと倒れていた。
「おいっ!会長!?大丈夫か!?」
慌てて駆け寄り、その身体を抱き起こす。
「おいっ、玲……しっかりしろ!」
するとその声に反応するように、長い睫毛が微かに震えゆっくりと瞳が開かれた。
「よかった……無事で」
安堵した烈は、そっと頬に手を添える。次の瞬間――
パシッ!と、その手が乱暴に弾かれた。
「馴れ馴れしく触るな、鬼塚。」
ぞくり、と背筋が震える。
目の前にいるのは、間違いなく玲なのに――
「お前は……誰だ?」
玲は答えない。烈を一瞥すると、玲は無言のまま立ち上がり、軽く制服を払いながら去っていった。
文化祭の片付けを終え、黒崎冴と千早絢は一足先に生徒会室へ戻っていた。
「すみません、黒崎先輩。結局あの後も僕に付き合っていただいて……」
「構わない。発注ミスであれだけ品物が届いていたんだ。対処できて良かった」
「はい、助かりました。でも、玲とのデートを邪魔してしまいましたね?」
「……何を言っている?」
「いえ、別に」
少し睨みを利かす冴に、どこ吹く風と絢はにこりと微笑む。
「お前の方こそ、『文化祭の後のご褒美』とやらはもらったのか?」
「よく覚えてらっしゃいますね……」
絢は苦笑した。
「まだ玲とはゆっくり話せてないので、これから玲には『ご褒美の時間』をいただこうかと……」
「お前……玲に何をする気だ?」
「さあ?黒崎先輩こそ、テーマパークデート、みすみす逃して良かったんですか?」
一瞬、冴の目が細められる。そして――
「ああ。あれは玲が選ばなくては意味がないからな。」
縁日で手に入れた特賞――テーマパークのペア入場券。
あの時、一瞬だけ迷った。
『玲、一緒に行くぞ』
そう命令してしまえばよかった。だが……
冴が欲しかったのは、命令に従う玲ではない。
自分の意志で笑い、自分の意志で隣にいてくれる玲だった。
「変わったな……俺も、お前も」
「そうですね」
そこへ――コンコン。
扉が開き、玲が入ってきた。
絢はにっこりと微笑むと、玲の方へ駆け寄った。
「玲、見回りお疲れさまでした。あの後、一人にしてしまってすみません……大丈夫でしたか?」
玲は絢を一瞥すると、淡々と言った。
「ああ、問題ない。千早もご苦労だった。」
絢の笑顔が凍りつく。いつもの玲なら――
『ありがとう! 大丈夫だよ!』
そう笑ってくれるはずなのに……。
「玲、どうした?」
冴が問いかける。すると玲は姿勢を正した。
「特に報告事項はありません。黒崎先輩には文化祭期間、お世話をおかけしました」
深々と頭を下げる。
(これは……一体……?)
冴と絢は視線を交わした。
その後、律、豪、サクラも戻ってきた。
「玲!」
律が嬉しそうに駆け寄る。
「特賞は無理だったけど、A賞のぬいぐるみ当てたんだ! よかったら玲にあげる!」
手のひらの上には、小さなクマのぬいぐるみ。
きっと玲なら――。
『わぁ!律すごい!もらっていいの!?』
そうキラキラした瞳で喜んでくれる。
律は疑っていなかった。だが――
玲はぬいぐるみを一瞥し、冷たく言い放つ。
「俺には必要ない。それより律、本日の会計報告書を早めに提出してくれ」
律の瞳が大きく見開かれた。目はじわりと潤み、ぬいぐるみを持った手が微かに揺れる。
その様子を見た豪が少し声を荒げた。
「おい、如月。そんな言い方はないだろ?律、お前のために頑張って獲ってたんだぞ!」
それを聞いた玲は、豪の方に向き直った。
「俺がそれを頼んだか?神城、各部活動の成果報告書がまだ提出されていない。早めに頼む」
「あ、悪りぃ……ってそういう話じゃないだろ!」
豪は語気を荒げたが、玲は何事もないような涼しい顔をしている。
そんな様子をオロオロと見守るサクラ――。
この場にいる、玲以外の全員が感じていた。
目の前にいるのは間違いなく玲のはずなのに、何かがおかしい。
別人ではない。むしろ――
それは、誰もが知る昔の『如月玲』だった。
感情を表に出さず。
誰にも隙を見せず。
完璧な仕事だけを求める。
『冷徹生徒会長・如月玲』。
生徒会室の空気が凍りつく。
その時――
バンッ!!勢いよく扉が開いた。
「みんな、ちょっと話がある!」
肩で息をする烈。そして、部屋の中央に立つ玲を見た瞬間、烈の表情が険しくなる。
「やっぱり……屋上のところで倒れた後からお前……」
静まり返る生徒会室。
全員の視線が玲へ集まる。
そして烈は、目の前の生徒会長を睨みながら低い声で言った。
「お前は……誰なんだ?」




