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乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
第一章 恋するエグゼクティブ(前編)

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第十七話 文化祭前夜〜騎士は誰より近くで君を守る!?

夏合宿が終わり、季節は文化祭シーズンへと移り変わっていた。

校内には色とりどりのポスターが貼られ、廊下を行き交う生徒たちの会話もすっかり文化祭一色だ。

もちろん、生徒会も例外ではない。

「演劇はどうですか?」

「えー、セリフ覚えるのめんどくさ〜い。」

「じゃあ、お店とか?」

「うーん……何やるにしても人手は必要だよなぁ。」

賑やかな話し合いが続く生徒会室。

だけど――。


「…………」

私は机に肘をつき、ぼんやりと宙を見つめていた。

みんなの声が、どこか遠く聞こえる。

頭の中にちらつくのは、夏合宿のあの夜。

暗い森の中、祠の前に立っていた人影。

耳元で囁かれた、あの声。

そして――肩を押された感覚。

あれは本当に現実だったのだろうか。

暗闇への恐怖が見せた幻覚だったのかもしれない。

足を滑らせただけだったのかもしれない。

木々のざわめきを聞き違えただけだったのかもしれない。

だって……。

(隠れキャラなんて……そんなのありえない……)

私の知る『恋エグ』には、そんなの存在しない。


「玲。」

「ひゃっ!?」

不意に名前を呼ばれ肩が跳ねた。

視線を上げると、アイスブルーの瞳が静かにこちらを見下ろしている。

「話がある。……ちょっと来てもらえるか?」

「あっ、はい! 行きます!」

私は慌てて立ち上がった。


連れてこられたのは、誰もいない視聴覚室だった。

静まり返った室内。閉じられた扉。

冴は振り返ると、真っ直ぐに私を見据えた。

「お前。肝だめしの時、何かあっただろう?」

「……っ」

心臓が跳ねる。

「……どうして。」

「最近のお前は様子がおかしい。考え込んでばかりだ。」

鋭い視線から逃れるように、目を逸らした。

「その……別に……」

「玲。」

低い声。一歩、距離が縮まる。

「…………。」

言えない。

確信なんてないから。

見間違いだったかもしれないから。

こんな話をして、みんなを巻き込みたくなかった。

だけど……。

一歩一歩、後退していく。背後に棚の感触がした。

「え……?」

気づけば追い詰められていた。

冴の両腕が、顔の左右に伸ばされる。

――いわゆる、壁ドンである。

「っ……」

アメジストの瞳が揺れた。

真正面から向けられるアイスブルーの眼差し。

冷たいようでいて、その奥には静かな熱がある。

(あぁ……この人の前じゃ、嘘なんてつけないな……)

私は観念したように口を開いた。

祠で見た人影のこと。

声をかけられたこと。

肩を押されたこと。


「…………」

話を聞き終えた冴は、顎に手を当てる。

「合宿に参加していたのは、生徒会メンバーだけだったはずだ。」

険しい表情。

「外部からの侵入者か……あるいは生徒会のメンバーの誰か……。」

「まさか!」

私は勢いよく首を振った。

「みんなの中にいるはずない!」

「玲……。」

「冴先輩と烈は一緒だったし、律とサクラもずっと一緒だった! 豪だってすぐ絢と合流してた……!」

胸の前で拳を握る。

「みんながそんなことするはずないの、私が一番知ってる! 絶対にありえない!!」

「…………。」

冴は一瞬だけ目を見開き。

そして、ふっと口元を緩めた。

「……そうだな。私もそう思う。」

「え?」

「可能性を挙げただけだ。」

細められるアイスブルーの瞳。

「それなのに……お前は私たちを一ミリも疑わないんだな。」

優しい微笑。

(うわっ……冴先輩の微笑……! レア!!)


「……いつもの調子に戻ったな。」

「え?」

「顔色が良くなった。」

冴は短く息を吐く。

「心配していた。」

「……冴先輩。」

この人なりに、ずっと気にかけてくれていたんだ。

「学園内、または外部に怪しい人間がいないか調べさせよう。」

「えっ? どうやって?」

「……お前たち。聞いているんだろう?」


静まり返った扉の向こう。

「「「「「…………。」」」」」

「出てこい。」

観念したように扉が開いた。

「あっれ〜? バレてた?」

烈が頭をかきながら入ってきた。

「すみません……盗み聞きするつもりじゃなかったんですけど。」

苦笑する絢。

「俺だって、玲のこと心配してるんだから!」

少し拗ねたような律。

「如月が元気ないと、俺も調子出ねぇし……。」

困ったように笑う豪。

「玲会長、もっと私たちを頼ってくださいっ!」

頬を膨らませるサクラ。


「みんな……」

胸が熱くなる。

「ごめん。色々考えすぎて……どうしたらいいか分からなくなってた。」

私は深く頭を下げた。

「協力してほしい。でも、みんなに危険な目には遭ってほしくないから、絶対に無理はしないで。」

みんなが笑顔で頷いた。


「では、私が指揮を執る。」

冴が淡々と告げた。

「鬼塚は、素行不良者を中心に聞き込みと身辺調査を。」

「へーい。」

「千早は、広報活動中に噂を探れ。」

「かしこまりました。」

「神城は、部活動者を中心に様子を見ろ。」

「任せてください!」

「白砂は、端末上の投稿を確認しろ。」

「分かりました。」

「サクラは、女生徒を中心に観察を。」

「はいっ!」

「情報の統制と精査は私が行う。報告は怠るな。」

「「「「「はい!」」」」」


(えっ……何これ!? 知らないイベントが始まってるんですけど!?)

急展開に唖然とする私。

「あ、あの冴先輩……私は何をすれば……」

「お前は私の側にいろ。」

「え?」

「目の届かないところにいられると面倒だ。文化祭準備期間及び当日の見回り時は、護衛を兼ねて私が同行する。」

(((((職権乱用では?)))))

その場の全員がそう思ったけれど、誰も口には出せなかった。


文化祭準備期間。

大きな動きはなかった。

みんなが警戒を続けてくれていたおかげだ。

そして何より――四六時中、氷のオーラを(まと)った冴が隣に張り付いていては、何かしようにもできない。

「各自の報告では、気になる動きはないようだな。」

「そうですね。」

私は資料をまとめながら微笑んだ。

「冴先輩も自分のクラスで忙しいのに、ありがとうございます。」

「…………。」

パソコンから視線が上がる。

「……いや。構わない。」

短い言葉だけど、この数週間で分かった。

この人は、言葉より行動で示す人だ。

報告を精査し、気になることがあれば自ら確認に向かい、その間も私を守ってくれていた。

(いや、知ってた。知ってたけど……この人、相当なスパダリだなっ!!)


「冴先輩がいると安心感が違いますね……。」

「…………」

「ふふっ、騎士に守られてるお姫様みたいな気分です。」

「…………。」

一瞬の沈黙。

冴は短く息を吐くと静かに立ち上がった。

「え?」

玲の隣に座る。次の瞬間――

「わぁっ……!?」

視界が反転した。

ソファに押し倒される。

至近距離。眼前いっぱいに冴の顔があった。

「……私が騎士というのなら。」

低く落ちる声。

「お前は私に、どんな褒美をくれるんだ?」

頬に手が添えられる。唇が触れそうな距離。

「えっ……えっ……?」

頭が真っ白になった。その時――


「はいはーい! 定時報告でーす!」

ガチャッ。ノックをせず、烈が飛び込んできた。

「……って、おい! 黒崎っ!? 何してんだよ!!」

脱兎の勢いで冴を引き剥がす。

「ちょっと目ぇ離したらこれかよ!? こういうのは俺の役回りだっつーの!」

冴は(わず)かに目を伏せた。

「鬼塚……ノックくらいしろ。」

「ツッコむとこそこ!? まぁ、いいけど……とりあえず報告な。」

調査結果は異常なし。


次に、ノックの音と共に訪れたのは絢だ。

異常なしの報告を終えると、ソファに座る玲の前に歩み寄る。

「玲、最近ゆっくり話す間がないですね……。」

目の前の至宝は少しお疲れのようだ。

「でも、今は我慢します。……ご褒美は、文化祭が終わってからゆっくりいただきますから。」

そう言うと、笑顔で手を握る。


その後。

豪、律、サクラが順番に訪れて、いずれも異常なしの報告をした。

「如月、心配すんな。俺たちがいるから大丈夫だ! 俺はお前が笑ってくれてたらそれでいいから。」

「玲、大丈夫? 俺たちがいない間、何もされてない?」

「玲会長、絶対大丈夫ですから! 元気出して下さいねっ!」


みんなの視線が私に集まる――

(十歳近く年下の子たちに心配されて……私、何くよくよしてるんだろう。)

知らないシナリオ。知らない人物。怖い……でも。

(バグが起きたら修正する。それが開発者ってものでしょ!)

私は立ち上がった。

「みんな、ありがとう! 調査報告も異常なしだし、もう大丈夫! 明日からの文化祭、思いっきり楽しもうね!」

「「「「「おー!!」」」」」

明るい笑い声が生徒会室に響いた。


誰もいない校舎の廊下。

夕陽が静かに沈み、長く伸びた影が床を這う。

「…………見つけた。」

ぽつり、と声が落ちた。

「今度こそ、逃がさない――」

暗闇の中、人影が静かに笑う。

その声を聞いた者は、誰もいなかった。

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