表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ
第一章 恋するエグゼクティブ(前編)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/35

第十八話 文化祭前編〜チート能力が効きません!?

文化祭当日――。

色とりどりの装飾が廊下を彩り、手作りの看板が並ぶ。

教室からは焼きそばの香ばしい匂いや甘いお菓子の香りが漂い、あちこちから弾けるような笑い声が聞こえてきた。

「いらっしゃいませー!」

「次の公演、あと十分で始まりまーす!」

「こっちの店、空いてるよー!」

非日常に浮き立つ生徒たちの声が、校内を賑やかに満たしている。


胸が高鳴る。けれど、その一方で――。

私の脳裏には、『恋エグ』で何度も見た光景が浮かんでいた。

本来のシナリオでは、生徒会は文化祭の目玉として『シンデレラ』の劇を上演するはずだった。

シンデレラ役はサクラちゃん。

王子役は、その時点で最も好感度の高い攻略対象が務めるシステム。

(サクラちゃんのシンデレラ、見たかったなぁ。)

律なら、顔を真っ赤にしながらも一生懸命なツンデレ王子。

豪なら、誰よりも真っ直ぐな爽やか王子。

絢なら、優雅で誰もが見惚れる麗しい王子。

烈なら、観客をざわつかせるくらいの色気たっぷり王子。

冴なら、洗練された所作で魅了する完璧王子。

思わず笑いそうになって、その笑みは途中で消えた。

そのイベントはもう存在しない――

今回の不審者調査のため事前の準備ができず、結局出し物は過去の展示物を掲示するだけになった。

本来存在するはずだったイベントが、静かに消えていた。

私の知っている『恋エグ』が、少しずつ形を変えている――


隣を歩く冴が、ふとこちらを見下ろした。

「……玲。」

「はい?」

「浮かない顔をしている。どうした? 退屈か?」

「あっ、違います違います!」

私は慌てて両手を振った。

「今回、例の件で忙しくて生徒会は出し物ができなかったから、ちょっと残念だなって思って。」

「……そうか。」

 冴はわずかに目を伏せた。

「……ならいい。」

「?」

「……このまま、何も起こらなければいいんだがな。」

「そうですね。」

私は気持ちを切り替えるように笑った。

「とりあえず、視察を兼ねて各教室を回っていきましょう! 生徒会のみんなも、それぞれ企画に参加してるはずですし!」

「あぁ。」

冴が静かに頷く。

こうして私たちは、文化祭の賑わいの中へと足を踏み入れた。


二年生の教室では、各クラス合同で縁日を開催していた。

「いらっしゃいませー!」

「ヨーヨーすくい、まだ空いてまーす!」

「りんご飴、今できたてだよー!」

その他にも、射的、くじ引き、輪投げ――。

定番の屋台が所狭しと並び、生徒や保護者たちで賑わっている。


「……あ。」

その中で、ひときわ見慣れた姿と目が合った。

「玲!」

射的の店番をしていた律が、ぱっと表情を明るくした。

「視察お疲れさま! よかったら射的やっていかない?」

「律の方こそお疲れさま! ちゃんと店番やってるんだ! えらいね!」

「……あたりまえでしょ?」

 律はむっと頬を膨らませる。

「あんまり子ども扱いしないでよね?」

「ごめんごめん!」

私は苦笑しながら財布を取り出した。

「じゃあ、せっかくだし一回やらせてもらおうかな!」


ゴム銃を受け取り、私は景品棚へ視線を向ける。

そして、一番上に飾られた小さな特賞を見つけた。

(あっ、これ! 見覚えがある。ミニゲームのデモプレイで何十回もやったやつだ。右上を狙えば簡単に落とせる仕様だったはず……楽勝、楽勝♪)


パシッ。

放たれたゴムは、景品の土台をかすめただけだった。

「……あれ?」

(おかしいな。もう一発。)

パシッ。

今度は的のすぐ横を通り過ぎる。

「えっ?」

(そんなはずない。このミニゲーム、何十回もやったのに……。それにいつものチート能力なら、簡単にできるはず……。)

「な、なんで……?」

違和感に首を傾げた、その時。


「貸してみろ。」

冴が静かに手を差し出した。

「あっ、はい。」

銃を受け取った冴は、顔の横で自然に構える。

無駄のない所作。そして――。

パシッ。

ゴムは一直線に飛び、一番上の特賞を正確に射抜いた。

カタン。景品が落ちる。

「わぁっ!!」

「すごーい!!」

周囲から歓声が上がった。

「冴先輩、一発で……!」

「大したことはない。」

当然だと言わんばかりに、涼しい顔で銃を返してくる。

「はーい。特賞はこちらでーす。」

律が景品を持ってきた。

けれど、その表情は少しだけ複雑そうだ。

「……あーあ。俺が当てて、玲と行くつもりだったのに。」

「え?」

「特賞はテーマパークのペア入場券です」

律は口をむっと尖らせながら、冴へ入場券を手渡した。

「結構頑張って用意したんだよ? 人気景品なんだから。」

冴はそれを受け取ると、しばらく眺め――そして、迷いなく私へ差し出した。

「これが欲しかったんだろう?」

「えっ!? 冴先輩、いいんですか!?」

「あぁ。」

冴先輩は淡々と答える。

「もともとお前の残り玉だったしな。それに――」

アイスブルーの瞳が、まっすぐこちらを見つめた。

「私が使うより、お前が選んで使ってほしい。お前が一緒に行きたい奴を誘え。その上で私を選ぶなら、喜んで引き受ける。」

「はい。……ありがとうございます。」

いつも通りの無表情――だがそこに優しさが(にじ)んでいるのが分かる。

冴から受け取ったチケットを眺めながら考える――私は一体誰と行きたいんだろう?

特賞を当ててくれた冴先輩?

一緒に行きたいと言ってくれた律?

それとも、他の誰か――?

(……そういえば、この特賞って本来はサクラちゃんが当てて……気になる相手を誘うイベントだっけ。……私が持ってていいのかな?)


そんなことを考えていた時、絢が教室にいる私たちを見つけて声をかけてきた。

「あっ、黒崎先輩。ちょっとよろしいですか? 確認していただきたいことがありまして……」

「絢? どうしたの?」

「すみません、玲。急ぎの用で……黒崎先輩をお借りしてもいいですか?」

「う、うん。……私は行かなくていいの?」

「はい、大丈夫ですよ。玲の手を(わずら)わせる程ではありませんから……」

にっこりと、いつも通り美しい笑顔が返ってくる。

「玲、すまないがあとは一人で回れるか? 心配なら他の奴をつけるが……」

「大丈夫ですよ、冴先輩! あとは自分で回れますから。ありがとうございます!」


冴と絢の背中を見送って、私は一人隣の教室へ入る。

そこには縁日とはまた違った非日常――メイド&執事喫茶が広がっていた。

教室に入るや否や、私の姿を見つけたサクラが嬉しそうに駆け寄ってきた。

「玲会長、いらっしゃいませ! ご注文は何になさいますかっ?」

ふわりと揺れる純白のエプロンドレスに、レースのカチューシャ。

まるで絵本から飛び出してきたような可愛らしいメイド姿で、サクラが出迎えてくれた。

(か、可愛い……!! シンデレラ衣装にも負けてない!)


「サクラちゃん、その衣装すごく似合ってるね!」

「ありがとうございますっ!」

純白のエプロンドレスの裾をふわりと揺らしながら、サクラは嬉しそうに笑った。

「せっかくだし、何かいただこうかな……おすすめは何?」

「そうですね~。ハニートーストはどうですか? 一番人気なんですっ!」

「じゃあ、それでお願い!」

「かしこまりましたっ!」

ぺこりと頭を下げると、サクラちゃんはパタパタと小走りで厨房スペースへ戻っていく。

すると、入れ替わるように一人の執事が姿を現した。


「お、如月。来てたのか」

「豪!」

黒を基調とした執事服に白い手袋。

いつものラフな雰囲気とは違い、背筋を伸ばした豪はまるで本物の執事のようだった。

「豪、かっこいいね! 似合ってる!」

「そ、そうか? ……こういうの着慣れないから戸惑うな。お前なら着こなすんだろうけど」

照れくさそうに頭をかく豪。


そこへ、サクラがハニートーストを持ってやってきた。

「お待たせしました〜。ハニートーストで……きゃっ!」

サクラが足元に(つまずく)いて転びそうになる。

「あっ、危ない!」

倒れそうになった身体を、豪がとっさに抱き止めた。

「大丈夫か?」

「は、はい……ありがとうございますっ」

サクラの細い身体を支える豪と、驚いて見上げるサクラ。

文化祭の喧騒の中――一枚のスチルのように絵になる二人。

(うわぁ~、豪サクだぁ〜)

眼前に広がる光景に、思わず頬が緩む。

でも、なぜだろう? 

チリッ。

それは一瞬で消えてしまう程のほんの小さな痛み。

(あれ……? なんだろう? ……疲れてるのかな?)

自分でもよく分からない感情に首を傾げる。


私は二人にお礼を言うと、教室を後にした。

(とりあえず疲れたし、生徒会室に戻ろう!)

気持ちを切り替えるように軽く伸びをして、生徒会室へ向かう。


賑やかな喧騒が少し遠ざかる。

その背中を――。

誰かがじっと見つめていることに、私はまだ気づいていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ