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乙女ゲームの冷徹生徒会長に転生した元開発者、バグレベルに溺愛されてヒロインのフラグが1本も立ちません  作者: 高天原ヒロ


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第十六話 夏合宿編〜肝だめしイベントのはずが、知らないシナリオが始まりました!?

夜も更けた頃。

昼間の賑わいが嘘のように静まり返ったコテージ前には、淡い外灯の光だけが落ちていた。

虫の鳴き声。

木々を揺らす夜風。

山の奥から漂う湿った土の匂い。

(来たぁぁぁぁぁっ!!)

私は心の中で拳を突き上げた。

(肝だめしイベント!!)

(『恋エグ』夏合宿最大の恋愛イベント!!)

このイベントでサクラちゃんと攻略対象の距離は一気に縮まる。

シナリオ分岐にも関わる重要回だ。


「ルールは簡単です」

チェック係を担当する絢が、静かな声で説明する。

「ここから遊歩道を進み、山中の祠に置かれたお札を回収して戻ってくるだけです。ペアはこちらです」

絢が紙を掲げた。

「黒崎先輩と鬼塚先輩。」

「白砂くんとサクラさん。」

「神城くんと玲。」

「そして僕は祠で待機します」


ちらり。と、私は律とサクラへ視線を向ける。

サクラは少し緊張した様子で、胸の前で手を握っていた。

(うんうん。)

(頑張ってね、二人とも。)

(ここで恋を育むんだよ〜!)

シナリオでは。

サクラが足を捻る。

そして、ペアの攻略対象におんぶされることで好感度が大幅上昇する。

まさに恋愛イベントの王道。

(律のツンデレおんぶイベント、好きだったなぁ……。)


さっそく、肝だめしがスタートした。

最初は冴先輩と烈ペアだ。

「なんで俺がこいつと……」

烈が露骨に顔をしかめた。

「……私も同感だ」

冴が淡々と返す。

同学年、前生徒会のメンバーでもある二人は、息自体は悪くない。

「昔から無茶ばかりするお前を止める役目は私だったな」

「へっ。世話焼きなんだよ、お前」

「誰のせいだと思っている」

不満を口にしながらも、どこか気安い空気を纏ったまま。

「行くぞ。」

「はいはい。」

二人は暗い遊歩道へ消えていった。



「サクラ。」

「は、はいっ!」

「……危ないから、離れないでよね。」

律はそっぽを向いたまま呟いた。

「え?」

「転んだりしたら面倒だから。」

「……っ!」

サクラは嬉しそうに微笑む。

「ありがとうございますっ!」

「別に。」

頬を赤く染めながら視線を逸らす律。

(うんうん!!)

(律のツンデレ発動〜!!)

(いい感じだよぉぉぉ!!)

「じゃ、行こう。」

「はいっ!」

二人も遊歩道へと歩き出した。

(頑張れ〜!!)

私は心の中で全力のエールを送った。



「それじゃあ、俺たちも行くか。」

「うん!」

最後に私と豪が並んで歩き出す。

夜道は思った以上に暗かった。

「今日、楽しかったな。」

「うん!」

「ビーチバレーも。」

「豪のおかげだよ!」

「いや、最後決めたのは如月だろ。」

「でも繋いでくれたじゃん。」

「……そっか。」

豪は照れたように笑った。

「ありがとな。」

「こちらこそ! 頼りにしてるよ!」

「……俺も。如月のこと、頼りにしてる。」


夜風が頬を撫でた。

なんだか心地いい。

「あっ!」

木々の向こうに小さな祠が見えた。

「祠あった!」

「おい、如月!」

私は駆け出した。

「危ないって!」

「へーきへーき!」

振り返って笑う。


「絢〜! いる〜?」

返事はない。

「あれ?」

祠の前、誰もいない。

「絢?

静寂。

振り返る。

「……あれ? 豪?」

そこにも誰もいなかった。

「え?」

胸がざわつく。

「豪? どこ?」

ガサ。

祠の裏、人影。

「あっ、もう。」

私は安堵した。

「なーんだ、そこにいたの?」

近づく。

「脅かさないでよ。」

ゆらり。

人影が立ち上がる。

顔は見えない。

でも。

(……違う。)

豪じゃない。

絢でもない。

ぞくり。

「やっと……二人きりになれた。」

低い声。

「お前はーー」


「……え?」

どんっ。

肩を押された。

足元が消える。

「あ……。」

祠の横。

そこは崖だった。

身体が宙に浮く。

(なに、これ。)

(こんなイベント――)

(聞いてない。)

暗闇へ落ちながら。

玲の意識は途切れた。



目を開けた。

真っ暗だった。

「……っ。」

木々のざわめき。

虫の声。

湿った土の匂い。

「ここ……。」

立ち上がろうとして。

「痛っ……!」

足首に鋭い痛みが走る。

「足……捻った……?」

息が詰まる。

(なんで。)

(なんで私が?)

本来ならサクラちゃんが怪我をして。

攻略対象に助けられるイベントだった。

(知らないイベント。)

(知らない人物。)

(あの人物は誰? 何を言おうとした……?)

怖い。

胸が苦しい。

暗闇が押し寄せてくる。

「……っ。」

涙が滲んだ。

その時。

ガサッ!!

「ひっ……!」

腕を掴まれる。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「俺だよ俺!!」

「……え?」

「如月!!」

息を切らした豪がいた。

「豪……?」

「探したんだ!」

「チェックポイントにもいなくて……!」

「絢に聞いたら来てないって……!」

「ゴールにも戻ってなくて……!」

「本当に……っ!」

豪は震える声で言った。

「良かった……。」

その瞬間。

私の張り詰めていたものが切れた。

「……っ。」

ポロポロポロ。

涙が止まらない。

「え? わっ!? ご、ごめ……。」

「怖かった……。」

「だって、知らないことばっかりで……。」

「どうしたらいいか分からなかった……。」


豪は目を見開き。

そして。

そっと玲を抱き締めた。

「もう大丈夫……俺がいる。」

「大丈夫だから。」



「――いた! 玲!!」

四人が駆け寄ってくる。

「なーに会長泣かしてんだよ。」

「お前は玲に何をした……」

「玲! 危ないよ! こっち来て!」

「玲……僕が付いていなかったばっかりに……。」

四者四用の声をかける。

「違う違う!!」

豪が慌てる。

「まだなんもしてないって!!」

(……まだ?)

玲は涙を拭いながら首を傾げた。

でも。

みんなの顔を見た瞬間。

自然と笑みが戻る。

「ありがとう! みんな。」



コテージへ戻ると。

「玲会長っ!!」

サクラが駆け寄った。

「無事で良かったです!!」

「サクラちゃん……。」

玲は安堵したように微笑む。

「あぁ、サクラちゃんは怪我してないんだね。良かった。」

「会長……?」

不思議そうに首を傾げるサクラ。


こうして。

一泊二日の夏合宿は幕を閉じた。

けれど。

(開発者の私が知らないイベント。)

(知らない会話。)

(知らない人物。)

胸の奥に残る違和感。

『やっと……二人きりになれた。お前はーー。』

あの声が。

何度も頭の中で反響する。

開発者の私が知らないイベント。

存在しないはずの台詞。

そして、あの人影――

『恋エグ』は、私の知っているゲームではなくなり始めていた。


私はまだ知らない。

この夜の出来事が。

誰かの恋では終わらない、

『恋エグ』そのものを揺るがす事件の始まりだったことを――。

【恋エグ攻略メモ】


▶神城 豪:66/100(守りたい特別な存在)

▶白砂 律:63/100(玲を最優先にしたい)

▶千早 絢:61/100(次こそ自分が守る)

▶鬼塚 烈:58/100(支えになりたい)

▶黒崎 冴:57/100(特別な存在だと自覚し始めた)

▶サクラ:50/100(憧れが別の感情へ変化中)

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