第十四話 夏合宿編〜玲の隣は誰のもの!?
生徒会夏合宿、決定。
(来たぁーーーーっ!! 夏合宿!!)
私は思わず心の中でガッツポーズを決めた。
水着!!肝試し!!『恋エグ』人気投票でも毎回上位に入る神イベント!!
合宿中は学校とは違う。
攻略対象たちと寝食を共にし、好感度が大きく動く特別な期間だ。
(つまり、サクラちゃんの恋愛フラグ量産タイム!!)
今度こそ、みんなを幸せに導いてみせる。
そう決意しながら、私は意気揚々とバスへ向かった――のだが。
「玲、隣来てよ!」
律がポンポンと隣の席を叩いて手招きしている。
「会長。荷物なら俺が持つぜ?」
烈は当然のように私のバッグへ手を伸ばす。
「玲。この後のスケジュール、一緒に確認しましょうか?」
絢は穏やかに微笑みながら、隣を確保しようとしている。
「如月、酔い止め持ったか?」
豪は心配そうにこちらを覗き込む。
「……玲」
冴は何も言わない。ただ……(当然、私の隣だよな?)と言わんばかりの視線を向けている。
(なんで私の修学旅行みたいになってるの!?ここ、サクラちゃんの隣を巡ってみんながそわそわするシーンだよね!?なんで私の席を取り合ってるの!?)
後ろではサクラが困ったように苦笑している。
「よし! ここは公平にくじ引きにしよう!」
私の提案に全員が渋々頷く。そして――。
「やった!!」
くじを見た律が顔を輝かせた。
「玲の隣、俺だ!」
素直な笑顔。犬みたいに尻尾を振っているのが見える気がする。
(はぁぁ〜〜。今日も推しが可愛い!!)
最初はゲームにしか興味がなくて、全然こっちを見てくれなかったのに。
一度懐けば、こんなにも分かりやすく感情を見せてくれる。
(ありがとう、『恋エグ』……。)
ちなみに、このイベントにはシステム上の仕様がある。
一番好感度の高い攻略対象が、ヒロインの隣になるのだ。
(……でも、それってサクラちゃんの場合だよね?私の場合は……やっぱりランダムなのかな?)
そんなことを考えている間に席順は決まり、
玲と律。
絢と烈。
豪とサクラ。
そして冴は一人、窓際へ移動した。
「一人の方が静かでいい」と、本を開きながら淡々と告げる。
(サクラちゃん、豪と隣なんだ……)
なんだかんだ王道ペア感がある。
(頑張れ〜、サクラちゃん!お母さん、見守ってるからね!!)
「ねぇ、玲! 余所見ばっかりしてないでこっち見てよ!」
律が袖を引っ張る。
「ご、ごめん」
「それでさ」
律は身を乗り出した。
「今ハマってるゲームがあるんだけど――」
そこからは止まらなかった。
ゲームシステム。プログラム。仕様の穴。バランス調整。
普通なら通じないようなマニアックな話題に律は目を輝かせる。
「それ、こういう処理にしたら面白そうじゃない?」
「うわっ、それ天才じゃん!」
「でしょ!?」
楽しそうに笑う律。
気づけば、山道を進むバスは目的地へ到着していた。
前にはきらめく青い海。
後ろには緑深い山々。
夏の恋が芽吹くには、これ以上ない舞台。
こうして、生徒会夏合宿は本格的に幕を開けた。
最初のイベントは、お昼のカレー作り。
「会長、お料理上手なんですね!」
サクラが尊敬の眼差しを向ける。
「如月コーポレーションの御曹司だから、こういうことはしないのかと思ってました……」
(あっ、そうだった! 玲って御曹司だった!!)
思わず固まる。
だが、その中身はアラサー一人暮らし女子である。
「ははは……たまに気分転換にね!」
咄嗟に笑って誤魔化した。
「へぇ、上手いもんだな」
烈が鍋を覗き込む。
そして、不敵に笑った。
「もう俺んとこに嫁に来いよ」
「……は?」
「損はさせねぇからさ」
「鬼塚先輩!」
豪が慌てて割って入った。
「食器並べるの手伝ってください!」
「ちっ、分かったよ」
「如月、調理任せて悪いな」
「全然!」
私は笑う。
「こっちこそ、頼りにしてるよ!」
「……っ」
豪の頬がほんのり赤く染まった。
その横で。
「……美味いな」
冴がスプーンで味見をする。
「さすが、私が見込んだだけある」
淡々とした声音。
「毎日こんな食事が出てくるなら……案外悪くない」
(冴様に褒められた! 自炊してて良かったぁ!!)
過去の自分へ感謝する。
「玲」
絢が穏やかに歩み寄る。
「テーブルの準備は終わりました。次は何を?」
「じゃあ、カレー配ってもらえる?」
「承知しました」
にこりと微笑む。
「……結婚したら、こんな感じなんでしょうか?」
「え?」
「一緒に食事を用意して」
「……」
「たくさんの子どもたちに分け与えて」
「誰が子どもたちだよ!!」
烈のツッコミが飛んだ。
「ねぇ、玲! 俺の隣、空いてるから!」
律が迎えに来た。
「はいはい、サクラちゃんも一緒に座ろう?」
「はいっ!」
嬉しそうに駆け寄るサクラ。
美味しいカレー。賑やかな笑い声。眩しい夏の日差し。
こうして、生徒会夏合宿は最高のスタートを切った。




