『恋エグ3』第二十二話 年明け〜初詣と願いの行方
一月三日。
新年を迎えた街は、どこか晴れやかで、凛とした冷気に包まれていた。
有名な大神社へ続く参道は、初詣に訪れた大勢の参拝客でごった返している。
「あ、みんなー! こっちこっち!」
赤い大きな鳥居の前で、ヒマリは手を振った。
まず現れたのは、羽織袴をびしっと着こなした良樹だった。
「よっちゃん、袴!? 気合入ってるね!」
「ふふっ、新年のご挨拶だからね。ヒマちゃんこそ、そのピンクの振袖、すごく似合ってる! お姫様みたいだ!」
その時、シックな着物風の羽織を粋に着流した環季と、上品な濃紺の着物を完璧に着こなした斗真が姿を現した。
「おめでとさん〜。正月早々、着物で集まるのもなかなかオツなもんやなぁ。」
「あけましておめでとう。ヒマリちゃん、その桃色の振袖素敵だね。」
「ほんまや! ヒマリ、めっちゃ似合っとるで。写真撮って待ち受けにしてええ?」
斗真と環季がにこやかに笑う。
「皆さん、お待たせしました。」
その後ろから現れたのは、黒のシンプルなコート姿の凌と、淡い藤色の着物を着たソノ。
「凌くんもちゃんと来たんだね?」
「……うるせーよ。ソノに『会長が来ないと締まりません』って引っ張られてきただけだ。」
「みなさん、あけましておめでとうございます!」
全員が揃ったところで、ヒマリが元気に挨拶をした。
視線がヒマリに集まる。
「ヒマリさん、その振袖素敵ですね。」
「ありがとうございます! ソノ先輩も、すっごく綺麗です!」
ヒマリとソノが微笑み合う。
その隣で、凌は明後日の方向を向いたまま、耳まで真っ赤に染めていた。
「まあ……悪くねーんじゃねーの?」
「ぶっきらぼうすぎやろ、凌!」
環季が突っ込む。
「心の中では『天使か!?』って叫んどるくせに!」
「叫んでねーよ!!」
二人のやり取りに笑い声が上がる。
そんな中、ヒマリだけは顔を赤らめ俯いた。
心臓がトクンと音を立てた。
◇
境内に入り、まずは拝殿でお参り。
「「「「「「……。」」」」」」
六人が一列に並び、二礼二拍手一礼。
「よし! お願い完了!」
良樹が爽やかに振り返ると、環季が尋ねた。
「良樹、お前何お願いしたん?」
「『今年こそ、ヒマちゃんに思いが届きますように』です!」
「お前……それを堂々と言うんだな。尊敬するわ……。」
良樹の直球に、凌が即座に反応する。
「ちなみに僕は、『卒業しても、ヒマリちゃんとずっと一緒に過ごせますように』ってお願いしたよ。」
斗真が穏やかに微笑む。
「斗真、お前も……だんだん隠さなくなってきたな……?」
「俺のも知りたい? 俺は『ヒマリと一緒に美味しいもん食べて、楽しい思い出いっぱい作れますように』や。実利重視!」
「今やってることと変わんねーじゃねーか!」
呆れる凌に、ヒマリが尋ねた。
「凌会長は……何をお願いしたんですか?」
凌は一瞬だけヒマリを見つめ、すぐに目を逸らした。
「……別に。『今年も生徒会が平和でありますように』……それだけだ。」
「嘘ですね……。」
ぽつりとソノが隣で小さく呟いたのを、ヒマリは見逃さなかった。
「ヒマリは? なんてお願いしたん?」
環季がヒマリに尋ねると、ヒマリは少し考えてからふふっと笑った。
「それは……ナイショです!」
◇
続いて、正月の名物「おみくじ」コーナーへ。
「よし、今年の運勢勝負や!」
5人が一斉におみくじを引く。
「俺は大吉! 恋愛欄……『押しに押しまくれ。勝機あり』! よっしゃー!!」
環季がガッツポーズ。
「僕も大吉です! 恋愛欄……『情熱が実を結ぶ。諦めるな』! 神様も僕を応援してくれてます!」
良樹が拳を握りしめる。
「僕は吉だな。恋愛欄は……『急がず焦らず、包み込む優しさが吉』。ふふ、僕らしいかな。」
斗真が静かに微笑む。
「私は中吉です。『思い続けることで、奇跡は起こる』。……悪くないですね。」
ソノがふっと口元を緩ます。
「私は大大吉です! 『どの道を選んでも、最後には幸せが訪れる。自分の選択を信じるべし!』」
ヒマリは満面の笑顔で、隣の凌を覗き込む。
「……凌会長はどうでしたか?」
凌の開いたおみくじには、ドカンと『凶』の文字。
全員「「「「……あっ。」」」」
恋愛欄『素直にならねば全てを失う。ツンデレは禁物』。
「誰がツンデレだっ!!」
凌がおみくじをグシャッと握りつぶそうとするのを、ソノが静かに制止した。
「会長、神様のお言葉です。結んで帰りましょう。」
◇
境内の露店エリアは、参拝客で混雑を極めていた。
焼き鳥やたこ焼きの匂いが漂う中、振袖姿のヒマリは歩きにくそうに人波を進む。
「ヒマリちゃん、大丈夫?」
斗真が気遣うが、後ろから押された参拝客の波に、ヒマリの身体がグラリと傾いた。
「わっ……!」
草履が滑り、倒れそうになるヒマリ。
「危ない……!」
ガシッ。
強い力で、手首を掴まれた。
そのまま引き寄せられ、ヒマリの身体はドサッと固い胸の中に収まる。
見上げると、すぐ目の前に凌の顔があった。
アイスブルーの瞳が、至近距離でヒマリを射抜いている。
「凌会長……っ。」
「転びそうになったら、すぐ掴まれ。俺が見ててやるから。」
クリスマスと同じ。
逃げ場のない、まっすぐな瞳。
ヒマリの頭の中が真っ白になり、顔が一気に沸騰する。
「……おい凌。」
氷点下の声が響いた。
振り返ると、斗真、環季、良樹の三人が、般若のような笑顔で立っていた。
「どさくさに紛れて抱きしめてんのは、どこのどいつや?」
環季の手が凌の肩にめり込む。
「クリスマスに続いて初詣でも……抜け駆けは許さへんで?」
良樹がヒマリと凌の間に強引に割り込む。
「ヒマちゃんに気安く触らないでくださいよ!」
「って、お前ら! 転びそうになったから助けただけだろ!?」
凌が怒鳴り返すが、その顔はヒマリ以上に真っ赤だった。
「凌くん。もうヒマリちゃんへの気持ちが隠せてないよね?」
斗真が小さく呟くと、その横でソノがうんうんと頷くのだった。
◇
境内の端にあるベンチで、温かい甘酒を飲んで休憩をすることになった。
「ふぅ……温まりますね。」
ヒマリがフーフーと息を吹きかけながら甘酒を口に含むと、男子陣の争いもようやく静まった。
「……でも、こうやってみんなで初詣に来られて、本当に良かったです。」
ヒマリがポツリと言った。
「去年は色んなことがありましたけど……生徒会のみんなと出会えて……私、すごく毎日が楽しいです。」
ヒマリは抱え込んだ甘酒のカップを見つめ、笑顔を浮かべる。
「白紙だった『おやゆび姫』の台本みたいに……今年も、みんなで素敵な思い出をいっぱい作っていきたいですね!」
その真っ直ぐで温かい言葉に、男たちは一瞬言葉を失った。
「……ほんま、ヒマリには勝てへんなぁ。」
環季が降参するように笑う。
「そうだね。僕たちも、ヒマリちゃんと過ごす時間が一番好きだよ。」
斗真が優しく目を細める。
「うん。今年も全力でヒマちゃんを守るから!」
良樹が胸を張る。
「……フン。白紙の台本なら、まだまだ続きがあるんだろ?」
凌がそっぽを向きながら、ボソッと呟いた。
「え?」
「なんでもねーよ。」
◇
少し離れたベンチで、ソノは温かい甘酒を片手に、静かに手帳を開いていた。
『観察記録:年明け初詣編』
凌会長、凶のおみくじ「ツンデレ禁物」の教えを無視しつつも、人混みにて男を見せる。
他3名によるガードはより強固に。
主人公ヒマリさんは、依然として胸のトキメキの正体に戸惑い中。
しかし、確実にその視線は特定の人物を追い始めている。
ソノはペンを止め、賑やかに揉み合う5人を見つめた。
「……さて。」
ソノは手帳を閉じ、ふっと小さな微笑みを浮かべた。
「次は……試練のバレンタインデー、ですね。今からチョコの買い出し計画を立てておくとしましょう。」
冬の澄み渡る空の下、初詣の鐘の音が優しく響き渡っていた。
新しい一年のページが今、賑やかにめくられようとしている――。




