番外編SS 『冷静副会長に映る世界〜ソノの恋エグ3考察日誌③』
※この日誌は、あくまでソノの考察と個人的感想に基づく記録です。
――夜。
自室の机に向かい、私はいつもの手帳を開いていた。
夏祭り、同窓会、体育祭、合宿、そして文化祭。
振り返れば、第十二話から第二十話にかけての数か月は、ヒマリさんを取り巻く男子陣の感情が一気に加速し、複雑に絡み合った怒涛の期間だったと言える。
前生徒会の先輩方から授かった言葉や自身の失敗を経て、彼らの心理は大きく変化した。
そして文化祭の『おやゆび姫』。
白紙の台本の元、「自分の居場所を、自分で決める」というテーマを掲げた完全オリジナルの物語になった。
……偶然にしては、出来すぎている。
ここに、最新の「恋愛フラグ」と「好感度状況」を記録しておこう。
【観察記録01】
黒崎 凌(メインヒーロー枠 / 属性:ツンデレ・自覚寸前の王子様)
推定好感度:94(無自覚レベル突破? 言葉より行動への変化)
同窓会で玲先輩から真のリーダーとしての承認を得て精神的成長を遂げたものの、恋愛面での不器用さは相変わらずだ。
体育祭の「気になる人」騒動や、合宿の朝の海でヒマリさんに「俺が誰と付き合っても関係ないだろ」と放った問いかけ。
本人は相変わらず「生徒会長として当然」「別に気にしてない」と主張しているが、もはや言い逃れは難しい。
そして文化祭。
王子役を嫌がっていた彼が、本番では見事な王子様になった。
本来なら「花の国で暮らさないか」と誘うはずの台詞を捨てて放ったアドリブ――
「俺はお前と一緒に、まだ見ぬ『運命』を見つけに行きたい」
斗真くんには「凌くんの本心?」と追及されていたが、本人は全力で否定。
……とはいえ、完全な演技だったとは思えない。
かつて「待つ」ことしかできなかった王子が、自ら手を取って動き始めた。
これは――かなり大きな変化である。
【観察記録02】
水川 斗真(腹黒・ドS枠 / 属性:優しい仮面・自覚済み片想い)
推定好感度:91(完全自覚・執着と包容の同居)
彼はヒマリさんに「僕のこと、好きにならないで」と告げ、距離を取ることで感情を隠そうとしていた。
けれど夏祭りで告白を遮られ、同窓会で絢先輩から「誰かのために傷つく覚悟」を問われたことで、彼の「誰も特別に作らない」仮面は完全に剥ぎ取られた。
体育祭では一転して、普段の柔らかな姿からは想像できないほど力強い応援演舞を披露。
「迷うな、立ち止まるな。自分が決めた道なら、最後まで自分を信じろ」
……本人の恋愛事情を考えると、あまりにも意味深である。
文化祭ではモグラ役として「安全で傷つかない居場所」を提示。
けれど彼女が選んだのは、未知の世界へ進む道。
それでも彼は「どんなエンディングを選んでも、おやゆび姫は幸せになれる」と、彼女の選択を全肯定してみせた。
凌会長のアドリブには完敗を認めつつも、「次はヒマリちゃんに選んでもらえるように頑張ります!」という良樹くんの言葉には、静かな笑顔。
何を考えているのか分からないが――
私は知っている。
この人が一番危険なのは、笑っている時だ。
【観察記録03】
滝沢 環季(複雑系攻略枠 / 属性:陽気な策士・本気になり始めた男)
推定好感度:89(遠慮の撤廃・戦略と誠実の同立)
同窓会で律先輩から「損得の先にある失敗の価値」を教わった彼は、逃げ道を塞がれた。
体育祭の「気になる人」競争でついに一歩踏み出し、合宿でも私と凌会長の誤解を「あえて放置する」という狡猾なアシスト。
ヒマリさんの内なる嫉妬を炙り出す動きは見事だったと言わざるを得ない。
以前なら冗談にして流していたかもしれないが、今は「このままでは後悔する」と本気になったのだろう。
文化祭のコガネムシ役では、「豪華な家! 美味しい飯! 楽しい仲間! 自由時間もたっぷり!」と、もはやプレゼン大会のような勧誘を繰り広げた挙げ句、「コガネムシ界のアイドルになれるで!」
……どこからその発想が出てくるのでしょう。
それでも、ヒマリさんが自分を選ばなかった時には、きちんと送り出した。
選ばれたい。
けれど、無理やり選ばせたくはない。
「本気で傷つく覚悟」を完備した彼は、もはや単なる賑やかし役ではない。
【観察記録04】
大嶌 良樹(隠しキャラ・追加攻略枠 / 属性:大型犬・一途な幼馴染)
推定好感度:96(初期カンスト級・恋愛行動力は依然として最強)
……強い。
先輩男子三名からの露骨なマウント(体育祭の作業押し付けなど)を跳ね返し、二人三脚で見せた圧倒的な包容力。
そして文化祭劇の開始数分で繰り出した「僕と、結婚してくれない?」という怒涛のプロポーズ。
開始数分で告白する攻略対象など、私は聞いたことがない。
しかも、「毎日おいしいご飯を作ってあげる」「危ないことがあったら絶対に守る」。あまりにも彼らしい。
けれど、ヒマリさんが「まだ外の世界を見てみたい」と告げると、引き止めなかった。
「……分かった。だけど……まだ僕は諦めたわけじゃないから。」
一途、素直、行動が早い、そして、相手の意思も尊重できる。
……強い。
唯一の問題は、本人が時々、演劇と現実の境界線を見失っていることである。
【観察記録05】
ヒマリ(主人公 / 属性:無自覚光属性・選択保留型ヒロイン)
十二話以降、ヒマリさんは皆の「知らなかった顔」を知るたびに、「もっと知りたい」と言うようになった。
呼び出し事件で見せた「計算のない誠実さ」も含め、彼女の無自覚な光は周囲を惹きつけてやまない。
そして、もう一つ気になる変化がある。
合宿での「煤拭き事件」以降、突然こんなことを聞かれた。
「ソノ先輩は、凌会長のこと好きなんですか?」
「……なんでそう思うんですか?」
「二人がお似合いだからです。」
その後も――
「ソノ先輩って、好きな人いるんですよね?」
「はい。いますよ。その人は……。」
「言わなくて大丈夫です! 私、分かってますから!」
……どうやらヒマリさんは、私と凌会長の関係を盛大に誤解しているらしい。
最近、凌会長と話している時にこちらを気にしているのも、その誤解と内なる嫉妬のせいだろう。
もちろん、誤解なら訂正するべきなのだろう。
ただ、それには私自身の「本当の好きな人」が誰なのかを話さなくてはいけない。
…………。
そう考えると、なかなか簡単に訂正はできない。
……少なくとも、今は。
それよりも、ヒマリさん自身の変化のほうが、ずっと興味深い。
第十四話では「誰も傷つけたくない」と選択を放棄していた彼女が、文化祭の白紙の台本を通じて、各人が提示する「幸せの形」と真剣に向き合った。
そして本番、凌会長が差し伸べたアドリブの手に対し、自らの意志で「私と一緒に行きましょう!」と答えを返した。
今まで一つを選べなかった彼女が、自分で掴み取った選択。
……ただし。
その相手が凌会長だったことについては、現在、慎重に経過観察中である。
【総評と観察者のスタンス】
十二話以降の恋愛フラグを整理すると――。
凌会長=自覚寸前(言葉より行動へ)。
斗真くん=完全自覚済み(仮面を破棄)。
環季くん=本格参戦(覚悟完了)。
良樹くん=最初から全力疾走(境界線行方不明)。
第十二話から第二十話を経て、関係性は「漠然とした好意」から「譲れない未来の奪い合い」へと昇華した。
ツバメ役としての私の役割は、迷える彼女に選択肢を示し、その背中をそっと押すこと。
ヒマリさんが踏み出した一歩が、即座に凌会長との「恋の成就」を意味するのかといえば、答えはノーだ。
残された男子陣がこのまま引き下がるはずもなく、彼女自身もまた「自分にとっての本当の恋」を完全に見定めたわけではないのだから。
『恋エグ3――攻略対象四名による恋愛競争、本格化。主人公は依然として答えを保留。』
私は手帳に最後の一行を書き加えた。
『主人公自身も、少しずつ変化している。』
手帳を静かに閉じ、窓の外の月を見上げる。
「……さて。白紙の台本は埋まりましたが、本当のドラマはここからのようです。」
クスリと笑みをこぼす。
これからクリスマス、バレンタインと、イベントは目白押しだ。
副会長として、そして彼女たちの旅路を見守る者として――この狂騒劇の結末を、最後まで特等席で見届けさせてもらうとしよう。
「……できれば、これ以上の混戦は遠慮したいところですが……。」
――この願いが叶う可能性は、極めて低そうだ。




