表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の巡り人  作者: 蔵人
第1章 邂逅のバナーバル
77/82

1-46.ペリドットリクセン

 グエンの瞳が赤く輝き、紅蓮に燃える火焔文様が左の頬と首筋に浮かび上がる。

 肌を這う熾火が煌々と灯り、紅い髪が熱気に揺れた。


「遊んでやるよ。人形ども」


 赤眼の残光が虚空に尾を引く。

 刹那、巨躯のリクセンが碧銀核ごと縦一文字に両断されていた。


 崩れ落ちるリクセンの傍らで、リクセンナイトが橄欖石のサーベルを抜く。

 兜の奥、口と思われる部分にぽっかりと親指大の穴が開き――。


「ギィィィィィィィイィィィッツ!」


 ガラスと金属を力任せにこすり合わせたような、耳の奥を搔きむしる悲鳴が響き渡る。

 キトは恐怖に震える。


「ひ、ひええ……う、ぐす……」

「大丈夫ですよ」


 キトの小さな体を、エリエラがそっと抱き寄せた。

 その直後、リクセンナイトは四つん這いに地面を這い、石畳を削りながらグエンに猛進する。


「イギィィィィィッ!」

「這いずりやがって。虫が」


 吐き捨てるように言い放ったグエンは、すでにリクセンナイトの頭上。

 蒼氷(そうひ)の刃が正確に碧銀(へきぎん)の核を貫き、その勢いのまま橄欖石の騎士を石畳に縫い付けた。

 核を貫かれた瞬間、その体は手にしたサーベルごと崩壊する。

 巨躯のリクセンも同じように、オリーブ色の残骸と化していた。

 グエンの体を包んでいた薄い炎と、火焔文様が消える。


「圧倒的な速度と力、そして愛刀濡焔(ぬれほむら)。こいつで斬れないものはないぜ」


 刀身の先から碧銀(へきぎん)の塊を手で引き抜き、濡焔を鞘に納めた。

 その手にある碧銀(へきぎん)の塊は、冷たく、沈黙したまま。


「やっぱりこの核がキモか。しかし、この光沢……まさかとは思うが……。まあ、後でゆっくり調べるか。ふう……」


 塊をジャケットのポケットへ押し込み、深く息を吐く。

 残骸への警戒を解かずにいると、エリエラがキトの手を引き駆け寄ってきた。


「ありがとうございました。白鯨騎士団の折といい、二度も窮地を救っていただきました。わたくし、エリエラ……。エリエラ・アグナスタと申します」

「無事で何よりだ。俺はグエン・クロイドだ。で、そっちはガイドのキト」


 キトは慌ててエリエラから手を離すと、グエンの陰に身を隠しおずおずと答えた。


「あ、あの、あの。……ボ、ボク、キト……キニックです」

「ふふふ、はじめまして」

「クエスタからの依頼でエリエラさんの護衛を引き受けた。ギリギリだったが、間に合ってよかったよ」

「まあ、貴方が。護衛の方がいらっしゃるとはユイナさんから聞いていました。心強い限りです。どうぞよろしくお願いしますね」

「こちらこそ。で、護衛の到着も待たずに、なんでまたこんなところまでお一人で? 一人で散策したい気持ちもわかるが、随分と足を延ばしたもんだ」

「わたくしを呼ぶ声を辿っていたら、この場所まで来てしまいました」

「声? このリクセンってやつが? まさか、さっきの虫じみた鳴き声か?」


 グエンは地面に散らばる橄欖石の残骸を指さした。

 エリエラはゆっくりと首を横に振った。


「いえ、わたくしを呼んでいるのはもっと大きな者です。この壁からも、かすかに声が聞こえますが……」

「壁から声が?」

「声?」


 キトがいち早くヘルメットをずらし、垂れ耳を立てると、ライトを当てて壁を見つめる。

 グエンもキトの視線の先、目前の壁に目を凝らした。

 オリーブ色の壁、半透明に輝く内部に浮かぶ無数の碧銀核。

 その輝きには見覚えがあった。

 グエンはジャケットのポケットから、リクセンの核を取り出す。

 拳よりも少し大きな碧銀の塊には、濡焔の刃によって貫かれた穴が開いていた。


「この壁にあるの、まさか、これか? ……この独特な光沢、重銀っぽいが」

「あ、重銀の核が弱点だよ」

「ん、リクセンの話か?」

「うん」

「つまりこれが重銀核、リクセンの弱点だと」

「うん」

「これ見よがしに核があったからな。弱点丸見えじゃねえかこいつ。しかし……この壁、この色は……。キト、さっきのリクセンと同じ素材だと思うか?」

「う、うん。ペリドットだよ。大隧道でもたまに採れるよ」

「そうですね。ペリドット、橄欖石とも呼びますが、これほど巨大な塊……いえ、宝石の壁は生まれて初めて見ます」


 グエンはふと、エリエラの髪を彩るジュエルチェーンに目を移した。

 重銀ランタンの白光に照らされ、ルビーやサファイアが艶やかに輝いていた。


「俺は石に明るくないが、二人とも詳しそうだ。しかし、この壁が全部、リクセンの材料とか言わないよな……?」


 その言葉に合わせ、キトは両脇に聳え立つ壁を交互に照らす。

 光を反射し輝く両壁の内部には、星々のように輝く無数の重銀核。

 グエンは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。


「暗くて見えなかったが、この数はまずい。早くここを」

「! また声が……地の底から……!」


 エリエラが耳を抑えた瞬間、地鳴りが響く。

 グエンは素早くキトにヘルメットを被せ、二人の肩を抱き寄せた。


「伏せろ!」


 直後、地面がうねり橄欖の間が揺れた。


「わわわ!」

「きゃあっ!」


 激しい縦揺れの地震に、体が突き上げられる。

 グエンが二人に覆いかぶさり、三人は一塊になって衝撃をやりすごした。

 幸い、橄欖石の両壁は耐え、崩落を免れた。


「この壁が丈夫で助かったな」


 グエンは二人を立ち上がらせる。

 恐る恐る顔を上げたエリエラが、震える声で呟いた。


「わ、わたくしを迎えに……? 地の底から……大きな声が……」

「地の底から声? 地鳴りのことではなさそうだな。キト、聞こえるか?」


 キトはヘルメットをずらすと垂れ耳を立てる。

 耳を澄ませながら、小首を傾げた。


「ううん、聞こえないよ。でも……壁がパキパキしてる」

「壁がパキパキってのは……どうあってもまずいな。逃げるぞ!」

「え?」

「は、はい」


 状況が理解できずに茫然とするキト。

 エリエラがその手を取り、入口に向かって駆けだした。


「キト! 全速力でモービルの場所へ戻れ! エリエラを頼んだぞ!」

「え、あ、えっと、あ、と。……う、うん!」


 手を引かれて走っていたキトは、一気に速度を上げた。

 すぐにエリエラを追い抜き、逆に彼女を引っ張って進んでいく。

 壁の間を駆け抜けながら、エリエラが叫んだ。


「か、壁が来ます!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ