表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の巡り人  作者: 蔵人
第1章 邂逅のバナーバル
PR
68/115

1-37.男ならば

 デラダンは巨躯を傾け、大きく振りかぶり、渾身の右ストレートを放った。


「舐め腐りやがってこのチビがっ!」


 大きな拳に、全体重を乗せた一撃。

 グエンは生卵でもキャッチするように両手でふわりと受け止めた。


「ク、クソ」


 デラダンは掴まれた拳を振り払い、慌てて引く。

 引き戻された右手に合わせ、グエンは全く同じ速度で大きく踏み込んだ。

 密着するほどの至近距離、グエンの右拳がデラダンの鳩尾(みぞおち)に深々とめり込む。

 拳を引き終わった瞬間、巨人の如き巨躯はくの字に曲がり崩れ落ちた。


「うげ……え……」

「よっ、と」


 グエンは、颶風(ぐふう)にゆっくりと運ばれながら倒れるデラダンの襟首を掴んだ。

 鳩尾(みぞおち)を両手で抑えたデラダンは、腹部の痛みと痙攣で身動きが取れず、大人しく引きずられていく。


「俺はチビじゃない。お前がデカブツなだけだ。デカブツといえば、街に入るときにいたガングーってのより更にでかいなお前。しかし……重いな」

「グ、グエンさん」


 キトが駆け寄ってきた。

 垂れ耳をぴくりと動かして、デラダンの様子を伺っているようだ。頭に被っていたヘルメットは、首にかけて背中側に垂らしている。


「おう、やっと終わったぞ、キト」

「あ、あの、グエンさん……」

「なんだ、キトもこのデカブツをぶん殴りに来たのか?」

「え、え? う、ううん。そ、そんなことしないよ」

「いい心がけだ。殴るなら正々堂々、な。で、どうした?」

「あの、お金取るのは、許してあげてほしくて……」

「お金? あー……ああ! こいつから飯代を回収してやるって言ったやつか」

「う、うん。ぼく、ご飯、我慢できるから、悪いことはしないであげてほしいな……」

「ははは、忘れてた。そうだな、キトに免じて許してやろう。飯は俺のおごりだ。っと、ふう、重いな、ほんとに」


 グエンは襟首を掴み引きずっていたデラダンを、大隧道の壁へ座らせた。

 無言で去ろうとする背中に、デラダンが唸る。


「……ま、待ちやがれ……て……めえは何もんだ……」

「俺はグエン・クロイドだ。本日、クエスタ正規隊員にお取立て頂いたばかりの新人だよ。今後ともよろしくな」

「こ、このまま済むと思うなよ……てめえ」

「おいおい、なんだその情けない捨て台詞は。偉そうに男を語った口はどうした。ぶん殴られて恥と一緒に道路に落としたか?」

「ぐっ……う、うるせえ……」

「ま、男なら、明日の自分に笑われないよう生きろよ。今のままじゃ、だせえだろ、お前」

「……」

「男も女も関係ないとは思うが、けど、お前の中にもあるんじゃないのか? 答えが」 


 身も心も打ち据えられ、身の丈2m以上もある筋骨隆々な大男は、今や見る影もなく小さくうなだれた。


「二度目はないぞ。じゃあな」


 グエンは横に立っていたキトに目配せすると、グランディアの方へと歩きだした。

 キトは小首を傾げた。

 立てていた垂れ耳を下ろすと、すぐにグエンの後を追って駆け出す。


 モービルに戻ったグエンは、ベルトに吊っていた濡焔を外し、車体脇のホルスターに差し込み固定した。

 手際よく支度を進めていると、背後の気配が全く動いていないことに気付く。

 振り返れば、垂れ耳をピコピコと動かして自分を見つめているキト。

 ヘルメットも被らず、棒立ちだ。


(キトを守れて良かった。が、エンブラ相手とは違って、ちょうど良く手加減するってのは骨が折れるな……白騎士相手の方がまだ楽だ)


 グエンはヘルメットをキトの頭に被せると、緩んだ顎ベルトの長さを整えてやった。

 そして、両脇に手を回してその小さな体を持ち上げ、シートに座らせる。


「ヘルメットはちゃんと被れ。危ないからな」

「う、うん。えへへ」

「んで、オライオンは……もうねぐらで寝てんのか。よく寝るなあ」

「あ、あの、ボクのせいで……ご、ごめんなさ」


 伏し目がちで言うキトの言葉を、グエンは遮った。


「世の中ってのは、悪いことをするやつが悪いんだ。で、キトは悪くない。だろ?」

「……そ、そうかな。……あ、これ」


 キトは青いツナギのポケットをまさぐる。

 彼が差し出したのはサングラス。

 グエンは受け取ったサングラスをかけた。


「おう。さあ、ガイドはこれからだ! 頼むぜ!」

「あ、あのね。ねえ、グエンさん、大隧道には何しにいくの?」

「あれ? 言ってなかったっけ? 依頼でさ、女の人を守りに行くんだよ。エリエラって人」

「守るの? そっかあ。グエンさんって守るの得意だね」

「……はは、そうだな。もっと上手くならないとな」


 グエンはモービルをゆっくり発進させた。

 大排気量の単気筒特有の鼓動音が、大隧道の壁面を叩き重低音を反響させ、三輪の大型モービルを加速させていく。


 

 デラダンは壁にもたれかかったまま、大隧道奥へ向かう黒い車体に灯るテールランプを横目で追った。

 壁に手をつきながらよろよろと立ち上がり、声を絞り出す。


「ち、ちきしょうめ。男なら……かよ……」


 デラダンは拳を壁に叩きつけ、項垂れた。

 グランディアの音が遠ざかったのを確認し、ジアとユイークが近くの非常扉を開けて顔を出した。


「ほら~、ユイーク~。もう大丈夫っぽいよ~」

「ふええん……う、ひっく、デラダンの兄貴は……? 生きてる?」

「ん~、大丈夫っぽい。ほら~、いこ~」

「う、うん……」


 安全を確認したジアがユイークの手を引き、デラダンの元へと駆けて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ