1-34.デラダン一味との闘い
「通行税? それもクエスタから公式の御達しってやつか?」
「おうよ! 世の中、金さえ出しゃ大抵うまく転がるってもんよ。それが嫌なら、会長の命令通りにそのガキは大隧道から強制排除だ」
「話が繋がってないな。ま、大方、賄賂かゆすりか。権力の傘の下で小銭をちょろまかす輩は、どこの世界にもいるもんだ。な? ゴロツキ」
「あんだと! このチビ! この筋肉が目に入らねえのか! 捻りつぶすぞ!」
デラダンは顔を真っ赤にして怒鳴ると、放電するスタンロッドを握ったままポージングを見せつけた。
スキンヘッドに刻まれたハートのタトゥーが、隆起した血管で歪んでいる。
渾身の威嚇を受け、グエンは鼻で笑う。
「ふっ……よし、こうしよう」
腰に下げた軍刀【濡焔】の護拳に、左手を添える。
「俺がお前らの代りに、お前らから通行税を徴収してやろう。そろそろ昼時だろ? 俺たちの飯代くらいは持ってるだろ。お前ら」
「な」
何を言いやがる!と文句の一つも言おうとデラダンが口を開いた時、既に濡焔が引き抜かれていた。
指先に伝わる僅かな衝撃を受け、手元のスタンロッドを見て驚愕する。
「んなっ! て、てめえ!」
「ひえ……き、切った。……あれ、な、なんで感電しないの……? 何あのガラスみたいな剣……」
ジアは、地面に転がる切断されたシャフト部と、濡焔のクリアブルーの刀身を見て目を丸くする。
アスファルトの上を転がるスタンロッドは、わずかな放電を最後に沈黙した。
ユイークがゴーグル型のモバイルを脳波で操作し、レンズディスプレイ上に3台のモデリングされたモービルを映し出した。
オートドライブを起動し、脳波によってモービルに動作命令を打ち込んでいく。
「面白いじゃん! 新しく組んだオートドライブのテストに丁度いいや! ジア! あんたどうすんの? 先にいく? クロスボウを改造したって言ってなかった?」
「……ひええ、な、なに言ってんだよ……? 危ないじゃんかあ……」
「無知でいくじなしってやだね! 見てなよ!」
頭を抱えてしゃがみこむ兄をよそに、彼女はスタンロッドを抜いた。
スタンロッドを振りシャフト部を進展させるが、放電する代わりに先端部が青く明滅しはじめる。
停車していた3台のライトが点灯し、折りたたまれるバリケード。
3台のうち、両脇に止めた中型モービル2台の後輪がホイールスピンを始めると、アスファルトとタイヤの摩擦で白煙を上げながら急発進した。
無人モービル2台は二手に分かれ、デラダン、ジア、ユイークの3人を避けて大きく迂回すると、グエンを挟み撃ちすべく加速していく。
「かすればイチコロだ! スタンロッドの倍の出力だよ!」
グエンに向かってスタンロッドをかざすユイーク。
そのスタンロッドの先端、青い光に反応するように、無人のモービル全体がプラズマを纏った。
運転手を乗せずに自走するモービルに、狙われた本人は苦笑した。
「モービルミサイルってか? 時代も変わったもんだ」
スロットル全開のまま、両サイドから迫り繰るモービル。
左右から突っ込んでくるモービルに対し、直前まで引きつけると、グエンは真上に飛び上がった。
プラズマをまき散らした2台のモービルが風を切り、足元で交差していく。
(ん、避けた2台が正面衝突してオシャカってのは無理か。やるな)
「はっ! 無知なやつ! 自滅でも狙ったのか! 自動制御なめんな! いくら避けても何度でも狙うさ!」
その言葉通り、モービルはターゲットを再度見定めると距離を取り、大きく迂回し起動を修正する。
「おい! 鉄パイプよこせ! ブーツもだ!」
「わっ」
野太い大声に、ジアはびくりと体を震わせた。
辺りを見渡すと、デラダンの視線に気づき大慌てで壁際へ走る。
壁へたどり着く。
置いておいた箱型のバックパックを背負い、建築資材の一部と思われる長い鉄パイプを拾い上げ、急いでデラダンの元へと走った。
「まずはブーツだ!」
「ブーツじゃなく、ぐ、颶風だよ」
デラダンの前に立ったジアはくるりと背を向け、バックパックを見せた。
ユイーク同様、脳波でディスプレイを起動し操作を始める。
ただし、彼の場合は網膜ディスプレイ。
網膜のように生体パーツを媒介とし、脳波で操作することは【ノック】すると呼称された。
網膜ディスプレイに表示されたブーツ上の3Dモデルの各部をノックし、起動作業を進める。
長方形のバックパックが上下左右に展開し、中からスタンドに掛けられた一足のロングブーツがせり出す。
ダークグリーンの金属光沢を放つロングブーツは、パズルのように組まれた分厚い金属パネルで構成されており、金属パネル同士の間には指が入るほどの隙間が空いていた。
「い、いいよ」
「うおっしゃ!」
デラダンはブーツを手に取り、靴の上から足をねじ込む。
膝上まであるロングブーツはデラダンの大きな足に合わせ、金属パネル間の隙間が調整され、形状を記憶し固定される。
「この生き物みてえな履き心地がたまらねえぜ。さすがジアだぜ!」
「へ、ふへへ。エンブラの技術を真似て、ヘビークラストのパーツに転用して……へへへ」
栗色の前髪の下で、ジアは照れ隠しに俯いた。
網膜内のディスプレイを脳波でノックし、自慢の高機動具足【颶風一式】起動を完了させる。
「足だけで、ぶ、武器は繋がってないから」
「足さえありゃ、あとはこいつがあれば十分だぜ」
デラダンは鉄パイプを受け取る。
2mほどある鉄パイプを地面と水平に構え、膝を曲げて腰を落とし前傾姿勢を取った。
颶風のGセンサーが微細な傾きを正確に捉え、小さなモーター音と共に靴底に内蔵されたタイヤが駆動し滑るように前進する。
「次に避けた時が最後だぜ」
デラダンの睨む先、グエンは濡焔の護拳に左手を置いたまま、迫りくるモービルを見つめていた。
鼻につく白煙とエンジン音、さらにスキール音をまき散らした2台のモービルが、再び標的を挟み撃ちするべく突撃する。
「なるほどな。人間よりも正確な運転を再現して、延々と挟み撃ちってことか。で、狙いは放電部の接触。さしずめ俺を感電させたいってとこか」
左手で鞘をしっかり掴むと、デラダンに向かって三歩、歩みを進める。
接近戦を警戒して鉄パイプを構えたデラダンだが、グエンは三歩以上動かなかった。
訝しむデラダンをよそに、軌道を修正した2台のモービルがプラズマをまとい、グエンの両側から再度迫った。
ユイークは、ゴーグルのレンズディスプレイに映った制御コードの羅列と、モービルのバーチャル映像、実際の映像を注視しながら叫んだ。
「次も避けようってんだろうけど、何度も避けられっか! これでどうよ!」
2台のモービルのエンジンがひと際大きく唸り、前輪が浮き上がった。
角度にして60度、鎌首をもたげる蛇のようなモービルの前輪部は、グエンの背丈を優に超えている。
離れた場所で自体を見守っているキトが反射的に声を上げた。
「あれじゃジャンプしても当たっちゃう! ど、どうしよ……」
ウィリー走行を始めたモービルを見て、デラダンも飛び出す。
急加速する颶風。
「いくぜえ!」
「これで飛び越せないだろ!」
勝機と見たデラダン、勝ち誇ったユイークの声を耳にしても、グエンは冷静だった。
「前輪を浮かせたら小回りが効かないだろ。ありがとよ、避けやすくしてくれて」
モービルが接触する刹那、後方へ大きく飛び退くと空中で軍刀濡焔を引き抜く。
蒼氷の斬撃が、ウィリー走行で露になった前輪のシャフト部だけを正確に切断した。
前輪部を失ったモービルはバランスを失い、左右に揺れ、ウィリー走行を保てず横転する。
一方、無傷のモービルは軌道を修正し、再び周回ルートへ戻っていった。
着地するグエンに向かい、デラダンが猛烈な勢いで迫る。
まるでアイスホッケー選手のように地面を滑り、2mの鉄パイプをフルスイングした。
「調子に乗るんじゃえねえ! ぶっ殺してやる!」
「おっと」
着地際のグエンに振り下ろされた鉄パイプ。
盾のようにかざしたクリアブルーの刃が深々と食い込み、小さい衝突音を立て両断された。
断ち切られた鉄パイプの破片は弾かれ、放物線を描き大隧道の壁側へまっすぐ飛んで行った。
「ちっ!」
デラダンは即座に左側へ重心を傾け急旋回すると、颶風を駆り、大隧道の壁に触れる間際の鉄パイプへ追い付き空中で受け止めた。
「もういっちょ行くぜ! このチビが!」
「あのデカブツ、速いな。あれに追いつけるのか。……あのブーツやら無人モービルも厄介だが、ここに飛び道具があるとまずいな」
その懸念は的中していた。
前輪を失い転倒したモービルの傍ではジアが車体をまさぐり、その手にはライフル状の物体が光る。
「なら、手加減はできないな!」
グエンの左頬、首筋から頬にかけて深紅の火焔文様が浮かび上がった。
紅い髪が熱にたなびき、瞳が熾火の如く輝く。




