1-17.介入①
――数分前、世界樹公園に面した道路へ、8台の軍事用車両が到着した。
先頭に装甲車が一台、続く7台は兵員搬送用の幌車だ。
停車と同時に、オレンジ色の戦闘服に身を包み銃火器で武装したクエスタ治安維持部隊員が、車両から途切れなく降りてくる。
淀みない動きで広場へ進入し、短い号令もいらないほど素早く整列していった。
そこへ遅れて一台のモービルが到着した。
治安維持部隊員が運転するモービルの後部席には、一人だけ場違いなスーツ姿の女性が乗っている。
歩道の段差を軽く乗り越え、広場へ進入するモービル。停車すると、彼女はヘルメットを外した。
栗色のポニーテールが揺れる。ユイナはジャケットのポケットからモバイルを取り出して耳に当て、凛とした声で指示を出した。
「世界樹周辺に市民が集まっています。直ちに避難を促してください」
ほどなく、装甲車に設置されたスピーカーが唸りを上げ、世界樹へ向けて大音量の警告を放った。
『クエスタ治安維持部隊だ! 道を開けろ! 直ちに暴徒を制圧する!』
警告の直後、整列した部隊は世界樹を目指して一斉に動き出した。
道路に面した駐車場から石畳の道へ雪崩れ込み、階段を駆け上がり、公園中央へ向けて走って行く。
世界樹へ続く広場では、背後から叩きつけるような大音量に野次馬たちが息を呑み、次の瞬間、蜘蛛の子を散らすように左右へ割れていった。
人の群れが作る一本道を、オレンジの部隊が一斉に駆け抜ける。
ユイナが乗るモービルのハンドルを握る隊員が言う。
「我々はモービルのまま行きます。こいつなら通れるので」
ユイナが乗るモービルだけは進路を変え、駐車場脇の細い通路へ滑り込んだ。
徒歩で進む治安維持部隊と並走し、合流すると隊員たちを追い越していく。
クエスタ部隊と共に世界樹に到着したユイナは、世界樹の足元で繰り広げられる光景に、思考が一瞬だけ追いつかず目を見開いた。
「な、何が起こっているんですか」
エンブラ兵と白鯨騎士団、30人以上の兵が世界樹の周りに集まり、二人の一般人を包囲していた。
その一般人は腰に下げた銃器のようなもので白鯨騎士を撃ちまくったかと思えば、炎をまき散らしながら、副官ゲイドラと派手に斬り合いを始めている。
ユイナは拡声器のマイクを口元に当て、大きく息を吸った。
『そこまでです! 双方とも、ただちに戦闘を中止してください!』
彼女の言葉にグエンとゲイドラが静止したのは、クエスタ治安維持部隊が世界樹の根元になだれ込んだのとほぼ同時だった。
クエスタ部隊は、エンブラ兵のさらに外側へ扇状に散開し、そのまま円環を描くように包囲を完成させると、アサルトライフルを構え各自狙いを定めた。
「邪魔が入った。ゲイドラ、戻れ」
「はっ……」
レオンは右手を掲げ、一拍置いてから下ろした。
団長の指示を見て取り、白鯨騎士団はグエンの動向を注視しながらも、レオンのもとへと集結する。
(こうなると面倒だな)
クエスタ部隊の介入を受けて、グエンは苦々しい表情を浮かべ、刀を鞘に納めた。
モービルから降りるユイナ。
彼女はオレンジ色の戦闘服の隊員を4人伴い、レオンに歩み寄る。
先に口を開いたのはレオンの方だった。
「一つ聞きたい。……あの赤髪の男、クエスタの人間か?」
レオンはグエンを指差す。
ユイナはグエンを一瞥し、すぐにレオンに向き直った。
「いいえ、クエスタの隊員ではありません。我々とは無関係の方です。我々としても事態が飲み込めていません。何が起きたのかはこれから調査いたします。改めてご連絡さしあげますので、この場はお引き取り願えませんでしょうか?」
「クエスタの人間でなければ問題あるまい。あの男、このままこちらに引き渡して貰おう」
「それはできません。バナーバル内で起きたことです。バナーバルの法に従いクエスタが対応いたします」
「我が兵には被害が出ている。このまま黙っていろと?」
「レオン様御一行は本日到着されたばかりです。ご存じないでしょうが、バナーバルに駐留しているエンブラ軍により、クエスタだけでなく、市民にまで死者が出ています。ですが、諍いの拡大は、我々クエスタの望むところではありません」
ユイナはまっすぐレオンの目を直視し、凛とした口調で言葉を続ける。
彼女の態度に、レオンは小さくため息をつき、踵を返しユイナに背を向けた。
「ご婦人に対して、あまり強くは出られませんね。我らは使者の責務を全うしましょう。白鯨騎士団! レイヴン隊! 撤収だ! 急げ!」
「寛大なご判断、痛み入ります」
レオンはグエンを横目で捉えながら、部下を引き連れユイナ達から離れていった。
ゲイドラがレオンの元へ足早に駆け寄る。
「……あちらはどういたしますか」
ゲイドラの視線の先では、エリエラがクエスタの治安維持部隊に保護されていた。
レオンは耳にかかる金髪を掻き上げた。
「……手は打ってある」
レオンの言葉にゲイドラは無言で頭を垂れた。
「やっぱり! あーしのモービルじゃん! はあ!? ちょ! まじ最悪なんだけど!」
ゲイドラは頭を垂れたまま横目で、世界樹の方向を見た。
石垣段の瓦礫前で、レイヴンが悪態をまき散らしながら瓦礫を撤去している。
ゲイドラは姿勢を正し、一つ大きな息を吐いた。
「まったく……おい! 手の空いているものはレイヴンを手伝ってやれ!」




