表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の巡り人  作者: 蔵人
第1章 邂逅のバナーバル
PR
47/116

1-16.大樹の下で 対白鯨騎士団③

 グエン達を包囲するエンブラ兵。

 そのさらに外側、見物に集まった野次馬の輪から、ざわめき混じりの声が上がった。


「おい、あれって銃か? なんか鞘から燃える弾が飛んだよな?」

「それより、あの赤毛のやつ顔が燃えてねえか? あの顔の模様とか」

「模様っていうより入れ墨か? まるで戦姫殺し……」

「しっ! エンブラ兵がいるんだ、滅多なこと言うもんじゃねえぜ」

「けどよ、あの白い奴ら、駐留軍とは雰囲気違うぜ?」

「なに言ってるのよ、エンブラはエンブラでしょ」

「それはそうだな……」

「そんなことよりクエスタは何してんだ! 誰か通報したか!?」


 

 グエンの警戒をよそに、ゲイドラは何をするでもなく、ゆっくりと仲間のもとへ合流した。

 レオンの側へ戻ると、胸に拳を当て、儀礼的ともいえる浅い礼で頭を垂れる。


「若、祝福の許可を!」

「それほどか。あれとやり合うのは骨が折れると。この私自らが手を下そうか」

「いえ、若のお手を煩わせるほどでは。我が重槍が一振りあらば事足ります。が、あのイオルという小僧が邪魔したせいで……口惜しい限り!」

「いいだろう、ただし、ゲイドラだけだ」

「はっ! ありがたく!」


 ゲイドラはグエンに向き直り、腰から下げた大剣を引き抜いた。

 そして、大楯を構えた二人の白鯨騎士のうち、左側の騎士の横で足を止める。


「盾を借りたいが、良いか」

「は、どうぞ」

「すまんな」


 大楯を受け取ったゲイドラは最前列へと歩み出る。

 分厚い盾を正面に構え、グエンを睨みつけると、腹の底から一喝した。


「背後から奇襲をしかけるとは卑怯なり! この痴れ者が! ワシ自らが引導を渡してくれる!」

「卑怯? 他国に攻め入って、無抵抗な村人を皆殺すエンブラという頭のおかしな国があるが、それは卑怯とは言わないのか?」

「下国の民が戯言を! 正義の名のもとに、粛清と犠牲はつきものだ!」

「しゃべれるゴミってのはタチが悪いな。エンブラ産のゴミは焼却するに限る」


 怒気を孕んだグエンの声に呼応するように、火焔紋様が燃え上がった。

 左頬から立ち上る炎はやがて全身を包み込み、熾火のような赤い光を放つ。


「面妖な……。だが、我が主リーナディス陛下と、礎の女神ダナートニアの敵ではないわ!」


 ゲイドラは自身の左胸を強く打ち鳴らした。

 甲冑に描かれた白鯨の紋章が押し込まれ、淡く明滅する。

 その光は金の装飾を伝い、甲冑全体へと走った。


「ぬうううっ!」


 明滅に呼応するようにゲイドラの肉体が痙攣し、甲冑の装飾部が軋みを上げて割れ、外へと押し広げられていく。

 光が落ち着いた時には、ゲイドラの体は一回りも巨大化していた。

 兜の隙間から覗く顔には血管が浮き上がり、双眸には薬物使用を思わせる異様な興奮が宿っている。


「ぐふううぅ……祝福が漲っておるわいっ!」

「なるほど、愉快なエンブラ王家もどきってことか」

「減らず口は、地の底、冥府の神シデネアクタの御前でするが良いわ!」

「次のやつからは、ヤクを決める前に燃やしてやるよ。ドーピング騎士団」


 言い終わるより早く、グエンは腰だめのまま鞘口から火炎弾を連射した。

 大楯を構えたまま、ゲイドラが走る。

 火炎弾は盾に直撃して弾け散ったが、重く構えられた大楯と猛進する勢いに押し流され、炎は後方へと引き裂かれるように霧散していく。


(これは予想通りだが)


 迫り来る巨体を見据え、グエンは瞬時に思案する。

 一人対多数であれば、周囲ごと炎で包めば済んだ。消耗は激しいが、確実で、一瞬だ。

 だが背後には守るべきエリエラがいる。

 さらに、すぐ近くにはバナーバル市民の姿もあった。


「なら、一匹ずつ確実に駆除するか」


 白い巨影が迫り、大剣が振り下ろされる。

 グエンは半身でそれを躱した。大剣は石畳を砕き、割れた石片が宙を舞う。

 踏み込んだゲイドラが、大楯で押し潰しにかかる。

 石片が盾に弾かれ飛散するが、そこにグエンの姿はない。


 左手の大楯、その死角。

 回り込んだグエンが、ゲイドラの左脇腹へ軍刀を突き立てた。


「ぐっ! こざかしい!」


 小さく呻きながらも、即座に振り向き、大剣を薙ぐ。

 グエンは身を沈め、風を裂く轟音を潜り抜けた。

 互いに距離を取り、再び対峙する。


「堅いな。甲冑を貫いたと思ったが」

「ふん、祝福は我が肉体、そして鎧も強化するのだ」

「意味がわからんが……なら、こっちもサービスしてやるか」


 頬に浮かぶ火焔紋様がひと際輝く。

 薄く全身を包んでいた炎の膜が、軍刀『濡焔(ぬれほむら)』へと集束していく。

 クリアブルーの刀身は赤く染まり、橙色の光を増していった。

 高熱により、刀身の周囲の景色が歪み、揺らぐ。


 紅蓮の太刀筋が走る。

 上段からの一撃を、ゲイドラの大剣が受け止めた。

 女性の背丈ほどもある大剣を、片手で小枝のように操り、受け、流し、切り返す。


 だが、数度斬り結ぶうちに、剣越しに伝わる違和感に、ゲイドラは眉をひそめた。

 一太刀を弾いて数歩後退ると、手にした大剣を見て仰天する。


「陛下から賜った我が(つるぎ)が!」


 大人の首ほどもある幅を誇る剣身は、細かく刻まれ、切断寸前に追い込まれていた。

 左手の大楯にも溶断の痕が走り、穴の開いた盾越しに向こう側が覗き見える。


「ぬうう、なんだと言うのだ、貴様は……!」


 歯を食いしばり、軋む音を立てながら、ゲイドラはグエンを睨み据える。

 グエンは答えない。


(これでもまだ火力が足りないか。なら……)


 軍刀『濡焔(ぬれほむら)』から、さらに炎が噴き上がった。

 強烈な熱が空気を震わせ、対峙するゲイドラにも伝わる。

 兜の隙間から覗く白髭が焦げ、嫌な臭いを放った。


「つっ!」


 あまりの高温に、ゲイドラは後退(あとずさ)った。

 グエンが踏み出そうとした、その瞬間。


『そこまでです! 双方とも、ただちに戦闘を中止してください!』


 拡声器越しの女性の声が、場を切り裂くように響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ