0-23.ゴカ村襲撃③
「全支部同時……」
「なんでそんな……。え、おやっさん支部にいたの?」
「ここまで逃げてくる前に、顔見知りの隊員と合ってな、もう死んだが……。内部から手引きしている奴がいる……カガミには、ゲン爺の管理小屋に行けと、伝えた。あそこなら……人気もなく、裏手の山道へ逃げられる……」
「おやっさん! 今、止血を」
「わかるな、カガミと逃げ……」
カンカラ社長を支えつつ周囲を警戒していたアリスカが、吠えた。
「コテツ! 敵だ! おやっさんは伏せてて!」
アリスカはカンカラ社長の体を地面に伏せさせると、自らも転がるように移動し、うつ伏せのまま表通りへ発砲を繰り返した。
一拍遅れて、コテツも表通りを視認する。新たに十数人の人影。
新手へ射撃した瞬間、アリスカの檄が飛ぶ。
「コテツ! こっちへ来い! 間に合わない!」
呼ばれるまま、コテツは声の方向へ走った。
表通りからは柱のでっぱりで死角になる、建物の陰。
そこへ飛び込んだ途端、嵐のような銃弾が浴びせられる。
「うおおお!」
一斉射撃による弾丸がコンクリートを叩く激突音と、耳をつんざく轟音。
思わず身が縮み上がる。
「ちっ! 数が多い!」
「何人ですか!」
射撃が一度落ち着き、アリスカは壁越しに応戦しながらコテツを一瞥した。
「クロイド遺構をお目当てに団体さんの御到着だ。観光地は人気過ぎてつらいねえ」
壁から半身になり、銃口を覗いたアリスカが固まる。
見覚えのある栗毛の青年と、視線が合った。
「あいつは……まさか」
銃声の中、その呟きは彼女にしか届かない。
コテツが応戦しようとした瞬間、アリスカが手で制した。
直後、再び一斉射撃。建物めがけて銃弾が叩き込まれる。
コテツが身をかがめる一方、アリスカはいつもと変わらぬ動きでズボンの尻ポケットを探り、タバコの箱を取り出した。
「いいかコテツ、カガミと逃げろ」
「け、けど!」
「コテツ、お前いくつだ?」
「え、二十歳ですが」
「かー! なんだ、三つも年下の女にいつも手を引っ張ってもらってんのか、お前」
「え、そ、んな、そんなことないですよ」
アリスカはタバコを咥え、火をつける。
その先に灯る小さな火を、コテツは思わず見つめていた。
「禁煙、いいんですか?」
「ふー……人生で二日も禁煙したんだ、ウチ史上最長記録更新したし、十分だろ。それより、見ろ」
紫煙をくゆらせながら、タバコの火で通路を指す。
そこには仰向けに倒れるカンカラ社長と、先ほどと変わらぬ姿勢のまま倒れるマダムがいた。
「さっきの銃撃は、二人を狙いやがった。……ここはアタシが時間を稼ぐ。行け」
「いや、そんな! 隊長一人じゃ!」
「誰にものを言ってる? ウチに勝てるのは、ゴカ全支部でもイツキ隊長くらいだ」
アリスカは腰に下げた手榴弾のピンを抜く。
「いつのまにそんなのを」
「さっきのやつが、エンブラ土産だってくれたんだよ」
にやりと笑い、壁越しに手榴弾を放り投げた。
「ほら、ママからのパイナップルだ! 返すぜ!」
直後、爆音と悲鳴。
「今ので死んでりゃいいけど……。さ、退くぞ。あちらの返礼品も届きそうだ」
「りょ、了解」
走り出すコテツへ、怒号が飛ぶ。
「もっとだ! ちんたら走ってんじゃねえぞ! 死にたいか!」
全力疾走。
距離を稼ぎ、建物を数軒横切ったところで振り向く。
だがアリスカは、まだ通路沿いにいた。
彼女は手榴弾のピンを抜き、コテツの方へ転がす。
「ちょ!」
慌てて路地の奥へ滑り込む。
数秒後、先ほどの地点で手榴弾が炸裂し、破片が壁面を叩いて窓ガラスを割った。
「コテツ! お前は足手まといだ!」
路地の入口に住民が集まり始める。
別動のエンブラ兵がそれを発見し、銃声と爆発が連なった。
迫る惨状を、アリスカは悟る。
「潮時にしちゃ早いんだよ。御覧の通り、か弱い乙女だぞこっちは……。世界樹探しの冒険とか……したかったねえ」
意を決し、路地へ向けて叫ぶ。
「いいか! 間に合わなくなる前に行け! 守るものを間違えるなよ!」
タバコを吐き捨て、柱の陰から飛び出す。
一人、エンブラ兵へと向かった。
コテツは、手榴弾が炸裂した地点に立ち、消えたアリスカの姿を探した。
「アリスカ隊長! こんな……」
一歩踏み出しかけ、言葉を反芻して足が止まる。
――守るものを間違えるなよ
今、何を守るべきか――考えるまでもなかった。
コテツは壁を殴り、踵を返す。
「カガミ、頼むから無事でいてくれ!」
銃撃音に背を向け、暗い路地裏へ飛び込んだ。
建物の間を縫うように駆けながら、頭上を移動するエンジン音を捉える。
クロイド遺構方向へ、誰かがPFGで移動していた。
「全支部が同時に攻撃されたなら、これを使っているのはエンブラのやつらか、クソ」
頭上からの襲撃を警戒し、進路を変える。
コテツは横道へと身を滑り込ませた。




