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世界樹の巡り人  作者: 蔵人
第0章 ゴカ殲滅戦
23/84

0-23.ゴカ村襲撃③

「全支部同時……」

「なんでそんな……。え、おやっさん支部にいたの?」

「ここまで逃げてくる前に、顔見知りの隊員と合ってな、もう死んだが……。内部から手引きしている奴がいる……カガミには、ゲン爺の管理小屋に行けと、伝えた。あそこなら……人気もなく、裏手の山道へ逃げられる……」

「おやっさん! 今、止血を」

「わかるな、カガミと逃げ……」


 カンカラ社長を支えつつ周囲を警戒していたアリスカが、吠えた。


「コテツ! 敵だ! おやっさんは伏せてて!」


 アリスカはカンカラ社長の体を地面に伏せさせると、自らも転がるように移動し、うつ伏せのまま表通りへ発砲を繰り返した。

 一拍遅れて、コテツも表通りを視認する。新たに十数人の人影。

 新手へ射撃した瞬間、アリスカの檄が飛ぶ。


「コテツ! こっちへ来い! 間に合わない!」


 呼ばれるまま、コテツは声の方向へ走った。

 表通りからは柱のでっぱりで死角になる、建物の陰。

 そこへ飛び込んだ途端、嵐のような銃弾が浴びせられる。


「うおおお!」


 一斉射撃による弾丸がコンクリートを叩く激突音と、耳をつんざく轟音。

 思わず身が縮み上がる。


「ちっ! 数が多い!」

「何人ですか!」


 射撃が一度落ち着き、アリスカは壁越しに応戦しながらコテツを一瞥した。


「クロイド遺構をお目当てに団体さんの御到着だ。観光地は人気過ぎてつらいねえ」


 壁から半身になり、銃口を覗いたアリスカが固まる。

 見覚えのある栗毛の青年と、視線が合った。


「あいつは……まさか」


 銃声の中、その呟きは彼女にしか届かない。

 コテツが応戦しようとした瞬間、アリスカが手で制した。

 直後、再び一斉射撃。建物めがけて銃弾が叩き込まれる。


 コテツが身をかがめる一方、アリスカはいつもと変わらぬ動きでズボンの尻ポケットを探り、タバコの箱を取り出した。


「いいかコテツ、カガミと逃げろ」

「け、けど!」

「コテツ、お前いくつだ?」

「え、二十歳ですが」

「かー! なんだ、三つも年下の女にいつも手を引っ張ってもらってんのか、お前」

「え、そ、んな、そんなことないですよ」


 アリスカはタバコを咥え、火をつける。

 その先に灯る小さな火を、コテツは思わず見つめていた。


「禁煙、いいんですか?」

「ふー……人生で二日も禁煙したんだ、ウチ史上最長記録更新したし、十分だろ。それより、見ろ」


 紫煙をくゆらせながら、タバコの火で通路を指す。

 そこには仰向けに倒れるカンカラ社長と、先ほどと変わらぬ姿勢のまま倒れるマダムがいた。


「さっきの銃撃は、二人を狙いやがった。……ここはアタシが時間を稼ぐ。行け」

「いや、そんな! 隊長一人じゃ!」

「誰にものを言ってる? ウチに勝てるのは、ゴカ全支部でもイツキ隊長くらいだ」


 アリスカは腰に下げた手榴弾のピンを抜く。


「いつのまにそんなのを」

「さっきのやつが、エンブラ土産だってくれたんだよ」


 にやりと笑い、壁越しに手榴弾を放り投げた。


「ほら、ママからのパイナップルだ! 返すぜ!」


 直後、爆音と悲鳴。


「今ので死んでりゃいいけど……。さ、退くぞ。あちらの返礼品も届きそうだ」

「りょ、了解」


 走り出すコテツへ、怒号が飛ぶ。


「もっとだ! ちんたら走ってんじゃねえぞ! 死にたいか!」


 全力疾走。

 距離を稼ぎ、建物を数軒横切ったところで振り向く。

 だがアリスカは、まだ通路沿いにいた。


 彼女は手榴弾のピンを抜き、コテツの方へ転がす。


「ちょ!」


 慌てて路地の奥へ滑り込む。

 数秒後、先ほどの地点で手榴弾が炸裂し、破片が壁面を叩いて窓ガラスを割った。


「コテツ! お前は足手まといだ!」


 路地の入口に住民が集まり始める。

 別動のエンブラ兵がそれを発見し、銃声と爆発が連なった。

 迫る惨状を、アリスカは悟る。


「潮時にしちゃ早いんだよ。御覧の通り、か弱い乙女だぞこっちは……。世界樹探しの冒険とか……したかったねえ」


 意を決し、路地へ向けて叫ぶ。


「いいか! 間に合わなくなる前に行け! 守るものを間違えるなよ!」


 タバコを吐き捨て、柱の陰から飛び出す。

 一人、エンブラ兵へと向かった。


 


 コテツは、手榴弾が炸裂した地点に立ち、消えたアリスカの姿を探した。


「アリスカ隊長! こんな……」

 

 一歩踏み出しかけ、言葉を反芻して足が止まる。


 ――守るものを間違えるなよ


 今、何を守るべきか――考えるまでもなかった。

 コテツは壁を殴り、踵を返す。


「カガミ、頼むから無事でいてくれ!」


 銃撃音に背を向け、暗い路地裏へ飛び込んだ。

 建物の間を縫うように駆けながら、頭上を移動するエンジン音を捉える。

 クロイド遺構方向へ、誰かがPFGで移動していた。


「全支部が同時に攻撃されたなら、これを使っているのはエンブラのやつらか、クソ」


 頭上からの襲撃を警戒し、進路を変える。

 コテツは横道へと身を滑り込ませた。

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