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世界樹の巡り人  作者: 蔵人
第0章 ゴカ殲滅戦
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22/121

0-22.ゴカ村襲撃②

 アリスカはコテツから視線を外し、大通り側へ歩き出した。

 彼女の向かった先で、カンカラ社長の声が響く。


「マダム! どこを撃たれた!」

「あ、足を」


 カンカラ社長はズボンからベルトを引き抜くと、苦痛でうめくマダムの右太ももを縛り上げる。


「ひとまず止血をするんで、我慢してくださいよ!」

「は、はい。カンカラさん、ありがとうございます」


 手当をしながら、カンカラ社長は照れたように笑う。


「いやあ、こんなの普通ですよ。普通、はっはっはっ」

「カンカラさん、肩から血が」

「こんなのかすり傷ですよ。はっはっは。三角筋ですぐ止血されますから!」


 コテツは二人の無事を見て、胸の奥がほどけるのを感じた。

 だが次の瞬間、表通り側から複数人の足音が鳴る。

 数人のエンブラ兵が接近していた。

 距離は30mほど。だが、エンブラ兵は明らかにカンカラ社長とマダムを捉えていた。


「くっ! おやっさん!」


 言うが早いか、コテツの体が反射で動いた。

 銃を構えるアリスカの横を駆け抜け、一直線に距離を詰めていく。

 アリスカは疾走していくコテツを見て舌打ちし、エンブラ兵へ照準を合わせた。


「コテツ! 援護する! 突っ込め!」


 援護という言葉で、コテツはようやく銃の存在を思い出す。

 先に銃を拾っておけばよかった――後悔が喉までせり上がる。

 だが今さら、そんな時間はない。コテツは思考を切り替え、全力で駆けだした。


「頼みます!」


 刀を抜いて走るコテツに、迎えるエンブラ兵たちは銃を構える。

 直後、コテツの後方からアリスカの援護射撃。

 四人中三人に命中し、二人が倒れる。

 撃たれた兵士は激高し、アリスカに向けて発砲した。

 無傷の兵士がコテツを狙う。

 だがコテツは、アリスカに撃ち返した兵士の体を盾にして射線を遮り、そのまま接近していった。


「この下国のサルが!」

「おせえ!」


 接近に気づいた兵士が銃口を向ける。

 すでに踏み込みは終わっていた。

 コテツ刀が閃き、兵士の左腕を中空へ切り飛ばした。

 衝撃でのけ反ったエンブラ兵士。

 その頭部を、アリスカの正確な射撃が撃ち抜く。


「うおおおお!」


 コテツは咆哮を上げ、頭部を狙撃されたエンブラ兵士の体に体当たりした。

 そのままエンブラ兵の体を盾に、背後の兵士へ突撃する。


「くっ! 卑怯な!」


 喚くエンブラ兵。

 仲間の体を撃てずに固まったところを、コテツが畳みかける。

 盾にしていた兵士を投げつけ、相手が仲間の体を受け止めるのを見て取ると、一気に踏み込み、顔面を横一文字に斬った。


「あがっ」


 エンブラ兵は顔面を斬られ、小さく悲鳴を上げた。

 そこへ、コテツに続いて前進していたアリスカがアサルトライフルを連射し、エンブラ兵の体をハチの巣にした。


 全弾撃ち尽くした銃を捨て、殺したエンブラ兵の銃を拾い上げるアリスカ。

 両手に持った銃のうち、一丁をコテツに渡す。


「よくやった」

「はぁ、はぁ……は、はい」


 コテツは肩で大きく呼吸をしながら、左手で銃を受け取った。

 右手には血濡れの刀を握りしめたまま、エンブラ兵の死体を茫然と見つめて立ち尽くしている。

 アリスカがコテツの頬を叩いた。


「お前がすべきことはなんだ! ユニオン第三支部のコテツ!」

「あ、お、俺は、皆を護る。……そう、そうだ。戦って皆を護ります!」

「その通りだ。気を抜くな。けど、人生初デートのときくらい集中しとけ」


 アリスカはコテツの肩を叩き、カンカラ社長とマダムのもとへ駆け寄る。

 慌ててコテツも二人の方向を見た。


「おやっさん! マダム!」


 カンカラ社長はマダムの体に覆いかぶさるようにして倒れていた。

 コテツは刀を鞘に納め、銃を持ち直して駆け寄る。


 アリスカに支えられ、上体を起こしたカンカラ社長が静かに言った。


「コテツ、アリスカ、逃げろ」


 カンカラ社長の傍にしゃがむコテツ。


「俺が守りますよ!」


 カンカラ社長はコテツの目を見て、首を横に振った。


「無理だ。この騒ぎに気付かないのか」


 コテツは、何のことかと呆ける。

 周囲では爆発音と銃声、悲鳴が途切れず、路地の先は燃える建物が夜空を赤く照らしていた。

 アリスカはじっと押し黙り、静かに聞いている。


「いや、だっておやっ……社長、俺は皆を守らないと」

「社長じゃねえ。おやっさんだ、わしは、おめえの親だ」


 絞り出すカンカラ社長の声に、コテツはいぶかしむ。

 横たわるマダムを抱くカンカラ社長の脇腹が、じわりと真っ黒に染まっているのに気づいた。


「う、撃たれて」

「気にすんな。いいからお前は逃げろ。カガミを連れてだ」

「あ、お、俺が峰打ちなんかしたせいで、あいつが集まってきて撃ったから、それで」

「うるせえ! いいから、言うことを聞け! カガミを探せ!」


 カンカラ社長はコテツの頭を殴った。

 殴られて尻餅をついたコテツが顔を上げると、カンカラ社長は倒れていた。

 コテツとアリスカが駆け寄る。


「おやっさん!」

「おやっさん、無理しないで」


 アリスカは膝立ちになると、カンカラ社長の体を支えた。

 カンカラ社長は肩越しにアリスカの目を見ると、次にコテツと目を合わせる。


「支部が真っ先に吹っ飛ばされた……巡回の隊員が集まったタイミングで、7つの支部が全部同時に、だ」

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