1-108.山を裂く者と眷属①
入口広場。
漆黒のヘビークラストが、胸に穴の開いたリクセンの胴体を投げ捨てる。
ヘビークラストは流線形の装甲で構成された、搭乗者が内部へ入り込む機械兵だ。濃化重銀をプラズマ処理し、爆発的な電力を生み出すことで人工筋肉アクチュエーターを自在に操り、人間のような挙動を可能にしている。
ヘビークラスト部隊である重殻機兵隊は、すでにリクセンを圧倒していた。
遺跡入口、二本の石柱の間を通り、新たに二機のヘビークラストが到着する。
『カグロ到着しました』
『ヨミルも到着しました!』
『交代お疲れ様です。ガングー、カグロ、ヨミルは私と一緒に生存者の救出へ向かいます! 他の者はリクセンの処理を続行してください! エンブラとの戦闘は避けるように!』
全機から『了解』と短い応答が返る。
イオル機のもとへ、ガングー機、カグロ機、ヨミル機が集まった。
それぞれ右アームに機械槍アンカーバスターを装備している。
イオル機とガングー機は左アームに長方形の大型シールド。
カグロ機とヨミル機は、左アームにガトリング砲を構えていた。
『私とガングーが先行します。カグロとヨミルは後ろからきてください』
『背中はまかせな』
『了解です!』
イオル機が先行して移動する。
三機が後に続いた。
『へっ。リクセンもほぼ片付けたろ。救出なんて、他のやつに行かせろよ』
『ガングー、油断は禁物です。任務に貴賤はありませんよ。我々の任務は』
『治安維持でーす。だっ、つーんだろ! わかってるよ! ああ、ったく、いつもいつもうるせえなぁ。行きゃいいんだろ、行きゃあよ。で、どこにいんだよ?』
『さきほど、作業員から連絡がありました。屋根の高い寄り合い所のような建物に避難しているそうです。そこだけ入口に鋼鉄製の扉があるそうですから、探しましょう』
『作業員は何人いるんだ? 隊長さん』
『二十二名が連れていかれたと聞いています』
『イオル隊長! リクセンは今戦っているので全部ですか!』
『それはわかりません。新たに、奈落坂から数体のリクセンが現れたようなので、まだこのあとも増援の可能性がありますよ』
『へっ。いくら来ようがあんなザコ、俺様の敵じゃねえ』
右アームの機械槍を無造作に振り回し、ガングー機がイオル機の前へ出る。
広場から奥を見れば、右手にエンブラの幕営と、エンブラ兵と墨影兵の戦闘エリアがある。
イオル隊は広場に繋がる三本の主要通りのうち、西側へ向かった。
『おそらく、西通りの入口にあるあの建物だと思います』
ディスプレイに映った映像を、味方機へ転送する。
ガングー達が映像を確認した瞬間、画面が大きく揺れた。
ォオオオオオオオオオッ!
地面が跳ねるように突き上がり、遺跡群を収める空洞全体が、まるで巨獣の口内のように轟音と共に揺さぶられた。
ヘビークラストの姿勢制御機能が働き、激しい揺れの中でも四機は姿勢を保つ。
ヨミル機が、これから向かう西側の壁面を指さした。
『カカカ、カグロ先輩! あれ!』
カグロ達がヨミル機の指先を追うより早く、壁面に亀裂が走る。
地鳴りは激しさを増し、亀裂が大きく裂けた。
亀裂は壁面を駆け下り、地面まで分断していく。
西側奥の遺跡が崩れ、流れ落ちるように亀裂へ呑み込まれた。
『急ぎますよ! 被害が広がる前にです!』
イオル機が腰を沈め、腰部、大腿部、下腿後部のノズルから高圧ガスを噴き出す。
直後、ガングー機が同様に続いた。
『ガングー! 援護を頼みますよ!』
『へっ! 言われるまでもねえぜ!』
一瞬遅れ、カグロ機とヨミル機も急発進する。
揺れる地面を蹴り、四機のヘビークラストが広場を横断した。
割れていく壁面の手前側、遺跡群の西側を横切る人影がある。
レオン含む白鯨騎士三人と、エリエラだ。
『あれはエリエラさん』
イオル隊がその姿をディスプレイに捉えた瞬間。
雷鳴のような爆音が轟いた。
西側の亀裂付近に残った建物が吹き飛び、砕けた石材が降り注ぐ。
急停止したガングーが叫ぶ。
『うおぃ! 爆弾か⁉』
『各機、防御態勢!』
イオル機とガングー機が大楯を構え、肩を寄せる。その背にカグロ機とヨミル機が張り付き、四機は一か所へ身を固めた。
重銀グラネクス装甲で固められたヘビークラスト。
人間ほどもある石材が直撃しても、傷一つ付かなかった。
『被害状況を報告!』
『カグロ被害なし!』
『ヨミルも被害なしです!』
『へっ! 余裕だぜ!』
『引き続き落盤には警戒してください。……エリエラさんは!』
イオルは西側壁面へ視線を向け、崩れた建物の陰を注視する。
人影はどこにも見当たらなかった。
『イオル隊長! あっちです! あ、これです!』
ヨミルの慌てた声が響く中、各機に映像が共有される。
西側遺跡群から南寄り。
西壁の根元に張り付くように口を開けた地下への入口へ、レオン一行が駆け込んでいく。
エリエラらしき女性は、騎士の曲げた前腕に腰かけた状態で、軽々と運ばれていた。
『いつの間に移動したんだあいつら。っていうか、お姫様がぬいぐるみみたいに小さく見えてるんだが、俺のディスプレイがヤニでぶっ壊れたのか?』
『いえ! 私のほうでも小さいです! ヤニじゃないです!』
『へっ。どうせ祝福だとか言ってたやつだろ。ドーピング野郎は体がでかくなるんだよ。気色わりい連中だぜ』
『あちらも気になりますが、今は生存者の救出ですよ!』
断続的な揺れと地鳴りは続いているが、爆発的な揺れは収まっていた。
イオル機が再び移動を開始し、三機が後を追う。
向かうは左前方、屋根の高い石造の建物。
灰黒色の石材で造られているが、入口部分だけに真新しい鋼鉄製の扉がはめ込まれていた。
屋根は半分ほど崩れ、すでに半壊している。
その建物に覆いかぶさるように、壁面の亀裂からオリーブ色に透き通る巨大な手のひらが伸びていた。




