1-106.集結
重殻機兵隊が地下遺跡群へ到着する。
総勢、二十六機のヘビークラスト中隊。
各機が右手に構えた機械槍【アンカーバスター】は、鍔から前方へ長方形の機関部が伸びている。その内部には槍柄を収める射出筒と、火薬式の起動機構が組み込まれていた。
建設用重機パイルドライバー(杭打機)をヒントに、人型兵器ヘビークラストの携行武装として開発されたのがアンカーバスターだ。
ガングー機が高速を維持したまま、遺跡群を囲む石塀の入口から飛び込む。
左手に長方形のシールドを構え、アンカーバスターの穂先を地面に引きずり、火花を散らしながら特攻した。
入口の広場。立ち上がったばかりのリクセンに狙いを定める。
胸部へアンカーバスターを突き出す。
パガンッ!
弾けるような火薬の打突音。
射出された槍柄は、肉眼では捉えられない速度でリクセンの胸部を貫いた。
その背からオリーブ色のペリドットが飛散し、星屑のように煌めいて舞う。
リクセンは力なく膝から崩れ落ちた。
透き通った胸部に開いた大穴。
そこに碧銀核はなかった。
『へっ! 核ふっとばしてやったぜ! このデクが! 次だ次!』
ガングー機はアイスリンクを滑るように石畳の上を滑走し、臨戦態勢に入る前のリクセンの胸を貫いては過ぎ去っていく。
腰部、大腿部、下腿後部のノズルから噴き出す高圧ガスが燃え、光の尾となって戦場にその軌道を描き出した。
交差を繰り返し、五体のリクセンから碧銀核を破壊する。
イオル機が後続に指示を飛ばした。
『各機、ガングーに続いてください! 小隊ごとに支援を怠らないように! エンブラと、再装填の隙に注意してください!』
後続のヘビークラストも同様に、リクセンの胸部を狙ってアンカーバスターを打ち込んでいく。
一撃で碧銀核を破壊する者もいれば、二撃、三撃と重ねて核を砕く者もいた。
ガングー機は一瞬後退し、仲間の機体の影に隠れる。
アンカーバスターを上下に振ると、ガゴンッという動作音と共に排莢された。
小さなスプレー缶ほどの空薬莢が、石畳の上を転がる。
再装填を終えたガングー機は、再び前線へ復帰した。
広場の右手奥では、エンブラ歩兵の合間を縫って墨影兵が戦っている。
総勢二十名、黒い忍び装束の彼らは三人一組となり、腰に差した黒刃は抜かず、リクセンを素手で破壊していた。
一人が囮となり、二人が機を見て拳を打ち込んでいく。
墨影兵の打突法は独特だった。
腰を大きく落とし、踏み込む刹那。
濡れたようなドシュッという音が鳴り、墨影兵の全身が振動し、姿がブレる。
――至震撃。
墨影兵だけが用いる、独自の操体法である至震法を使った打撃だ。
全身の筋肉を寸分たがわず高速で伸縮・連動させ、その力を肉体の先端――拳へ伝達。
さらに、直撃の瞬間に高振動を加え、破壊力を増大させる。
加速した拳は影のように消え、リクセンの盾を、肘を、膝を、小気味よく砕いていった。
四肢を失いダルマ状になったところへ、二人の墨影兵が正面と背後から同時に拳を打ち込み、胸部の碧銀核を破壊する。
その中で、異様な戦いぶりを見せる墨影兵がいた。
アズレイ。
無造作にリクセンの間を歩く。彼に襲い掛かったリクセンがふわりと宙へ投げられたときには、その胸部にはすでに大穴が開いていた。
まるで組み手の指南でもするように、次々とリクセンが破壊されていく。
アズレイは熱のこもらぬ静かな声で仲間に語りかける。
「リクセンに黒刃は通らん。手に余る者は俺のもとによこせ」
「あっはははは! おっせえなあこの人形! もぎり放題だぜ!」
すぐ隣では、獣人の少女、ロロカが雄叫びを上げながらリクセンに飛びつき、首をねじ切っては次へ向かっていた。
それを見たアズレイは、ついでのように首の無いリクセンから碧銀核を抉り、止めを刺していく。
リクセンを圧倒するヘビークラスト部隊と墨影兵。
石壁の際、大楯を杖代わりに立ったエンザリクが、冷たい目で彼らを睨みつける。
「おのれ、下郎どもが……」
低く、くぐもった声。
胸につかえた感情が腸へ落ち、そこで煮詰められたような呻吟が、喉の奥から押し出されていた。
高台礼拝堂の下り坂。
中腹の平坦な折り返し部に、ヒッジスとユイナを乗せた軽機動車が停車している。
ヒッジスは双眼鏡を手に、ユイナはグラス型モバイルの倍率を上げて戦場を見ていた。
ふと、ユイナが視線を上げる。
遺跡群を収める地下空洞、その右手壁面で影が動いた。
見晴らし台のような広場。その壁際に走る亀裂から、玉虫色のヘビークラストと大型の黒いモービルが飛び出してくる。
二機は広場の縁で停止し、眼下の戦場を見下ろした。
ユイナはグラス型モバイルの倍率をさらに上げ、焦点を合わせる。
大型モービルに乗っているのは、コームオーバーの赤い髪をなびかせた若い男。
「グエンさん」
そう呟きかけ、ユイナは慌てて唇をつぐむ。
グエンが顔を上げた。
グラス越しに、ユイナとグエンの視線が重なる。
グエンは人差し指を立て、口元に添えた。
隣に座るヒッジスが、双眼鏡を下ろす。
彼が振り向く気配を察し、ユイナはグエンから視線を外した。
「ユイナ君。本部の方は問題ないかね?」
「はい。ローガー派の鎮圧は完了しています。ローガー会長も、自室でいつも通りに過ごされております」
「つまり、八つ当たりに精を出しているのかな」
「はい。物理的に監禁されたことにいたく御立腹です。また、こちらで改編した誤情報に気づかれ、今は椅子を扉に叩きつけて壊したところです。会長に何かお伝えいたしますか?」
「そうだね。ランカのシフォンを差し入れよう。甘いものを食べれば落ち着くだろうからね。温かい紅茶もセットでね」
「わかりました。手配しておきます」
「頼む」
ヒッジスは再び双眼鏡を覗く。
ユイナはグエンとデラダン機の姿を求め、視線を流す。
彼らはすでに見晴らし台から降り、遺跡入口とは反対側から戦場へ向かっていた。




