1-104.強襲
突如、地の底から轟音が沸き上がる。
薄氷の下で、山ほどもある大蛇がうねり、大地を揺さぶっているようだ。
崩壊しかけていた石造りの住居跡が崩れ、砂煙が噴き上がる。
天井から鍾乳石が落下し、北西の壁には大きな亀裂が走った。
そして、地下遺跡に叫び声がこだまする。
「リクセンだ! リクセンが出たぞ!」
第一声を上げたのは、エンブラに強制動員させられたバナーバルの掘削作業員だった。
次々に声が重なり、地下空間を喧騒が満たしていく。
「どこからだ! なんだこの生き物たちは!」
「北西の壁! 奈落坂の方向だ!」
「橄欖の間に降りる坂だ! 坂からも出てきたぞ!」
「非戦闘員を下げろ! 邪魔だ!」
エンブラ歩兵隊が隊列を組み、遺跡へ侵入するリクセンへ銃を構える。
リクセンは半透明のオリーブ色。滑らかな表面を持ち、服も何も身につけていない、つるりとした人型をしていた。目も鼻も耳もなく、口の位置にだけぽっかりと穴が開いている。
その穴から、ガラスを擦り合わせたような耳障りな音を発した。
「ギィィィィィッ!」
「ひ! ひい!」
青いツナギ姿の掘削作業員たちが逃げ惑う。
逃げ遅れた数名のすぐ背後まで、リクセン達が迫っていた。
エンブラ兵の指揮官が、上げていた右手を振り下ろす。
「一斉射! ってえ!」
歩兵隊たちの銃口が一斉に火を噴く。
銃弾は逃げ遅れた作業員たちを貫いた。
だが、リクセンの肌に触れた弾丸は、鉱石糖のように砕け散る。
地下遺跡の上部、高台礼拝堂をヘビークラストの中隊が通過する。
漆黒の機械兵。
治安維持部所属、重殻機兵隊だ。
地下遺跡全体を見下ろす坂道へ入り、一斉に駆け下りていく。
ヘビークラスト隊の先頭、イオル機とガングー機が眼下の異変に気付く。
『下方、遺跡群にリクセンの集団! エンブラ兵と戦闘が始まっています!』
『へっ! 虫みてえにうじゃうじゃとよ! 四、五十体ってとこか! ああ? エンブラのやつら、鉛弾でリクセンと戦ってやがんのか。へっ! まぬけども!』
『! そんなことより、作業員まで撃たれています! 映像、見えてますか?』
『くそがっ! こっちも映像に残したぜ!』
『ガングー! 映像は証拠として本部へ転送してください!』
『しゃあねえな!』
『全機! スピアのロックを解除! アンカーバスターの使用を許可します! まずは接近戦で作業員を救出しますよ! 最優先はクエスタ作業員の命! 次に遺跡保護です!』
イオルの指示に、全機が同時に答える。
『了解!』
ヘビークラスト隊の後方を、幌を外した一台の軽機動車が走っている。
短く角張った車体に、大径のオフロードタイヤ。
地面との間を大きく開けた腹下には、頑丈な四輪駆動機構が覗いていた。
簡素な運転席には、ヘルメットとゴーグルをつけた男性隊員。その後部座席には、クエスタ隊服に身を包んだヒッジスとユイナが座っていた。
ヒッジスがインカムへ叫ぶ。
『全機に次ぐ! 戦争行為は禁止! エンブラ関係者は無傷で制圧するように!』
『イオルです。了解しました。我々は治安維持を最優先に動きます』
『イオル隊長、くれぐれも、慎重に進めるようにね』
『了解です』
通信を切り、ヒッジスは下り坂の先に広がる戦場へ視線を送る。
隣に座るユイナが、静かに言った。
「こんなに大量のリクセンと戦闘するのは初めてです。大丈夫でしょうか」
「できる、できないではない。やるしかないからね。時に、グエン君への逮捕状の承認が保留されているようだが、何か知っているかね?」
「はい。私の独断で保留しました」
「何故かね?」
「彼の力は有用です。報告では、単独で異常個体を含む、八十八体のリクセンを破壊した記録がありました。驚異的な成果です。使わない手はありません」
「彼は諸刃の剣だ。それを承知の上かね」
「必要な人物です。エンブラ国の力は強大です」
「刃を飲み込めということかね?」
「私の知る副会長は、その度量がおありです」
「ふむ……」
ヒッジスは眼下を走る火線から視線を切った。
目を伏せ、小さく息を吸う。
その前方で、先頭を走る二機のヘビークラストが坂から飛び降りる。
後続の機体も続き、次々と戦場へ降りていった。




