1-97.ムロージ兵装センターへ①
グエンはモービルのシート上で腕を組んでいる。
左肩では、オライオンが座って毛繕いしていた。
車体が左右に大きく揺れながら、石階段を昇って行く。
『アニキ、でえじょうぶっすか?』
インカム越しの声。
大型モービルを両手に抱えた、玉虫色のヘビークラストからだ。
『ああ。しかし、キトの抜け道がほぼ階段だとはなあ。デラダンがいて助かった』
グエンはバックミラーに映る、崩れかけた地下道入口を見る。
擁壁の地下部分が土の間から露出していた。
重銀骨格を持つ一体打設の基礎が五メートルほど地下へ伸び、その更に下から石造りの階段が口を開けている。
『へへへ、任せて下せえ。ほとんど崩れてたんで、モービルじゃきつかったっすね』
『俺を含めて四百㎏は超えてるはずだが、ヘビークラストってのは運搬もこなせるんだな。モービルごとお姫様だっこされるのは貴重な体験だよ』
『解体とか運搬の仕事もあるんすよ、意外と。カニクレーンも便利なんすけど、ちまちました作業はできねえんすよ、あれ。なんで、こいつでちゃちゃっと』
『それはクエスタを通さないアルバイトか? そういやこの機体、違法なんだってな』
『え? ま、まあ、色々と。へへへ。古い正規品パーツちょろまかして組んだもんで』
『これから向かう武器庫ってのは、現行、正規品の在庫だろ? 装備が充実するな』
『そうなんすよ! 狙ってるパーツもいくつかあるんすよ!』
『掘り出し物があるといいな』
『アニキ、下ろしやすぜ!』
『おう』
階段を昇り終え、モービルが下ろされる。
ゆっくりと、カラフルな石畳モザイクにタイヤが触れた。
グエンの揺れる肩の上で、オライオンが尻尾を左右に揺らしてバランスを取る。
階段の出口は、コンクリート製の分厚い擁壁の下から伸びていた。
擁壁沿いに植えられた並木の間。
密集した低木の葉に隠された一画が崩れ、地下への入口になっている。
モービルがゆっくりと木々から姿を現した。
小さな段差を降り、アスファルトの地面へ。
『ムロージ兵装センターだな。デラダン、先行頼む』
『うっす!』
『おう、行け!』
『ぶっ飛ばしやすぜ!』
デラダン機は道路へ左足を下ろすと、滑るように走り出す。
右足を下ろした時には、腰部ノズルから高圧ガスを噴射しフル加速していた。
グエンもモービルのグリップを捻る。
急激な加速Gを受けた体に激痛が走った。
特に、右肩と左大腿部への痛みに表情が歪む。
(くっ! エンブラ相手にはしゃぎすぎたな。……ヘビークラストより俺の整備が必要か)
声を押し殺し、歯を食いしばりながら更にスロットルを開ける。
モービルは前方を疾走するヘビークラストの光を追った。
数分後。
地下の抜け道出口、その地面からヘルメットが生える。
単眼スコープで慎重に周囲を見渡してから、レイヴンは上半身を出した。
「ガチ? あーしの読みカンペキじゃーん。よっとー」
レイヴンは担いでいたキックボードを地面に置き、地下から身を乗り出す。
キックボードを展開し、ハンドルを握ってボード部に片足を乗せた。
「ほんじゃ、ここらのカメラちゃんをちょいちょいーっと」
脳波ノックにより、単眼スコープ型モバイルを操作していく。
単眼スコープ内に映し出される地図と、カメラ映像の数々。
グエン達の姿を捉えた映像を割り出し、地図上にリアルタイムで進行中の経路が表示されていった。
「いーねいーね。かいちょー派ガチでカメラフリーダムじゃん。危機感なさすぎてさいっこー。さーて、お貴族様に売るネタ集めてこよーっと」
無音で発進するキックボード。
単眼スコープを頼りに、レイヴンは街灯の少ない暗い路地へ消えて行った。
ムロージ兵装センター。
内輪地区の中央、クエスタ本部の裏手、まさに目と鼻の先にそれはあった。
無骨な黒い正方形の建築物。
わずかなライトが、その輪郭を闇夜にうっすらと浮かび上がらせていた。
敷地には門などなく、グエン達は道路から建物正面へ進む。
片側二車線の道路とほぼ同じ幅の構内道路を渡り、引き戸式の搬入口前に停車した。
『確かに、鉄箱だ。これで長方形ならバカでかいコンテナだが』
『そうなんすよ。けど、こいつがただの鉄箱じゃねえんで』
『……確かにな』
グエンは建物正面を深く切り欠いた入口を見上げる。
入口の最奥、天井の上部。
左右からぶら下がる大きな銃身が、訪問者を出迎えていた。
『弾帯こそ見えてないが、あれは機関銃だろ。あんなので撃たれたらバラバラになるぞ』
『そうなんすよ。たぶん、グラネクス弾頭で、あっしのヘビークラストもバラバラっす。そうならねえよう、あれに例のカードを頼んます!』
デラダン機が壁の一部を指さす。
建物壁面、入口を入ってすぐ右手に光るパネルがあった。
グエンはモービルから降りる。
機関銃の銃口が追う中、ジャケットの胸ポケットからカードを取り出す。
MA-52と書かれた、シンプルな黒いIDカード。
長方形の艶消しの白い認証パネルにかざすと、ピッと電子音が鳴った。
天井の銃口がグエンから照準を外し、入口正面へ向く。
ズズズッ、と重厚な振動音と共に両扉がスライドし、解放された。
『うっしゃ! ほんとに開いたぜ! アニキ、行きやしょう!』
『照合中までご丁寧に銃口が動くから、ちょっとヒヤッとしたな。よし、行こう』
デラダン機を前に、グエンのモービルも倉庫内へ続く。
内部は広大だった。
入口からすぐに大型トラックごと搬入できる広さのトラックヤードが設けられ、グラウンドのような面積が奥へ広がっている。
スロープを登った先には、三十メートルほどある金属製の棚がずらりと並んでいた。
その間を、無人の搬送ロボットが忙しそうに動き回っている。
搬送ロボットは円筒形の本体に、グローブ状の指を持つ二本のアームを備え、背面のカゴから部品を取り出しては棚へ置き、また別の棚から部品を回収していた。
スロープを登ったところで、一台の搬送ロボットが近づいてくる。
グエンの前で停止した搬送ロボット。
円筒形の正面上部には、拳サイズのレンズがはめ込まれている。
レンズ奥のカメラが二人を捉えていた。
『お出迎えか?』
『お、お、なんでえ、こいつ』
搬送ロボットはグエンの方へ向き直る。
流暢な、中性的な声が流れた。
『ここはムロージ兵装センター。認証カードを検出……MA-52内、全在庫流用権限を確認済み。出庫処理は入口ゲートでやる。ピッキング等のサポートは我々が担当。出荷対象品リストを作る。やあ、ニンゲン、なにする?』
『お、おっ、……お? ニンゲンってのはあっしらのことっすかね?』
『だろうな。ま、欲しいものを言えってことだろう。デラダン、何が必要なんだ?』
『なんか馴れ馴れしいやつっすけど……。んじゃ、アンカーバスター一つと、ショットガン一つ、グレネードランチャーもありゃ最高だぜ。ほんで、予備弾を背負うランドセルと、あと燃料の一番いいやつ。それと、えーと、ゴーグル型のモバイルの最新式をくれ!』
『在庫検索中……。アンカーバスター、在庫は以下のタイプがある。3946式一型改、3946式一型、3946式二型、3945式一型、3945式二型、3945式三型……』
『ちょちょちょ、そんなにあんのかよ! とりあえず、最新のやつで頼むぜ!』
『3946式一型改が最新。駆動方式は粉末火薬式と重銀電磁式のハイブリッド。組付け後の機体調整もできる。する? どうする?』
『お、おう。調整までやってくれんのかよ』
『実機組付け後の最終調整もやれる。手配中……できた。ショットガンの在庫検索中……。ショットガン、在庫は以下のタイプが……』
搬送ロボットは淀みなく会話を続ける。
デラダンはしどろもどろになりながら、要望を伝えて行った。
『こういうⅤIP待遇もあるんだな。さて、俺はセルフで行くか』




