1-93.突入②
「! させません! ガングーは左側面、外階段の兵を阻止! カグロは右側面! ヨミルは背面! 二階への兵を制圧してください! 発砲は禁止! 殺さないように!」
「はあっ⁉ 撃たずに階段のやつを止めろっつーのか⁉ 無理言うな! ったくよぉ!」
ガングーの怒号が周囲にまで響く。
続き、男女の短い返答。
「任せろ」
「了解しました!」
ガングーがフェイスを装着しながらも、一瞬早く動き建物左側面へ向かう。
ガトリング砲を構えたカグロとヨミルの二機も同時に分かれ、左右それぞれの持ち場へ向かった。
三機は重厚な装甲の脚部を持ち上げ、ブーツ底のタイヤを併用しながら氷上を滑るように移動する。
イオルは装着したフェイス越しに、外部スピーカーから警告を発した。
『貴方がたは動かないでください。発砲はしませんが、ヘビークラストが振るうランスで殴れば、簡単に背骨が砕けますよ』
「ヘビークラストか、まるで足の生えた戦車だ。その図体では歩兵の代わりは務まらない。歩兵を連れてくるべきだったな。じきに増援が来る。こちらは勝手にやらせてもらう」
カルヴェンのその言葉に、イオルは沈黙で返す。
一触即発の空気。
レイヴンは明後日の方向へアサルトライフルを向ける。
手元のネイルに視線を落とした。
剥げかけた塗装を見つけ、小さくため息をつく。
「だっるー。銃なんてさー、ネイルが剥げるだけだってーの。さいあくー。あ、来た?」
視線の先、重い鼓動のようなエンジン音を響かせ、一台の大型モービルが到着した。
ゆっくりと速度を落とし、イオルが乗るヘビークラストの真後ろに停車する。
イオルはヘビークラストのサブカメラで背後を探った。
フェイス内に映し出された後方映像には、無人で停車するグランディアが映っている。
『無人のモービル? これは』
直後、玉虫色の大型ヘビークラストが視界へ滑り込んだ。
イオルの指示のもと、ヘビークラストが駆ける。
勢いよく跳躍したカグロ機は、右側二階の窓へ登ろうとしていたエンブラ兵たちの掴むワイヤーに向け、ガトリング砲の砲身を横薙ぎに振るう。
ワイヤーが弾け、兵士たちの身体が宙へ放り出される。
「な、なんだ!」
「ぎゃあっ!」
次々と悲鳴を上げ、地面へ落ちるエンブラ兵。
建物の裏側でも同様に、ヨミル機が振り上げたガトリング砲で、ワイヤーごと兵士を撥ね飛ばした。
エンブラ兵は二階の壁面から叩き落とされ、呻きながら地面に横たわる。
一階部分を包囲していたエンブラ兵たちが、二機のヘビークラストへ銃口を向けた。
それぞれのヘビークラストもガトリング砲をエンブラ兵へ向ける。
ウィィィィン……。
モーターがうなり、砲身群が慣性を乗せながら回転していく。
睨み合う両者。
一方、左側面の階段。
ガングーが階段入口の兵士を機械式ランスで払いのける。
小さな悲鳴を上げ、エンブラ兵は人形のように横の空き地へ投げ飛ばされていった。
「ったくよ! イオルの野郎! 一番面倒くせえとこ押し付けやがった!」
フェイス内側のディスプレイには、階段を昇る三人の兵士が映る。
人間用の階段は、ヘビークラストの大きな機体ではとても入れなかった。
「ちっ! 発砲しなきゃいいんだろ! ランスで階段ごとぶっ壊してやんぜ! 運が良けりゃ死なねえだろ!」
ガングーのヘビークラストは、右アームに構えたランスの切っ先を地面へ下ろす。
階段に沿ってランスを振り上げようとした、その瞬間。
「どけ! エンブラのゴミ共が!」
階段上から怒声が響く。
同時に、ドガッ! と激突音が鳴った。
三人のエンブラ兵が階段を転げ落ちてくる。
エンブラ兵たちは、階段入口に構えていたランスへぶつかって止まった。
痛みと衝撃に呻く兵士たちを横目に、ガングーは階段上へ視線を向ける。
フェイスディスプレイに映った人物を見て怒鳴り散らした。
『ああ! てんめえ! グエンじゃねえか! 屋根から来やがったのか⁉ ったく! 俺様の手柄を横取りしやがったな!』
「ん? その声は……。ヘビークラストに乗ってるのは、ケツアゴのお前か?」
『ガングーだ! 誰がケツアゴだっつーんだ! てんめぇ! 今度こそ許さねえ!』
「ま、ケツアゴはケツアゴとして。とりあえず、そいつらの首を落とす」
グエンは抜き身の濡焔を右手に構え、階段を降りる。
クリアブルーの刀身が冷たい光を放っていた。
階段の下、ランスにもたれるように呻く兵士の前へ立つ。
項垂れた一人の兵士の首元へ狙いを定め、軍刀【濡焔】を振り上げた。
目の前の光景に、ガングーは怒りを忘れて言い淀む。
「お、おま、ちょ」
『グエンさん! 待ってください! ガングー! 止めてください!』
シャッター前から身を乗り出していたイオルが叫ぶ。
振り下ろされる刃。
ガギィンッ!
エンブラ兵の首を切断する、その直前。
ガングーの構えていた黒いランスが盾となった。
『て、てめえ! 待てっつってんだろ! マ、マジで振り下ろしやがって!』
フェイス越しに発せられるガングーの声。
かすかに震えていた。
「ちっ」
グエンは濡焔を引き、峰を右肩に乗せた。
大きく息を吸い、怒号をまき散らす。
「エンブラのゴミども! 退け! 退かなければ、こいつらを焼き殺すぞ! 2秒待つ!」
グエンの首から左頬へ火焔文様が燃え上がる。
開いた左の手の平に炎が生まれ、轟々と音を立てて燃え盛った。
イオルのヘビークラストの前で事態を見守っていたカルヴェンが、インカムへ叫ぶ。
『作戦は中止! 建物から離れろ!』
号令はインカムを通じて全員へ伝わる。
建物周辺、一階部分でヘビークラストと対峙していたエンブラ兵たちは、静かに銃を下ろした。
ガレージの正面、レイヴンが道路脇まで歩き、段差に腰を下ろす。
「うける。ターゲットの赤毛ー、元気じゃん。お貴族様の情報、まーじでゴミすぎー」
銃を地面に置くと、彼女はネイルの塗装を始めた。




