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世界樹の巡り人  作者: 蔵人
第1章 邂逅のバナーバル
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124/125

1-93.突入②

「! させません! ガングーは左側面、外階段の兵を阻止! カグロは右側面! ヨミルは背面! 二階への兵を制圧してください! 発砲は禁止! 殺さないように!」

「はあっ⁉ 撃たずに階段のやつを止めろっつーのか⁉ 無理言うな! ったくよぉ!」


 ガングーの怒号が周囲にまで響く。

 続き、男女の短い返答。


「任せろ」

「了解しました!」


 ガングーがフェイスを装着しながらも、一瞬早く動き建物左側面へ向かう。

 ガトリング砲を構えたカグロとヨミルの二機も同時に分かれ、左右それぞれの持ち場へ向かった。

 三機は重厚な装甲の脚部を持ち上げ、ブーツ底のタイヤを併用しながら氷上を滑るように移動する。

 イオルは装着したフェイス越しに、外部スピーカーから警告を発した。


『貴方がたは動かないでください。発砲はしませんが、ヘビークラストが振るうランスで殴れば、簡単に背骨が砕けますよ』

「ヘビークラストか、まるで足の生えた戦車だ。その図体では歩兵の代わりは務まらない。歩兵を連れてくるべきだったな。じきに増援が来る。こちらは勝手にやらせてもらう」


 カルヴェンのその言葉に、イオルは沈黙で返す。

 一触即発の空気。

 レイヴンは明後日の方向へアサルトライフルを向ける。

 手元のネイルに視線を落とした。

 剥げかけた塗装を見つけ、小さくため息をつく。


「だっるー。銃なんてさー、ネイルが剥げるだけだってーの。さいあくー。あ、来た?」


 視線の先、重い鼓動のようなエンジン音を響かせ、一台の大型モービルが到着した。

 ゆっくりと速度を落とし、イオルが乗るヘビークラストの真後ろに停車する。

 イオルはヘビークラストのサブカメラで背後を探った。

 フェイス内に映し出された後方映像には、無人で停車するグランディアが映っている。


『無人のモービル? これは』


 直後、玉虫色の大型ヘビークラストが視界へ滑り込んだ。




 イオルの指示のもと、ヘビークラストが駆ける。

 勢いよく跳躍したカグロ機は、右側二階の窓へ登ろうとしていたエンブラ兵たちの掴むワイヤーに向け、ガトリング砲の砲身を横薙ぎに振るう。

 ワイヤーが弾け、兵士たちの身体が宙へ放り出される。


「な、なんだ!」

「ぎゃあっ!」


 次々と悲鳴を上げ、地面へ落ちるエンブラ兵。

 建物の裏側でも同様に、ヨミル機が振り上げたガトリング砲で、ワイヤーごと兵士を撥ね飛ばした。

 エンブラ兵は二階の壁面から叩き落とされ、呻きながら地面に横たわる。

 一階部分を包囲していたエンブラ兵たちが、二機のヘビークラストへ銃口を向けた。

 それぞれのヘビークラストもガトリング砲をエンブラ兵へ向ける。

 ウィィィィン……。

 モーターがうなり、砲身群が慣性を乗せながら回転していく。

 睨み合う両者。



 一方、左側面の階段。

 ガングーが階段入口の兵士を機械式ランスで払いのける。

 小さな悲鳴を上げ、エンブラ兵は人形のように横の空き地へ投げ飛ばされていった。


「ったくよ! イオルの野郎! 一番面倒くせえとこ押し付けやがった!」


 フェイス内側のディスプレイには、階段を昇る三人の兵士が映る。

 人間用の階段は、ヘビークラストの大きな機体ではとても入れなかった。


「ちっ! 発砲しなきゃいいんだろ! ランスで階段ごとぶっ壊してやんぜ! 運が良けりゃ死なねえだろ!」


 ガングーのヘビークラストは、右アームに構えたランスの切っ先を地面へ下ろす。

 階段に沿ってランスを振り上げようとした、その瞬間。


「どけ! エンブラのゴミ共が!」


 階段上から怒声が響く。

 同時に、ドガッ! と激突音が鳴った。

 三人のエンブラ兵が階段を転げ落ちてくる。

 エンブラ兵たちは、階段入口に構えていたランスへぶつかって止まった。

 痛みと衝撃に呻く兵士たちを横目に、ガングーは階段上へ視線を向ける。

 フェイスディスプレイに映った人物を見て怒鳴り散らした。


『ああ! てんめえ! グエンじゃねえか! 屋根から来やがったのか⁉ ったく! 俺様の手柄を横取りしやがったな!』

「ん? その声は……。ヘビークラストに乗ってるのは、ケツアゴのお前か?」

『ガングーだ! 誰がケツアゴだっつーんだ! てんめぇ! 今度こそ許さねえ!』

「ま、ケツアゴはケツアゴとして。とりあえず、そいつらの首を落とす」


 グエンは抜き身の濡焔(ぬれほむら)を右手に構え、階段を降りる。

 クリアブルーの刀身が冷たい光を放っていた。

 階段の下、ランスにもたれるように呻く兵士の前へ立つ。

 項垂れた一人の兵士の首元へ狙いを定め、軍刀【濡焔】を振り上げた。

 目の前の光景に、ガングーは怒りを忘れて言い淀む。


「お、おま、ちょ」

『グエンさん! 待ってください! ガングー! 止めてください!』


 シャッター前から身を乗り出していたイオルが叫ぶ。

 振り下ろされる刃。

 ガギィンッ!

 エンブラ兵の首を切断する、その直前。

 ガングーの構えていた黒いランスが盾となった。


『て、てめえ! 待てっつってんだろ! マ、マジで振り下ろしやがって!』


 フェイス越しに発せられるガングーの声。

 かすかに震えていた。


「ちっ」


 グエンは濡焔(ぬれほむら)を引き、峰を右肩に乗せた。

 大きく息を吸い、怒号をまき散らす。


「エンブラのゴミども! 退け! 退かなければ、こいつらを焼き殺すぞ! 2秒待つ!」


 グエンの首から左頬へ火焔文様が燃え上がる。

 開いた左の手の平に炎が生まれ、轟々と音を立てて燃え盛った。

 イオルのヘビークラストの前で事態を見守っていたカルヴェンが、インカムへ叫ぶ。


『作戦は中止! 建物から離れろ!』


 号令はインカムを通じて全員へ伝わる。

 建物周辺、一階部分でヘビークラストと対峙していたエンブラ兵たちは、静かに銃を下ろした。

 ガレージの正面、レイヴンが道路脇まで歩き、段差に腰を下ろす。


「うける。ターゲットの赤毛ー、元気じゃん。お貴族様の情報、まーじでゴミすぎー」


 銃を地面に置くと、彼女はネイルの塗装を始めた。

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