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世界樹の巡り人  作者: 蔵人
第1章 邂逅のバナーバル
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123/125

1-92.突入①

 二階建ての建物を、アサルトライフルを装備したエンブラ兵が包囲している。

 兵士は一様に、ヘルメットに固定された単眼スコープで右目を覆っていた。

 一階ガレージ正面のシャッター、外階段脇の扉、外階段上の扉、建物の裏口、二階を含めたそれぞれの窓下。すべての位置に黒い軍服の兵士が配置されていた。

 総勢十六名。

 正面のシャッター前に立つ四名の中、一人だけヘルメットを外した若い女性がいる。

 金髪のショートボブに、小柄な軍服の右肩には大ぶりな黒い羽の刺繍。

 左腕には腕章が巻かれ、黒地に描かれた一羽の鴉は、その目だけが金色に輝いていた。

 レイヴンはネイルを街灯の光にかざし、ため息を吐く。


「いや、無理。なんであーしがこんな野蛮なさー。あんのむちゃ振りジジイ、ガチムカツクんですけどお。場所は見つけたんだしー、もう帰ればよくね? なんか、中めっちゃ燃えててこえーし」


 彼女の横に立つ隊長カルヴェンが、少し低めの静かな声で答える。

 二十歳前のレイヴンより、一回り年上の男性兵士。

 ヘルメットの下から灰金色の髪がわずかに覗く。

 引き締まった顎に無精髭はなく、薄い唇は最低限の動きで要件を伝えた。


「正教会の騎士は、お貴族様。命令違反は処刑だ。レイヴン、さっさとヘルメットを被れ」

「ういーす。もう突入ですー?」

銀圧探知(ぎんあつたんち)に反応! シャッター前から退避! もう一発くるぞ!」

「え、ガチ?」


 カルヴェンの指示を受け、シャッター前に立っていた四人の兵士が二手に分かれる。

 ドォンッ!

 ガレージ内から爆音が届く。

 シャッターが激しく揺れ、ガレージ内の窓ガラスが飛散して地面に散らばった。

 レイヴンは腰を落とし、頭を下げながら右目に下ろしたスコープを覗く。

 ガレージ内をスキャンしながら、周囲への警戒を怠らない。


「うっざ。サイクロプス隊は戦闘部隊じゃねーっつーのーー……おんやー? たいちょー、あれー」


 レイヴンが道路側を指差す。

 派手なネイルが示す先には、丸目の巨大なライトが四つ、道路に浮かび上がっていた。

 音もなく高速で移動するそれは、あっという間に距離を縮める。

 漆黒のヘビークラストが四機、ガレージ前に立つレイヴンたちの背後で停止した。

 左肩に載せた大きな丸目ライトが、エンブラ兵を頭上から照らす。

 兵四人の影がシャッターに浮かび上がった。


「んちょ、バリまぶしいんすけどお。暗視モードだったら目ぇ潰れるしー」

「何事だ! クエスタに支援指示など出していないぞ!」


 一機のヘビークラストが歩み寄る。

 頭部装甲、フェイスが前方へ倒れて外れると、若い男性隊員の顔が現れた。

 オールバックの栗毛、掘りの深い目鼻に、深く割れた顎。

 治安維持部隊のガングーだ。

 二メートル半の高さから怒鳴り声が降る。


「へっ! 指示だあ? てめえら、エンブラのくせに何様のつもりだコラァ!」

「ガングー! 失礼ですよ!」


 窘める声は、ガングーの背後から。

 もう一機のヘビークラストが歩行してくると、フェイスが外れた。

 中からは、栗毛を両サイドに分けた優しい顔立ちのイオルが現れる。

 ヘビークラストの右アームが持ち上がり、人間の倍ほどある指先が、イオルの顔に乗ったメガネフレームをわずかに押し上げ、位置を直した。


「部下が失礼いたしました。私は、治安維持部、重殻機兵隊(じゅうかくきへいたい)隊長のイオルです。こちらはガングー小隊長」

「へっ!」

「エンブラ帝国軍、バナーバル派遣中隊所属、偵察小隊隊長カルヴェンだ。この場は我々が仕切っている。貴様らクエスタの出る幕ではない」

「そうはいきませんよ。バナーバル内の治安維持が我々の使命。銃を携えて民家を襲撃するなんて、見過ごすわけにはいきませんね」

「へっ、我が隊長さんは優等生なこって」


 ガングーはそっぽを向いて鼻を鳴らす。

 イオルはその悪態には付き合わず、カルヴェンの目をじっと見つめた。

 カルヴェンの視線が、ヘビークラストの武装へ移る。

 イオルとガングーの武装は同じ。

 右アームには二m長の円錐状の機械式ランス。

 左アームにはショットガンタイプの銃を持っていた。

 更に、後ろに控える二機は、ランスの代わりにガトリング砲を装備している。ガトリング砲の回転する砲身群は、太い支持フレームの上に載っていた。フレーム先端はダガーのように鋭く尖り、砲身とは独立した銃剣として機能するようだ。

 カルヴェンはヘルメットの下から覗く左目を細める。


「クエスタ自慢の重装備ヘビークラストか。まともにやりあっては戦いにならん」

「ええ。白鯨(はくげい)騎士団と戦う想定ですからね。さきほどお伝えしたように、私たちは治安維持が目的。この中にいるクエスタ隊員の保護に来ましたが、バナーバル市民も保護対象です。ここで戦闘するなら、黙ってはいませんよ」


 イオルの物腰穏やかな声が、滔々と響く。

 カルヴェンはイオルの顔を見上げ、静かに銃口を向けた。


「この中には賊がいる。クエスタの隊員でも、市民でもない男だ。邪魔をしないでもらおう。こちらは、貴様らのように気楽な任務というわけではない」

「そーだそーだ。あーしらもー、命がけで来てるんでー。子供のお使いじゃないんでーす」


 レイヴンはピアスのついた舌を出す。

 肩にかけたアサルトライフルの銃口は、イオルの顔に向けられる。

 他二人のエンブラ兵二人も同様に、ガングーの方へ照準を合わせた。

 しばしの沈黙。

 遠くから重低音のエンジン音が響く。

 激しいスキール音が混じり、何者かの接近を告げていた。

 レイヴンの単眼スコープ内に、MAPが映る。

 高速で移動する二体の物体が表示された。


「モービル一台、ヘビークラスト一台。高速せっきんちゅー」


 レイヴンは脳波ノックでスコープ型モバイルを操作、部隊へ情報を共有する。

 カルヴェンがインカムに向けて叫んだ。


『二階から突入! 正面は待機! 目標を発見次第殲滅! 一階は包囲しつつ出口を塞げ!』

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