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世界樹の巡り人  作者: 蔵人
第1章 邂逅のバナーバル
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122/125

1-91.迫り来る敵

 泳ぐ視線が数度部屋を見渡す。

 ユイークは遠くから聞こえるエンジン音に狼狽え、窓際へ走った。

 転がった丸椅子が脛にあたりイラついた声をあげる。


「ちょちょちょ、ちょっと! あ痛っ! なんなの! もうっ!」

「え~、なに~。あ、外の音って、あ、ユイーク近所のカメラをハックしてるの~? えっとこうして……あ、この音は~……中型のモービルかな~。250ccくらいが何台か~」


 ジアはユイークの背中から窓を覗く。

 傍受した音は遠く、眼前の道路にはなにもいない。

 立ち並ぶ街灯の半数は壊れ、暗がりのアスファルト道路が寂しく伸びているだけ。

 ユイークは右レンズにヒビの入ったゴーグルに焦点を合わせる。

 ゴーグルディスプレイに流れるコードの波。


「え、これ……エンブラ……じゃない! ……クエスタに覗かれた? なんでクエスタが、あたしのモバイルをハックしようとしたの? な、な、なんでクエスタに狙われるの?」

「え~? でも、このエンジンの音は、たぶんクエスタ製のモービルじゃないよ~。クエスタのは四気筒だけど、これはたぶん二気筒の音~」

「ジア兄、それってどういう意味?」

「ん~、わかんないけど~」

「んもう! 役立たずなんだから!」

「だってさ~」


 道路の奥から、ライトが現れる。

 短い間隔の二つのライトを持つモービルが、六台走っていた。

 高速で迫り来るモービル。

 ユイークはゴーグルの倍率を挙げて、運転手を注視する。


「モービルに乗ってるやつ、黒い軍服の……兵士っぽい?」

『黒い軍服だと? どんな軍服だ?』


 インカム越しに、語気を荒げたグエンの声が聞こえる。

 ユイークは、その声の迫力に一瞬体を震わせた。


「そ、そう。な、なんか、金色の線? 模様が入ってるっていうのかな」

『金の刺繍入りはエンブラだ。二人とも、絶対に家から出るな。すぐにいく。できるなら、時間を稼げ』

『え? え? エンブラ? あわあわあわ、どどどどうしよ』

『わ、わかった。は、早く来てよ! で、でも、時間稼げってどうやって!』

『ジア! ユイーク! 落ち着きやがれ! ガレージん中に煙幕張れ! んで、二人で地下室に引っ込んでろ!』

『よし、それでいこう。だが煙幕だけでは弱い。ジア、ユイーク、ガレージ内で軽い爆発と火災を起こせるか? モービルの一台でもフッとばして燃やせ。ガレージが危険だと思わせれば敵の行動が鈍る可能性が出てくる。多少は時間を稼げるかもしれない。あと、地下とやらは頑丈か?』

『コンクリで囲まれたシェルターっすよ。もとからあった年代物っすけど、アジトが燃えてもシェルターは無事っす!』

『よし。すぐに行動開始だ。必ず守る。心配するな。念のため、通信は切っておけよ』

『わ、わかった! いくよ! ジア兄!』

『わわわわかった』


 ユイークがジアの手を引き、内階段を駆け下りる。

 直後、ジアが一人、階段を駆け登り二階に戻ってきた。


『ははわわあ、かかか鍵かけたたっけ』


 外の階段から繋がる扉へ走り、施錠すると、金属製の閂をかける。

 ガレージの前、アジトのすぐ目前からモービルのエンジン音が聞こえた。

 ジアは転がるように階段を降りて行く。



 グエンはモービルのスロットルを開ける。

 加速した車体が、先行するヘビークラストに並んだ。


『デラダン! 飛ばせ! 急ぐぞ!』

『うっす! けど、いいんすか! ヘビークラストはモービルで走るより速えっすよ!』

『舐めんなよ! 俺が何十年モービルに乗ってると思ってんだ! 俺を振り切るつもりで飛ばせ!』

『へへへ! さっすがアニキ! 了解でさあ!』


 デラダンは前傾姿勢を深める。

 ヘビークラストの各装甲を繋ぐ接線に、青白い光が走った。

 ブーツの踵部分から火花が飛び散り、爆発的な加速で地面に赤い残光を引き疾走する。

 方向転換の度に、太腿部側面と腰部の姿勢制御ノズルから高圧ガスが噴出された。

 巨体は横滑りすることなく、地面へ食らいつくように旋回していく。

 グエンはスロットルを全開にする。

 マフラーがパパンッ!と火を噴く。

 太い後輪が一瞬空転し車体がブレるが、二本の前輪が白煙を上げて車体を引っ張った。

 前方を滑るように走るヘビークラストを追い、大型の車体は猛獣のような勢いで夜の道路を駆け抜けていく。

 アジト、一階ガレージ。

 玉虫色のモービルが真っ赤な炎に包まれている。

 立ち上る煙が室内に充満していた。

 残るもう一台のモービルは無事だ。

 ジアは、そのモービルのフロントフォークに制御装置を取りつけている。

 震える手と声。


「こここれで、じじじ時間差できききちゃう」


 内階段脇の床、正方形の蓋が開いている。

 地下シェルターへの入口。

 ユイークが入口から上半身を出し、不安そうな表情でジアを見つめていた。

 ガレージのシャッターが激しく揺れる。

 声を潜めたユイークが急かす。


「はやくはやく!」

「わわわかわか」


 ジアは腰を抜かし、這いつくばるように地下シェルターへ降りる。

 正方形の蓋が閉じられた。

 数秒後、もう一台のモービルのエンジンが爆走し、火を噴く。

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