表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の巡り人  作者: 蔵人
第1章 邂逅のバナーバル
PR
120/125

1-89.足取りを求めて②

 グランディアは狭い路地いっぱいを使って反転する。

 そして、もと来た六路(ろくろ)中央広場へ向かった。


『デラダン、聞こえるか』

『うっす。会話聞こえてやしたぜ』

『お、切るの忘れてた。が、それなら話が早い。さっき別れた場所へ戻る。マギーさんの話から察するに、あの近くにムロージ商会があるのか?』

『うっす! あっしはもう着いていやすぜ! にしても、姐さんがムロージ商会に向かうって話、すっかり忘れてやした!』

『だな。すぐ行く』

『うっす!』


 会話を終えてほどなく、グエンはデラダンとの待ち合わせ場所へ到着する。

 デラダンはヘビークラストのフェイスを外して待っていた。

 フェイスは首関節部で折れ、前方へ倒されるように胸部へ密着している。

 グランディアの姿を見つけ、耳のインカム越しに声をかけた。


『アニキ、あれっす。道路の向こう側のでっけえビルがムロージ商会っすよ』

『本当に目の前だな。三十階くらいいあるか? このまま行ってみよう』

『了解っす』


 二人はそれぞれ道路を横断する。

 ライトアップされた大理石の正面入口前。

 モービルとヘビークラストが合流した。

 入口から、まばらながらスーツ姿の人が出てくる。

 ガラス扉越し、受付に立つ女性がこちらの様子を窺っているのが見えた。

 グエンは彼らの顔を確認しつつ、周囲を見渡す。


「もう終わりの時間かもな。まだ人がいるうちに聞いてこよう」

「アッシもいきやすか?」

「いや、デラダンはここで周囲を見ててくれ。エリィと入れ違いになるかもしれない」

「うっす。任せて下せえ」


 ヘビークラストの重厚な足が持ち上がり、一段高い歩道を踏みしめる。

 3mを超える人型兵器は、直立不動で固定された。

 蛍光緑を主体にした装甲は、街灯を受けるたび緑や紫、青へと構造色を揺らした。

 フェイス装甲を外した顔だけ生身というデラダンの姿は、装甲の色と相まって非常によく目立つ。


(これだけ派手なら、エリィが通れば絶対に気づくだろ。しかし、なんで玉虫色なんだ……)


 グエンはエンジンをかけたままモービルを降りる。

 帰宅する職員とすれ違い、正面入口をくぐる。

 受付カウンターへ向かっていると、中二階から男性の声が降ってきた。

 少し掠れた、低い声。


「おいおいおいおいおい! やっぱり生きてやがったぜ! さすがは戦姫殺(せんきごろ)し様よ!」


 重厚な大理石の階段を勢いよく駆け下りてきたのは、情報屋ルガー。

 黒いベレー帽を右手で押さえ、火をつける前の葉巻を咥えている。

 階段を降りると、ルガーはグエンへ手招きした。


「そこだと入口から丸見えだ。こっちの角なら、死角になってるからよ」

「ルガーさんだったな、情報屋の」


 階段脇まで歩き、グエンは応えた。

 ルガーはズボンのポケットからオイルライターを取り出し、葉巻に火をつける。

 携帯灰皿を取り出し、口の中で煙をくゆらせると、ゆっくりと吐き出した。


「ふう。さんなんていらねえって。水臭い。ルガー、グエンで行こうや」

「わかった。ここで情報屋ルガーに会えたのは幸運だ。教えてほしいことがある」

「だろうな。ただ、一つ言っておくと、運じゃねえよ? 俺は戦姫殺しが今のバナーバルを救うと見て、この支部に詰めてたんだ。ムロージ商会に出向って体でよ」


 ルガーは煙を燻らせ、にやりと笑う。

 その様子を、受付の女性が横目でちらりと見ていた。

 グエンは、すぐに視線を外した彼女と、煙を吐くルガー、そしてロビー内を順に見渡す。

 ロビー内のどこにも、灰皿らしき物は設置されていない。


「もしかして、ここは禁煙か?」

「おいおいおい、お前さんは俺のお袋か? やめてくれ。俺は出向してるだけで、ムロージ商会の社員じゃないんだ」

「長時間話し込むと煙ごと追い出されそうだな。単刀直入に聞くが、エリィを見なかったか? ノマドドームで俺と一緒にいた、黒髪の若い女性だ」

「それな。ちょうど上の階から見ていたよ。一足違いだ。ついさっき、そこの道路の向かいで騎士様に連れていかれた」

「なんだと」


 グエンはルガーの指さす方向へ視線を向ける。

 そこには、デラダンが待機し、こちらの様子を伺っていた。

 大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

 肩や背中、腕の縫合痕が痛んだ。

 ルガーに向き直り、静かに言う。


「……囚われのお姫様を助けたい。行先はわかるか?」

「お、ご身分が知れたか。難しい境遇のお姫さんな。ったく、見ててこっちがヒヤヒヤしたぜ。エンブラの騎士団にまでケンカふっかける戦姫殺(せんきごろ)し様と、エンブラのお姫様のカップリングだぜ? 上は何考えてやがんだってよ」

「情報屋ってのは厄介なもんだな。知ってて黙っているのも仕事か。で、行先はわかるか?」

「いや、わからん。……確証はないが、おそらく大隧道に連れていかれるだろうよ」

「なぜだ?」

「そりゃ、白鯨騎士団の団長さん御一行がいるからだよ。詳しくはわからないが、奴さんたち、大隧道の奥、戦姫殺(せんきごろ)しが大暴れした橄欖(かんらん)()付近に居座ってやがる」

橄欖(かんらん)()は、あのリクセンの集団が出た所か?」

「そうだ。なわけで、地下遺跡ごとやつらの根城になってるぜ? 墨影が地下遺跡から侵入したって話もある。ったく、地元なのに、地の利はあっちにあるって厄介な状態だ」

「一つ確認したい。バナーバルは、エンブラについたのか? 回答次第では敵が変わる」


 グエンは目をわずかに細める。

 左頬から首筋に火焔文様が浮かび上がった。

 鋭利さを宿した瞳は、紫煙越しに紅い光を放つ。


「おいおいおい、そんなおっかない目で見るのはやめてくれ。バナーバルをエンブラなんぞに渡してたまるかっての。そのために俺はムロージ商会に無理言って、おたくに鉄箱(てっぱこ)の情報とフリーパスまで流したんだぜ? あれを悪用されてみろ。俺は一生ムロージ商会の倉庫番でこき使われるだけじゃ足りねえ、孫の代まで墓場にも入れず倉庫暮らしだぜ。ヘビークラストの武装は、下手したら家が数軒建つほど高価なんだ」

「……そうか。三代目とは一度会っているが、なぜ支援をしてくれたんだ?」

「支援っつーか、投資。反エンブラのムロージ商会に、戦姫殺しの実績を数字で示しておいたからだな。ほれ、見てみな」


 ルガーは黒いベストのポケットから黒い手帳を取り出す。

 あるページを開き、グエンへ広げて見せた。

 殴り書きの癖字がひしめく中、数字を丸で囲み強調された箇所がある。


「この八十八という数字は? 何か俺と関係があるのか?」

「大ありのありだ。戦姫殺しが破壊したリクセンの数だ。あの後すぐ、俺が直接現場で残骸調査した結果だが、大変だったぜ? 道が埋まってやがったからよ。けどよ、俺の飯の種は、客観的な数字。覚えとけ。主観を排除した数値こそ、人を動かす。現に、俺だってこの調査結果がなきゃ、新米隊員グエン君をここまで買わねえよ。未知の大型リクセンも評価大だ」


 手帳をしまうと、ルガーは携帯灰皿に灰を落とす。

 グエンはしばし思案する。

 その頬から火焔文様は消えていた。


「二、三十程度は斬ったと思ったが、そんなに多かったのか。覚えていないが……。やつらを斬ったことに、それほど価値があるのか?」

「リクセンってのは、治安維持部隊のランサー部隊、つまりは重装備のヘビークラストでなきゃ破壊は難しい。この数をあの短時間でってのは、現存するランサー隊三十機を全機投入したのと同等じゃねえかってのが、俺の見立てだ」

「へえ、それはすごいのか?」

「おいおいおい、戦姫殺しは金に興味ないのか? プレーン体のヘビークラスト一機作るだけで八千万ギンはかかるんだぜ。プラス機体の維持運用コストに、ランサー隊員の固定費となりゃさらに莫大なコストだ。この戦力、味方にして損はないってアピールしたわけだ。軍事力を維持するってのは、金を垂れ流すようなもんよ」

「……そうか。ありがとう。鉄箱(てっぱこ)以外に、他に聞いておくべき話はあるか?」

「あの外輪のちびっこ、お姫さんを追ってったぜ」

「キトか! キトまでエンブラに捕まったのか?」

「さあて。装甲車を走って追いかけたところまでは見えたが……」

「助かる。良い情報だ。ここへ来た甲斐があった」

「情報屋冥利に尽きるねえ。が、クエスタ本部に大隧道を含めた内輪地区の情報は、今伝えた以上のことはさっぱりわからん。騎士団が大隧道にってのも、三日前の情報だ。情報もブツも、エンブラとローガー派ががっちり封鎖していやがる」

「十分だ。急ぐ」

「肝心の鉄箱(てっぱこ)も内輪地区にある。入るまでが骨だ。気をつけてな」

「情報代はツケで頼む」

「高いぜえ? と言いたいとこだが、エンブラを蹴散らしてくれりゃ、釣りを払うぜ」

「ははは。じゃあ、エンブラのやつらの首で支払おう。戦姫殺しの像に、首を並べておく」


 グエンは朗らかな笑顔を向け、背を向ける。

 受付の女性に会釈し、ムロージ商会ビルを後にした。

 ルガーは葉巻を吸い、グエンの背へ向けて煙を吐き出す。


「おいおいおい、今のは戦姫殺しジョークかよ。ったく、物騒なやつだぜ。しかし、お姫様を助けに行くってんなら、戦姫殺しってのはやっぱり違うのかねえ。ま、戦姫殺しなんて、五十四年も前の昔話だしなあ」


 受付カウンター内で、女性が大きく咳払いをする。

 ルガーは肩をすくませ、葉巻の火を携帯灰皿に押し付けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ