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世界樹の巡り人  作者: 蔵人
第1章 邂逅のバナーバル
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116/119

1-85.炎、ふたたび

 一階ガレージ内。

 窓の外から、街灯の青白い灯りが差し込んでいる。

 その下では、オライオンがコンクリート床の上で熟睡していた。

 ユイークは一人、置かれた椅子に腰かけ、二人の様子を眺めている。

 デラダンとジアが、ヘビークラストの周りに立っていた。

 玉虫色に輝く装甲は、見る角度によってエメラルドのような光を放つ。


「しっかし、おめえ、派手な色にしやがったなあ」

「へへ~。良い色でしょ~」

「ま! エース機ってのは目立ってなんぼだぜ!」

「はあ……兄貴マジで言ってんの? ……あたしら、やだよ。殺し合いなんて……怖い」

「……ね~」

「おうよ! んなこたあ心配すんな! おめえらはここに残れ! 遠隔サポートってやつだぜ! できんだろ?」

「ん、まあ……あたしは行けるよ。天才ハッカー兼美少女エンジニアだし……でも」

「ぼくも~。遠隔操作は大丈夫だけど~……兄貴が心配なんだよね~……」

「兄貴だって殺し合いなんて、してこなかったじゃん。なのにさあ……」

「エンブラの野郎ども、炙り酒でやってくれやがった。それによ、前々から街中でもあったじゃねえか。キナくせえことがよ。男が黙ってられっか。こういうときのために、こいつを用意したんじゃねえか」


 デラダンはヘビークラストの後ろへ回る。

 背面部、蝉の抜け殻のように開いた機体を覗き込んだ。


「んで、燃料はどんくらい残ってんだ?」

「えっとね~、ちょっとまって~。灯を落としてるから目で見ないと~」


 ジアは背後へ回り込むと、その場にしゃがみ込んだ。

 腰部へ顔を近づける。

 装甲の内側、腰椎部に組み込まれた五百㎖缶サイズのシリンダーを引き抜いた。

 内部が透けて見える強化ガラス製のシリンダー。

 紺色に近い液体が八割ほど満たされている。


「相変わらずきったねえ色だが、いけんのかよ?」

「しょうがないよ~、廃棄品かき集めて詰めてるんだから~。一時間分くらいかな~」

「一時間か……。厳しいけど、しゃあねえ」

「道路を走るだけなら、颶風のモーターだから燃料使わないよ~」

「わあってるよ。よし、とりあえずモービルで探しに出るぜ。必要になったら、ジアの遠隔で俺んとこにこいつを送ってくれ」

「まかせて~」

「エリィの居場所、見つけたら情報送るから」

「おう。って、おめえ、そういや姐さんがエンブラだって知ってやがったのかよ」

「クエスタに潜ってら、たまたま」

「ったく、言えよ。んな大事なこたぁよお……」

「しょうがないじゃん。エンブラのことなんて興味なかったし。……こんなことになるなんて、思うわけないじゃん」

「……ま、そうだな。んじゃ、いってくらあ」


 デラダンは入口シャッターへ向かって歩いていく。

 その先には一台の大型モービル。

 黒を基調とした車体に、フロントカウルとフェンダー、シートカウルへエメラルドグリーンの差し色が入っている。

 荒いブロックパターンのタイヤは、前輪が二本、後輪は極太の一本。

 ふと、室内階段から足音が響いた。

 二階から降りてくる人間は一人しかいない。

 デラダンが階段出口へ勢いよく振り返る。

 タイミングを同じくして、グエンが姿を現した。

 黒いジャケットを着込み、腰には濡焔を下げている。


「アニキィィィィ!」

「待たせたな、デラダン」

「へ、へへへ……。いいんですかい?」

「エンブラを許せるわけがない。だが……キトもエリィも……仲間だ」

「うっす。仲間っすよ」

「……ふっ、仲間の勇気に、心意気に応えられないようじゃ、誇れるアニキじゃあないよなあ。守るという約束、守らせてくれ」


 グエンはジャケットの前腕部を指先でなぞる。

 裂けた生地が繕われた、デコボコとした糸の感触が伝わってきた。


「もちろんでさあ! それでこそアニキっすよ! アニキの約束はアッシの約束ですぜ!」

「はーあ、ったくさ、逃げるのも来るのも遅いんだよね、魔人はさ」

「も~、ユイーク~。空気、読まないと~」

「ふんっ。これくらいでちょうどいいの」


 グエンは口元を緩め、小さく笑う。

 左側の壁沿いを歩き、床で寝ているオライオンを抱き上げた。


「大したもんだ。一度寝ると寝っぱなしだ。あのデラダンの喝でも起きないんだからな」

「へ? あ、へへへ。って、アニキ、なんでモービルに。まだ安静なんじゃ……?」


 デラダンは、目の前を横切ってモービルへ向かうグエンを目で追う。

 グエンは黒い大型モービル、グランディアの最後部にある黒いパニアケースを開いた。

 中へ、眠ったままのオライオンをそっと入れる。

 焦げ茶色の毛布が敷き詰められたオライオンの寝床に、一振りの剣鉈【鐘岩徹(かないわどおし)】が置かれていた。

 こんな所に置いてあったのかと、グエンは剣鉈を取り、右側のベルトへ差す。


「これくらいの傷、よくあることだ。気合でやれる。それよりも、これが何かわかるか。ムロージ商会が所有している倉庫のIDカードらしいが」

「その黒いカード……まさか、こいつあ。うおっ! MA-52! 鉄箱のIDカードじゃねえっすか! どうやってこんレアなもんを手に入れたんすか?」

「鉄箱ってのは?」

「ムロージ商会が管理している倉庫っすよ。見た目が黒くて四角いんで、隊員連中は鉄箱って呼んでるんでさあ。えーっと、ジア、ほんとの名前なんつったか」

「ムロージ兵装センターだよ~。総合兵装保管施設~。あ、それって~もしかして~」

「やばっ。ヘビークラストの装備でもなんでも取り放題じゃん。あたし、最新のゴーグル型モバイル欲しいんだけど」

「燃料~ほし~。高純度の高いやつ~。リサイクル大変だし~」


 ジアは燃料シリンダーを挿入しながら言う。

 グエンはその手元に視線を落とした。


「それが燃料部分か。シリンダー状なのはモービルと同じだが、燃料は違いそうだな」

「そ~。こっちは濃化重銀~。モービルは軽化重銀~。燃料よ~し。制御補正よ~し。おっけ~」

「武器もな! アンカーバスターが手にはいりゃ、リクセンも木っ端みじんだぜ!」

「なるほど。ここへ行って、武装を強化しろということか。やるな、三代目。いや、たぶんルガーの根回しか。よし、まず二人の捜索。次に鉄箱とやらに行く」

「うっす! アニキらしくなってきやしたね! ジア、ユイーク、フォロー頼むぜ!」

「ういー。魔人にはツケ溜まってるから、金利マシマシで」

「グランディアの整備代も~欲しいかも~」

「無事に終わったらな。楽しみに待ってろ。礼は奮発する」


 グエンはモービルに跨った。

 隣に停まっている大型モービルへ、デラダンも乗る。

 ジアがシャッターへ駆け寄る。

 格子状のグリルシャッターの鍵を開き、次に外側のスチールシャッターを解錠する。

 二枚のシャッターはガラガラと音を立てて巻き上がった。

 二台のエンジンに灯が入る。

 鼓動のような重低音。

 天井へ吸い込まれるシャッターを震わせ、ガレージ全体を揺らす。

 ユイークがデラダンとグエンの間へ立つ。

 二人へインカムを手渡した。


「はい。炙り酒でパクったインカム。……それと、あとで二人に渡す予備も」

「おう! すまねえな!」

「ありがとう、ユイーク」

「ふ、ふんっ」


 インカムを受け取り、二人は耳へ装着する。

 開ききったシャッターが、ちょうど停止した。


「行くぞ」

「うっす!」


 うなりを上げるエンジン音。

 三本のタイヤがコンクリートを蹴る。

 ジアとユイークはガレージを飛び出した。

 あっという間に、倉庫街の闇へ溶けていくテールランプ。

 胸を叩くような重い鼓動音だけが、いつまでも二人の肌を震わせていた。

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