表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の巡り人  作者: 蔵人
第1章 邂逅のバナーバル
PR
111/121

1-80.魔人絶火斬

 肩に乗るオライオンを撫で、キトは落ち着きを取りもどした。

 キトの垂れ耳がぴくりと動く。

 開かれたガレージの扉。

 ジアが台車を押しながら、グエン達の方へやって来た。

 傍で足を止める。

 台車には、ヘビークラストの古い装甲と思われる部品がいくつも積まれていた。


「あの~、魔人実験してもいい~?」

「それは、内容によるが……何の実験だ?」


 グエンの脳裏には、スタンアローで痙攣するデラダンの姿がよぎった。

 ジアは台車に載せた部品の中から、円筒形の黒い部品を手に取る。


「これは~、ヘビークラストの装甲スクラップ~。重銀製なので、かた~いです」

「ふむ」

「これを魔人に壊して欲しいな~」

「は? 壊す? まあ、ケガをしてなきゃ、濡焔(ぬれほむら)で叩き斬れるだろうが……。このザマで斬りかかったら、縫合が弾けてぶっ壊れるのは俺の方だぞ」

「あ、そうじゃなくて~。えっとね、これ使って~」


 ジアは台車の上から一本の金属片を掴み上げた。

 平たい棒状の黒灰色。切削面は鈍い光沢を放っているが、表面の仕上げは荒い。

 ジアが握る部分は真っすぐで、先端へ向かうほど細く湾曲していた。


「これは、鉄の刀か? 刃はついていないが」

「そ~。でも、柄の部分だけ、ヘビークラストの装甲で作ってあるんだ~。これをね、鞘から射出すればあの装甲を貫けるんじゃないかな~って」

「鞘から……? ああ、あれか!」


 グエンはベッドの横で、ジアが呟いていた内容を思い出した。

 ジアは濡焔の鞘先端に空いた穴について言及していた。


「鞘の内部で爆発を起こして、なんか撃ち出すみたいなこと言ってたな」

「うんうんうんうん。それそれ~」

「なるほど。その鉄刀を鞘に差して、大砲みたいに撃ち出せと」

「うんうんうんうん」

「興味深いが、それは無理だ」

「え~、なんで~?」

「倒れる直前、なけなしの火力を振り絞ったからな。俺の炎は、完全に一度使い切ってしまうと、すぐには戻らないんだよ。少なくとも一、二週間はな」

「へ~。モバイルバッテリーの充電みたいに~、数%溜まれば動くってわけじゃないんだ~。ヘビークラストの濃化重銀(のうかじゅうぎん)セルみたい。起動圧に届かなきゃ火が入らない感じ~」

「ん? うん、機械的なことは俺もわからないが、たぶんイメージは合ってそうだ。だから、鞘の内部に炎を送って燃焼させるって、簡単なことでもまだ……ん?」


 グエンは説明の一環として、濡焔の内部へ炎を送り込もうとした。

 何の手応えもない。

 ――はずだった。

 鞘を掴む左手に、力の流れをはっきりと感じる。


「なんだ……? 炎が……戻っている? なぜ」


 グエンは左手を鞘から離し、手のひらを開いた。

 真紅の炎が勢いよく噴き上がり、天を舐めるように揺らめく。


「戻ったどころか、完全に回復しているんじゃないか? なんだ? 何が……? 特別な何かが……もしかして、ノダナ族か?」


 意識を取り戻した際、きっかけを与えたノダナ族。

 エリエラから聞いた神の隣人という伝承が、その推察に妙な説得力を与えていた。

 手を閉じると、炎は掻き消える。


「やった! グエンさん、元気になった!」

「こここ、このタイミングに、ははははやくこれを」


 ジアが鉄刀を両手で抱え、柄をグエンへ向けて突き出していた。

 このまま断れば、本当に顔へ押し付けられそうな勢いだ。

 グエンは濡焔をゆっくり引き抜く。

 鞘内部に溜まっていた炎が、一瞬だけ吹き出した。

 抜き身の濡焔を台車の上へ置くと、ジアの鉄刀を受け取る。

 椅子に座ったままとはいえ、刀を抜き差しする動作だけで肩の傷口が疼いた。

 慎重に鉄刀を鞘へ差し込んでいく。

 途中で引っ掛かることもなく、ぴたりと納まった。


「ん、なんでぴったりなんだこれ。刀身を見もせずに、どうやって作ったんだ?」

「ユユユ、ユイークが画像から、りりり立体データを作ってくれたから。そ! それより! はやくはやく!」

「お、おお。どうどう。興奮するな。落ち着け」

「ふー! ふー! ふー!」

「ひゃあ……ジア、こ、こわい……」

「ガルルルル」


 グエンの膝の上で、オライオンがジアへ向かって威嚇する。

 鼻息を荒くしたジアは椅子の手すりを掴み、今にもグエンへ噛みつかんばかりだ。

 キトが灰色のツナギの背を掴み、どうにか制止している。


「一回だけだぞ。ジア、こっちにその標的を置いてくれ」

「わわわわかった」


 ジアは勢いよく反転し、台車へ手を伸ばした。

 服を掴んでいたキトは慌てて手を離す。

 ジアは黒い筒状の装甲を抱え、そのまま駆け出した。

 スクラップの山から木箱を一つ拾う。

 グエンの左前方、五mほどの位置へ木箱を置き、その上へ装甲を立てた。

 そして、元いた場所へ全力で駆け戻る。

 グエンは鞘を握る左手へ意識を集中した。


「ふむ。うまくいくかどうか……二人とも、一応耳を塞いでおけよ」


 ジアは無言のまま激しく首を縦に振る。

 一方、キトは垂れ耳を押さえながら、グエンの膝に乗るオライオンへ視線を落とした。


「オライオンは?」

「オライオンは平気だ。俺の炎なら、熱も衝撃もなんともない」

「すごーい。あ、耳ふさいだ。いいよ」

「よし」


 グエンの手のひらから熱が鞘へ流れ込む。

 鞘内部。

 鉄刀と鞘の隙間へ、可燃性の気体が生まれ満ちていく。


(加減が難しいな。濡焔は鉄よりずっと重い。……とりあえず、軽めで)


 柄が水平になった、その瞬間。

 ――パガァンッ!

 鞘が火を噴いた。

 鉄刀が黒い影となって消える。

 そして、木箱の上の装甲が弾け飛んだ。

 鞘の入口と、後端に空いた複数の小さな穴から、白煙が立ち昇っていた。

 ジアが全力で駆け出す。


「やややややったー!」

「わー! すごいすごい! 刀が飛んでった!」


 キトが両手を叩いた。

 スクラップの山まで走ったジアは、吹き飛ばされた装甲を拾い上げる。


「実験せいこあ! あちちちあっち!」


 慌てて手を放し、装甲が地面へ落ちた。

 円筒状の黒い装甲の中央は大きくひしゃげ、鉄刀が貫通している。

 貫通部分は高熱を帯び、接地面が仄かに赤く光っていた。

 ジアは鉄刀の刀身、貫通箇所から離れた切っ先側を握り直す。

 まるで巨大なハンマーのような形となった成果物を掲げ、歓喜の声を張り上げた。


「だだだ大成功! ぜぜぜ、絶火砲(ぜっかほう)の完成!」

「いや、失敗だろこれ」

「え、ええええ?」


 全身で喜びを表現しようとしていたジアの動きが止まった。

 グエンは台車に置かれた濡焔を手に取り、ゆっくりと鞘へ納める。


「一本しかない濡焔を撃ち出したらダメだろ」

「あ……あああああ」


 その場へ崩れ落ちるジア。

 キトは手にした矢を棒切れのように振りながら言った。


「そっか。武器がなくなっちゃう」

「ただ、使えそうではあるな」


 グエンは鞘に納まった濡焔を見つめ、左肩をさする。

 爆発と射出を受けたにもかかわらず、衝撃は想像より遥かに小さかった。

 ジアの言う通り、鞘後端に空いた複数の穴から燃焼ガスが放出され、無反動砲のように作用していたからだ。


「ぶっ放すのは面白い。これを利用して抜刀できるかもな。もっと上手く火力を抑えないと、刀が飛んでいくか、握った手か肩がやられそうだが……」

「ばばば爆発……抜刀……いいいいい! ななな名付けて【絶火斬(ぜっかざん)】!」

「ぜっかざん? 俺としては、そうだな。炸薬抜刀(さくやくばっとう)じゃないか?」

「そそそ、そう! ままま、魔人絶火斬(まじんぜっかざん)んんん!」

「まじんぜっかざん……かっこいい!」

「でしょでしょでしょ! かかかか、かっこいい!」

「いや、鞘内で炸薬した力で抜刀してるから、炸薬抜刀の方が――」


 グエンの言葉は二人の耳に届かない。

 キトはジアの傍へ駆け寄ると、一緒になって貫通した鉄刀へ食い入った。

 そして代わる代わる鉄刀を持ち上げては振り回し、命名したばかりの技名を連呼する。


絶火斬(ぜっかざん)! 魔人絶火斬(まじんぜっかざん)!』


 その後もグエンは「炸薬抜刀(さくやくばっとう)」と主張したが、聞き入れられることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ