1-78.少年たち①
エリエラに手を引かれ、グエンはゆっくりと階段を下りていく。
二階建て住居の側面に設けられた屋根付きの階段。
その先は、小さな空き地へと繋がっている。
デラダンたちの住居が三つは収まりそうな広さだ。
周囲をぐるりと金属製の塀が囲んでいる。
塀は紺色のペンキで塗られていたが、塗装の大半は剥がれ落ち、あちこちに赤錆が浮いていた。
道路沿いには観音開きの大扉があり、出入口はそこだけ。
空き地の奥には、塀にもたれかかるように積み上げられたスクラップの山があった。
キトとオライオンは、その山によじ登って遊んでいる。
階段を下りてくるグエンの姿を見つけると、いつの間にか階段の登り口まで駆け寄っていた。
エリエラに手を引かれたまま、グエンが最後の一段を下りた瞬間。
オライオンが駆けた。
「ウォンッ! ウォンウォン!」
白い小さな身体が、弾丸のような勢いで地面を蹴る。
全速疾走。
そして、大ジャンプ。
目指すはグエンの肩だ。
病衣の下には、まだ生々しい縫合痕が残っている。
「あ!」
エリエラが制止しようと手を伸ばす。
だが、オライオンには届かない。
両前脚を広げ、縫合痕へ爪が届こうとした、その直前。
「まって!」
キトが空中のオライオンを捕まえた。
柔らかな白毛を傷つけぬよう抱き留め、そのままグエンの目の前へ着地する。
「もー、危ないよ。オライオン。グエンさんケガしてるんだよ」
「キュゥ……」
オライオンは抱えられたまま鼻を鳴らした。
エリエラは胸元に手のひらを添え、安堵の吐息を漏らす。
「びっくりしました。キトさん、ありがとうございます」
「まったくだ。今飛びかかられたら、もう一日寝込むとこだぞ。しかし、素早かったな、キト。跳んだオライオンに追いつくとは」
「えへへ。駆けっことか得意だから」
「キト、オライオン。心配かけたな」
グエンはキトの頭を撫で、その腕の中で舌を出しているオライオンの頭も撫でる。
オライオンは嬉しそうに何度も頭を擦り付けた。
「ん?」
ふと、グエンは背後から聞こえた金属音に振り返った。
階段下の扉が開いている。
その向こうにガレージが見えた。
黒い大型モービル【グランディア】が格納されている。
「俺のグランディアだ。運んでくれていたのか」
扉をくぐり、ガレージへ足を踏み入れる。
エリエラが手を引いて先導し、その後ろをキトとオライオンが続いた。
ガレージ内にはグランディア以外の車両も並んでいる。
艶やかな黒い車体。
フロントカウル、フェンダー、シートカウルにはエメラルドグリーンのグラデーション。
同じ塗装が施された大型モービルが一台。そして小型モービルが二台。
さらに、その奥。
膝をついたまま固定された巨躯の鎧があった。
人型外重殻兵器【ヘビークラスト】。
グエンはその姿を見て眉をひそめる。
「こんな……玉虫みたいな色だったか? こいつ」
「そうですね。わたくしが見た時は、真っ黒でしたけど」
「あ、ほんとだ。色変わってる」
三人の声が広いガレージへ反響する。
ヘビークラストの足の間から、人間の両足が突き出ていた。
灰色のツナギには、エメラルドグリーンの塗料汚れが目立つ。
ジアだ。
コンクリート床に置いた車輪付きの整備台へ寝そべり、ヘビークラストの真下、股関節部を整備していた。
キトが駆け寄る。
「ジア、何してるの?」
「あ~、えっとねえ~。ジャンク品でクロスローラーベアリングを見つけたんだ~。掘削機からばらしたやつだけど~」
「へえ? すごいやつなの?」
「ん~、物はいいよ~。ちょっと削れてたけど、全然使えるレベルだったんだ~。ちょっと加工して合わせてるの」
「ふーん?」
グエンはエリエラの手を離し、ゆっくりとヘビークラストへ歩み寄る。
エリエラもその傍らに付き添った。
「そうか、ツナギに緑の塗料がついていたのは、全塗装したからか」
「そ~。ほかにも試したいことあるんだけど~、濃化重銀がないから燃料切れ~。高くて~、買えなくて~。暇だから色変えたんだ~」
「内側まできっちり塗装してあるな。装甲を外して全塗装、これを一人でやったのか? ……すごいな。大人顔負けってレベルじゃないぞ」
「デラダンの兄貴が色々拾ってきてくれるんだ~」
「驚いたな……」




