通学路にて
〜〜現代世界〜〜
「あの、すいません。この人を知りませんか?」
「え?」
それは日常生活の延長。学校から帰る途中の事である。
俺は通学路でとある少女に声をかけられたのだった。その少女は一枚の写真を俺に見せて尋ねてきたのだ。
「・・・この人を知りませんか?」
その少女は中学生くらいの年頃だろうか。金髪のツインテールにハーフなのか日本人には無い可憐な顔立ちをしていた。着ている服は高級感があり、何処かの名門私立のような制服を着ている。
こんな美少女に声をかけられたならば、大抵の人間は少女に見惚れて固まってしまうだろう。そのような魅力を放っていた。
そして、俺も固まっていた。ただし、別の理由でだ・・・下ネタじゃないぞ?その写真にだからな。
(何で、こいつが・・・)
そう、その写真に写っていたのは『新城瑠衣』だったのだ。もっとも、撮られてから2、3年が経っているのか俺が知っている新城よりも僅かに若く中学生の頃の写真のようだ。
(馬鹿な!新城瑠衣の記憶は皆忘れてしまった筈だ!?)
そう、新城瑠衣の事は学校連中の記憶、さらにはデータなどの資料なども消失してしまった筈なのである。
そして、俺はこれが新城が『異世界』へ行ってしまったからだと当たりを付けているのだ。
実は新城兄妹と会議した時に新城兄の時も同じような事があったと聞いていた。
幼い新城瑠衣は兄が居なくなり、探そうと資料を探した。しかし、自ら以外が持っていた私物を除いては全て消失していたらしい。また、兄を知っている筈の人々の記憶まで消失していたらしいのだ。
俺とモツの記憶に関しては新城が記憶の消去を行なったと聞いたが、自分の記憶までは消していないと本人も言っていた。まだ、完全に任務が終わって無いのに自分の記憶を消す訳無いでしょう?・・・と言われた。
・・・だが、それが消えていた。ならば、答えは異世界に行ってしまったからだと考えるのが自然だ。
それはラノベなどに良くある異世界転移の記憶のすり替えと言う奴だ。ラノベなどではいきなり消えてしまった人々の存在の穴を埋める為に存在自体が消えてしまう話が良くあるのだ。全く、恐ろしい話である。
しかし、例外はあるようだ。新城が兄の事を覚えていた事しかり、俺が覚えている事をしかりだ。
おそらくは個人の繋がりが関係しているのではと俺は考えた。消えてしまった者の大切な人間には記憶が残るのかもしれない。そして、俺に関してはモツが関係している可能性が高い。俺とモツの繋がりは切れていないのが証拠だ。
だからこそ、新城の写真を持っているこの少女は異常だ。
今言った理論で言えば、この少女は新城の関係者なのだろうが、そんなことを丁寧に教えてやる義理はないし『異世界に行きました』などと言っても嘘を言っていると言われて終わりだ。
よって、この場で答える言葉は・・・。
「知っているよ。可愛い子だったからね」
「っ!?ほ、本当ですか!!」
「ああ、ネットで見たんだよ。可愛い女の子たちとそのオマケ共がモンスターと戦う動画だったかな?」
「・・・え?」
そう、あの動画はこの言い訳の伏線であったのだ。もし、新城を知っている人間に会ってもネットで見たと言えばいいと考えたのだ。
ちなみに色々と工夫をして、簡単にはネットの主催者・・・即ち、俺にたどり着けないようにしている。
その答えに満足がいかなかったのか。少女は肩を落としたのだった。おそらくは既に動画の事は知っているのだろう。
「・・・そうですか。ありがとうございました」
少女は俺に背を向けてトボトボと歩き出した。
もはや、俺に目もくれていない。実に哀れな後ろ姿だった。そんな少女の姿に油断したのか、俺はつい余計な一言を言ってしまったのだった。
「人探し頑張れよ。新城だったら、その内に見つかるさ」
そう言った瞬間、少女の首がグルンと音を立てるようにこちらを向いたのだった。そして、一瞬の内に俺に詰め寄って来たのだった。
「あ、あ、あ、あなた・・・何故、お姉さまの事を、名前を知っているのですか!!言いなさい!何処にお姉さまはいるのですかっ!!」
「おっ、お姉さま〜〜〜〜っ!?いや、そうじゃなく・・・ネ、ネットで聞いたんだ!!」
「嘘をおっしゃい!!私はあの動画が何度も見ましたが、名前など一言も出て来ませんでしたよ!!」
「げっ!こいつ、マニアだ!!」
動画には編集の際に呼び名などが分からないようにしていた。特に新城に関しては。どうやら、それが裏目に出たようだ。
そして、少女の急変にも驚いたが、『新城=お姉さま』にも驚いた。もし、今度会ったら是非言って笑ってやりたい呼び名だ。もっとも、今の俺はそれどころでは無い。
口は災いの元とはよく言ったものだ。ああ、俺の馬鹿!素直な性格が恨めしい(モツの真似)です!!
「言わないのなら、実力行使で・・・」
「ちょっ!?こんな所でおっぱじめる気かっ!?」
新城との戦いの記憶が蘇る。そう、あいつは自分たちの事を異能力者と呼んでいた。つまり、新城の関係者であろうこの少女も・・・。
「・・・くっ!させるかっ!!喰らえっ!!」
「っ!?これはっ!?」
俺は少女に懐に入れておいたある物をぶちまける。
それは、胡椒瓶である。あの日、新城に襲われた日から、あのグローブと共に護身用としていつも懐に入れておいたのだ。それがついに役立つ時が来たのだった。
「・・・さらばだ」
「ま、待ちなさい!げふぅ、ハクション!!は、は、ハクション!ハクション!!」
俺は『シュタ!』と右手を上げて、少女から逃げ出した。なんと言う鮮やかな逃走劇であろうか。
それに対して少女はかなり予想外な出来事だったのであろうか、思い切り胡椒を吸い込んだようで、かなりむせている。
「・・・涙に咽び泣くが良い!!」
そんな捨て台詞が町に響き渡る。こうして、俺はあっさりと少女を振り切ったのだった。
しかし、俺は知らなかった。この行為をご近所様たちに見られていた事に。一応、彼女の方から詰め寄ったのだから、全責任がある訳では無いがこの一件でご近所様の噂の的になってしまうのだった・・・俺の命運はいかに!!




