新城瑠衣
「行かないで!お兄ちゃん!!」
漆黒の闇の中で、幼い頃の記憶が蘇ってくる。ああ、そうだ。これは10年前の・・・お兄ちゃんを失った時の記憶だ。
私の名前は新城瑠衣。とある異能の力を受け継いだ一族の末裔だ。
そして、うちの一族は代々不思議な力を持っていた事から、とある組織に所属している。その組織は異界と言う物を調べ、世界の平穏を守るという胡散臭い名目の組織だったわ。私も・・・突然にいなくなった兄もそこに属していたわ。
10歳も歳の離れた兄。私はよく可愛いがってもらった。私は兄が大好きだった。よく仕事に行く兄に行かないでと泣き喚いたものだった。あの日もそうだった・・・。
「大丈夫、すぐに戻ってくるから・・・」
そう言って優しく微笑む兄。いつものように言って、いつものように家を出て行った。違ったのは、それっきり戻る事が無かっただけだ。
「お兄ちゃんの嘘つきっ!!」
私は怒った・・・そして泣いた。
兄も組織からの依頼で異界の調査に出かけた。この世界ではごく稀に異界へと通じる穴が開く。それは、世界の歪み・・・やがては世界を侵食して行くと聞かされていた。
時が経ち、私も一人で戦えるようになった。私も兄と同じように組織からの依頼で異界に関する調査をするようになった。
私はまだ諦めてないわ。兄はまだ生きている、そう信じるって決めたから・・・。異界の調査をしていれば、やがて兄に会えるかもと僅かな希望を胸にして。
何度も外れを引いた。何度も戦かった。辛い戦いも何度もあった。でも、諦めてない兄が見つかるまでは・・・。
そして、私はとある街にやって来た。数週間前にこの街で一瞬だけ、今までにない程の空間の乱れが起きたらしい。当然に組織は私たち異能者に依頼してきた。派遣された私たちは独自に調査を開始して今に至る。
しかし、乱れの発生から数週間。まるで手掛かりが無く何の異変も起きなかった。今までに無いケースであった。
今までならば、人が突然にいなくなるなどの事件が起きていたが、この街では平穏な時だけが過ぎて行く・・・今回は外れかなと、そう思い始めていたある日の事だった。
「ま、まさか、死んだのかっ!?」
束の間の平穏生活。侵入した学校の授業中、一人の生徒が突然、大声を出して立ち上がった。えーと、誰だったけな?・・・名前が思い出せない。とりあえず、授業中なんだから静かにしなさいよと思っていた次の瞬間であった。
「ふぎゃあああああっ!!」
突然に空間に穴が開き何が、その生徒の頭に落ちてきたのだった。おそらくは魔物の類であるのだろう。
しかし、あのように愛嬌があり、喋る魔物など見た事が無かった。その生徒と魔物は顔見知りなのか、言葉を交わす『邪神様』などと訳のわからない言葉が聞こえてきた。
その生徒は事態に気付いたのか、その魔物を連れて教室を出て行った。
はっ!・・・あまりことに私も唖然としてしまった!!こうしてはいられない。
私は異能を使い、教室にいたクラスメートの10分間ほどの記憶を消去すると、慌てて彼らを追った。何処に行ったのよあいつら・・・。
そして、やっと見つけた。危機感が無かったのか、見つけた時にはジュースを飲みながら話している最中のようだった。
その生徒は私が詰め寄ると、事もあろうにしらばっくれようとした・・・騙される訳無いでしょうが!!おまけに名前を間違えられるなんて、初めての経験であった。大抵の人は一度で覚えてくれるのに、二週間近く同じクラスでどうして覚えてないのよ!?
私は愛用の武器を取り出して身構える。生徒は魔物と小声で言葉を交わすと、魔物は距離を取ったのだった。
一体、何をする気!?させないわっ!!私は魔物が何かをする前に倒そうと刀を構えて走りよる。
その際に魔物が生徒にグローブ(?)みたいなものを投げ渡して、私に攻撃してきた。しかし、呆気なく返り討ちにする。何よ、そのへっぴり腰は・・・てんで、ど素人じゃないの。
「は、早く行けーー!!」
どうやら生徒は囮であったようだ。生徒は魔物に早く行くよう叫ぶ。魔物の方に目を向けると、魔物は謎の光に包まれ消える寸前であった。逃がすものですか!やっと見つけたんだから!!
私は咄嗟に手を伸ばしてしまった。そして、その魔物の尻尾を掴んだのだった。
「何よ、これぇ〜〜〜〜〜〜!?」
思わず情けない声を出してしまった。光が、私をも巻き込んでいく。これが、私が覚えている最後の記憶だ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あたたた・・・」
「・・・つ〜、何処よここ?」
目を開けると私は豪華な家具が大量に置かれている部屋にいた。そして、隣にはあの魔物の姿がある。
「ここは・・・やったです!戻ってこれたですよっ!!」
魔物はここが何処か知っているようだ。嬉しそうな声を出して飛び跳ねている。ならば、何が何でも話してもらうまでよ。
そして、私が魔物に詰め寄ろうとしたその時であった。昔に聞いた優しい声が私の耳に届いたのは・・・。
「・・・随分と懐かしい声がするものだね」
声の方を向くと扉が開き誰かが部屋に入って来る。ま、まさか・・・あなたは・・・。
「ただいまです!ヒグラ先生!!」
「おかえり、モツ君。皆、君を心配していたよ」
「うう、ごめんなさいです〜〜」
親しげに会話する魔物とその人物。そして、その人は優しく私に微笑んだのだった。
「久しぶりだね。瑠衣」
「っ!?日暮お兄ちゃん!!」
・・・こうして、私は10年ぶりに兄との再会を果たしたのであった。




