第十三話 看板があったら完璧
……いや、いやね?さっきも言ったんだけどよ?魔力の香りうんぬんは別にいーんだよ。
それより今日提出がある数学の宿題の方が重要なんだよ。まだやってねーから。
とりあえず、とりあえずな?アクアンは留守番のはずだ。はずなんだ。
俺はリュックを覗き込みながら、今朝のやりとりを思い出す。確かに、アクアンは留守番をすると言った。間違いない。
先程、俺は教室に入り、自分の席にどさりとリュックを置いた。そこまでは良かった。いつも通りだった。
しかしリュックのジッパーを開けた時、一度フリーズした。
もう一度確認するが、アクアンは留守番だ。そう言ってた。
しかし、リュックを開けたら、いた。あのぷにぷにボディのぬいぐるみが、なんか普通に、入ってた。しかも目が、合った。
「!!?」
なんでだーーーーっ!?
驚きで声が出そうになったがそこは気合いで止める。でっかい声出したらバレちゃう!
まさかこんな、ぬいぐるみを学校に持ってきてるだなんて噂がたってしまったら恥ずかしすぎる!
「どうしたの治彦?」
俺が(頑張って)無言で慌てていたのを察してか、恵助が俺の背後から話しかけてきた。
やめろ!後ろに立つな!お前身長高いから、俺の背中越しからでもリュックの中身見えるだろ!?
「ちょ、あ、トイレ!!」
俺は恵助に見られる前に、リュックを抱えてトイレにダッシュした。勢いよく引っ掴んだせいで、リュック越しにぐにゅっと変な感触がしたけど、それどころじゃない。
後ろから恵助の「リュック持ってトイレーー!?」みたいなツッコミが聞こえたけど、それも無視だ無視!
人がいるとまずいので、この時間にはあまり使われない北館のトイレに走る。ラッキーなことに、俺の教室がある中館三階と北館は通路で繋がっているので、そこまで手間取らずにトイレに到達することができた。(何人かの先生や生徒に変な顔されたけど)
勢いよく個室に滑り込み、バン!と扉を閉めしっかり鍵をする。
安全を確認したうえで、俺はリュックを開けた。そして同時に、叫ぶ。
「なんっっっでいるんだお前ーー!?」
人がいないのを良いことに、叫ぶ。いや、ほんとに何でいる。なぜ。何ゆえ。
しかし、俺の心からの叫びに、アクアンは迷惑そうな顔をした。
「五月蝿いな、わざわざトイレにまで来て。何か問題があったか?それに、先程のあれ痛かったんだが?」
「オオアリだよバカ野郎!?何普通にリュックの中にいるわけ!?クラスのやつに見られたらどうすんだ!!さっきのはごめんな!!」
何を言っているんだという目をするアクアンに、いやお前こそ何言ってんだという気持ちになる。
むしろ何も言わず学校に着いてきて、なんで問題ねーとか思ったわけ!?
アクアンの、機嫌が悪そうなジト目と共に告げられた苦情については、素直に謝った。でも必要な犠牲だったとは思う。
俺のツッコミ兼謝罪にどう思ったのかは知らないが、アクアンは一度ため息をつき、「いや……」と喋りだした。
「冷静に考えたら、悪魔にいつ襲われるか分からない状況で、キミを単独行動させるのは危険だと思ってな。だからこうして、ぬいぐるみのふりを……」
「それはそれで危ねーやつになんだろ!つーか、それならそうと早く言えよ!」
「ドッキリだ」
「迷惑!!」
ねぇこのぬいぐるみ馬鹿なの!?馬鹿だろ!人のこと馬鹿にするわりに馬鹿だろこいつ!
真顔で堂々と言いやがりおったアクアンに、俺は頭を抱えた。もう何からツッコめばいいのか分からない。
アクアンは続けて、「現世にはこういった娯楽があるんだろう?なぁ?」などとのたまい、ドヤ顔をかましてくるが、アホなのかお前はという感想しか浮かばない。アホ、馬鹿。おまけにもう一個、馬鹿。
そしてタイミングが良いんだか悪いんだか、そこでホームルーム開始十分前を告げる予鈴が、キーンコーンカーンコーンと鳴った。
……教室に帰らなければならぬ。俺は馬鹿だが、無遅刻無欠席の健康な馬鹿なのだ。
「お前、ぜったい、ぜっっったいに出てくるなよ!!」
俺は、リュックから顔を覗かせるアクアンに、ぐっと顔を寄せて念を押した。ガン飛ばしてるみたいになってる気がしなくもないが、まぁ人いないし……うん。
俺の近づいた顔にめげることなく、アクアンはまったく何を……という表情を浮かべる。
「そんなに言わなくても分かるぞ、バカ」
「いや、この場合馬鹿はお前だからな?」




