第十話 細胞のお話~ミトコンドリアって書けば許される~
「……は、魔法?え、悪魔って魔法使えんの!?」
つーか檻の力以外にもなんかあんのかよ!?
俺のわけがわからないという顔に、アクアンは何を言っているんだ?とでもいうような顔をする。
「使えるさ。ボクたち天界の者と、魔界の者はね」
「え、お前もかよ!?」
「察しが悪いなキミ。さっきボクがいきなり出てきて驚いていただろう?」
「あ、あー!?あれ魔法なのか!?」
さっき蘭が出かけてから、パッとアクアンが現れたことを思い出す。
急に目の前に出てくるせいでビビる、あれ。この二日間で既に何度もビビった、あれ。魔法って言われれば、確かに納得できる。
「あぁ、あれは自分の姿を消す魔法、消失だ」
聞いたことあるような、ないような、よく分からない単語に、俺は「ふーん」と相槌を打った。
「え、じゃあ俺も使えたりすんのかな」
「使える訳ないだろう。ボクらは体内に魔力を持っているが、人間には魔力がないからな」
アクアンはさらに新しい炒飯を口に運びながら、頭おかしいんじゃないか?という顔をした。
いや、そんな顔されたって知らねーもんは知らねーからな!?常識みたいに言わないでくんねーかな!?
つーか人間は魔力ないのか……檻の力やら心力やら、なんかファンタジーな力はあるくせに。
「そもそもボクらとキミとでは、細胞の構造から違うんだよ」
俺の表情を知ってか知らずか、手にした子供用のスプーンを教鞭のように持ち、アクアンが得意気に話し出した。
……急に生物の授業みたいな話になったぞ!?
「細胞の……構造?」
まったく予期せぬ勉強チックな話に、俺はつい間抜けな声を上げる。
「なんだキミ、細胞も知らないのか?」
「あ!馬鹿にすんなよ!細胞くらい知ってるわ!!」
俺の要領を得ない反応に、またアクアンは馬鹿にするような顔……をではなく、本気で引くぞという顔をした。
お前顔文字みたいなパーツしといて、よくそんな複雑な表情できるな?という感想はさておき、俺はギッツと噛み付く。どんだけ馬鹿でも、流石に細胞は分かる!
「そうか、なら話を進めるぞ」
「おう」
進めろ進めろ、これでも仮に高校二年生だ。なめないでもらいたい。
「まぁ簡単な話だ。ボク達の細胞には魔力を作り出す細胞小器官……リコと呼ばれるものがあって、キミ達人間の細胞にはそれがない。単純だろ?」
「ちょ、ストップ!なに、いきなり細胞しょ、しょーきかん?って」
急激に難易度が上がったアクアンの話を、俺は挙手して止める。
細胞は分かるぞ!分かるけど!しょーきかん?なんてものは知らないぞ!普通の公立高校二年生をなめないでもらいたい!
「キミ学生だろ?細胞小器官くらい知ってなきゃまずいんじゃないか?」
「あ?いーんだよ別に!そんなん知らなくても生きてけるの!つーか世の高校生はだいたい知らねーよそれ!」
「キミ……それこそ学生をなめすぎだろう」
「いーや、なめてない!絶対そうだ!」
世の学生の全てが、授業で習ったことを完全に覚えてると思ったら大間違いだぞ!だいたいその日にすっぽ抜けるか、そもそも聞いてねーんだからな!
(※あくまで治彦個人の見解です)
「……らちが明かないな。とりあえず、バカなキミにもちゃんと伝わるように、一から説明してやる」
「とてもムカつくな」
「事実だろ」
アクアンが「やれやれ、しょうがないな」と言いたげに両手を広げ(といっても短いけど)肩の高さまで上げた。その大袈裟な動作に、とてもイラッときたのだが、これ以上は言い返せないので黙ることにする。
「細胞小器官というのは、細胞内で呼吸を行うミトコンドリアや、タンパク質の合成に必要な翻訳を行うリボソーム……そういった生き物が活動するのに必要なことを行う、細胞の中にある器官だ」
「ほう」
ミトコンドリアはなんか聞いたことある気がする。
俺は一学期に受けた、生物の期末テストを思い出した。そういえば、直前に読んだ教科書に書いてあったので、よく分からない空欄は全部ミトコンドリアで埋めてたような気がする。生物担当であり、なおかつ担任である先生には怒られた。
「ボクらみたいな化身、それに天使や悪魔の細胞には、魔力を作り出す細胞小器官、マナが存在する」
アクアンは、手にしたスプーンでくるりと空をなぞる。そこからすいーっと、何かを描くようにスプーンを動かした。
「そこから作り出された魔力が血液によって運ばれ、体内を循環する……そうすることで常に魔力が体内に存在し、ボクらは魔法を使うことができるんだ」
「なるほど……」
なんとなく相槌をうったが、正直わりと混乱している。
新しく与えられた単語が、ぐるぐる脳内を回っていく……マナがどれでミトコンドリアがなんだったっけ?あれ?あーもう!何個か単語忘れた!
「ちなみに心力を作り出すのはウハネという細胞小器官で……」
「え……あ、うーん?」
アクアンは、ついでとばかりに新しい説明をしようと、またスプーンを揺らした。
ちょっと何を言ってるのか分からないし、これ以上新しい知識を与えられても入ってくる気がしない。(今も入ってきてるとは言い難い)
もう要領いっぱいな俺は、ギブアップの意味を込めて首をかしげた。
「……悪魔や天使は魔法が使えて、人間は使えない!それさえ分かればいい!」
俺の真意が伝わったのか、それとも、これ以上説明しても無駄だと思ったのかは分からないが、アクアンはそう言うと、スプーンで俺をビッと指した。
それでいいならそれでいいや!
俺は理解を諦めた。




