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第二十一話 シャラブール図書館

 酒場での情報収集から約三日。

 シルクの姿は町の中心部にある図書館にあった。


 彼女が見ているのは主にこの町の歴史と構造について書かれている本だ。


 当初、彼女はエルフ商会の支部のあたりを重点的に歩き回って入り口を探していたのだが、それでは埒が明かなかったので、町の成り立ちに何かヒントはないのだろうかと考え、図書館を訪れていた。


 地下施設の規模がとても大きかったあたり、本来の使用目的が書いてないにしても、地下空間を作る過程もしくは地下空間そのものについての記述がどこかにあってもおかしくはない。

 そう考えての行動だ。


「……にしても、地上に関することはたくさん書いてあっても地下に関することは全然だな……」


 あれほどの地下空間だ。住民に気づかれずに作ったとは考えづらいから歴史書に何かしらの形で記載されていてもおかしくないと思っていたのだが、これまで読んだ内容には全く持って地下空間の記述はない。


 そうなると、地か空間の存在に関わる記述自体を隠蔽してしまっている可能性すら出てくる。


 それが何を意味するのかまでは理解しきれないが、少なくともなにかしらの大きな力が働いているのは間違いないだろう。


「一体全体どうなっているんだ……この町は」


 おそらく、この調子だと町の住民に地下空間のことを聞いたところで知っている人などいないだろう。

 なぜなら、この町は旧妖精国に作られた比較的新しい町だ。高齢の住民に聞けばこの町の成り立ちをある程度聞けるぐらいには。

 それにもかかわらず、これほど資料がないというのは意図的に隠ぺいを図っているといわざるを得ない。あの地下空間は何のための存在なのか? この町の上層部は何を隠しているのか? それを考え出すと、頭が痛くなってくる。


「……お嬢ちゃん。そんなに若いのに調べ事だなんて感心だねぇ。何について調べているんだい?」


 シルクが頭を抱えていると、背後からおっとりとした声がかかる。


「えぇまぁその……この町について調べ事を」


 答えながら振り向くと、白ひげを蓄えた高齢の男性が立っていた。


 彼はほっほっほっと笑い声をあげてから、一冊の本を差し出す。


「そうか。そうか。だったら、こっちのほうがより詳しいことが書いてあるぞ。まぁ本来は図書館の棚に置いてあるような本ではないだの」

「……といいますと?」

「……ほっほっ“シャラブール都市計画概略 裏の書”作者はオリーブ・シャララッテ様じゃ。まぁ今回はサービスだと思って受け取ってくだされ。それと、これは蔵書ではないからの。好きにしてくれてかまわんよ。これを読んでさらにこの町について知りたいと思うのなら、わしに声をかけてくだされ。わしは大体この図書館の中におるでの。まぁ相応の料金は取ることになるが……ほっほっほっ」


 その老人はシルクに本を渡すと、そのまま立ち去っていく。シルクはその背中を呆然と見送った後、ゆっくりと手元の本へと視線を落とす。


「シャラブール都市計画概略 裏の書……これに私が欲しい情報は書かれているっていう事?」


 口に出したこと以前に先ほどの老人が誰かということが気になってしょうがないが、今はそれを追及している場合ではない。とりあえず、今はミルの救出が最優先事項だ。

 そう考えてさっそくシルクは本を開く。


 “この本は“シャラブール都市計画概略”の補足資料であり、外部への流出は基本的に禁止とする。”


 そんな一文から始まるこの本は主にシャラブール都市計画の概略が書かれており、町の成り立ちやこの場所に町を作ろうとしている理由などが書かれている。


 どうもシルクの欲しい情報が載っている本ではなさそうだ。そう判断して閉じようとしたとき、ある一文がシルクの目を引いた。


 “領主マミ・シャルロッテからの依頼について”


 マミ・シャルロッテいえば亜人追放令を発令した張本人であり、旧妖精国地域の一端を担うシャルロ領の領主である人物だ。

 そんな人物からの依頼というのはどういった内容なのだろうか?


 シルクはさっそくページをめくる。


「これは!」


 シルクが感嘆の声をあげたのはその数瞬後だった。


 そこに記されていたのはまさしくシルクが欲していた地下空間についての情報だ。


 曰く、その政策の依頼主はシャルロ領の領主であるマミ・シャルロッテである。


 曰く、その空間は町の下を木の根のように縫い形成されている。


 曰く、その地下空間の入り口は無数に存在している。


 曰く、その入り口の存在は秘匿されなければならない。


 曰く、その地下空間の存在は関係者のみに明かされ、工事は極秘裏に行う。


 曰く、その地下空間が完成した暁には関係者の記憶を消す必要がある。


 曰く、地下空間の使用目的はオリーブ・シャララッテすらも把握していない。


 簡単にまとめればこのようなところだろうか?

 地下空間の使用目的自体は著者であるオリーブ・シャララッテも知らないようだが、その存在があるということは確定とみて間違いないだろう。となると、あとはその構造だが、入り口が無数にあるという記述以外に地下空間の具体的な構造などに書かれているページは存在していない。

 極秘裏というぐらいだから、このようなに誰かの手に渡る可能性がある形で残していないのかもしれない。


「まぁでも、この情報を得られただけでも良しとするか。ともかく、地下空間の入り口を探すとしようか」


 そうぽつりとつぶやいてシルクは立ち上がり、本をカバンの中にしまう。


「それにしても、あのご老人は何をもってして私の悩みを当てたんだろうか……どうも、不思議でならない」


 ただ一つ。例の老人の正体が気になって仕方がないシルクであるが、今はそれを気にしている場合ではないと考え直し、図書館の外へ向けて歩みを進める。


「……ほっほっほっいい情報が得られたようじゃな……またのご利用をお待ちしているよ」


 図書館から出ようとしたその時、背後からご老人の声が聞こえたような気がして振り向くが、そこには誰もいない。

 気のせいだっただろうかと、首をかしげシルクは再び前を向いて歩き出した。




 *




 シャラブール図書館の一番奥の奥。

 禁書棚のある区画の入り口付近。


 そこには真っ黒なテントが張られていた。


 そのテントの中に置かれた椅子に座っているのはシルクに本を手渡した老人だ。


「さぁてぇ……彼女はどうやってーあがいてくれますかねー」


 老人の口元が三日月の形にゆがむ。

 その表情はシルクに向けていた気のよさそうな元とは違い悪意に満ち溢れたものだ。


「……ふっふっふぅ……今から楽しみなのですよー」


 その独特な口調と笑い声はテントの中だけに反芻し、外へと漏れることはない。彼はそんな空間の中でただただ不気味な笑い声をあげていた。

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