第9話 私の弟
短編集『あなたのとなり』
「私の弟」
私と弟の、家族の物語
私には三つ下の弟がいる。なんてことのない、ただうるさくて目障りな弟だ。冷蔵庫にしまってあった私のプリンを横取りするし、友達が遊びに来たらなぜか付いてくる。
私はそんな弟が大嫌いだった。父と母の愛情を一身に受け、長男として大切に育てられているのもわかった。
そんな私も、子供の頃は弟を可愛がっていた。
「弟か妹がほしい。」
そんなこと言った覚えはないが、おそらく言ったのだろう。自我が芽生えた時、私は両親から聞かされた。
花が美しく咲き誇り、暖かな日差しが窓から振り注ぐ朝、私の弟は生まれた。天使のような輝きをまとった、可愛い弟だった。
「おむちゅこうかんしましょーね。」
私は最大限、お姉ちゃんとして弟に尽くしていた。何をされても可愛かった。弟って、こんなにもいいものなのかと、心から思っていた。
私が小学生になったとき、変化は起こった。今まで可愛がっていた弟が、急に可愛く思えなくなった。おそらく、私の気持ちの変化だったのだろう。ぬいぐるみのような感覚だった弟が、本当は一人の男の子だと認識したのだ。
それでも、共に笑う時もあれば、喧嘩することもある。それが姉弟というものだ。それを両親は温かく見守っていた。
私が中学に上がった頃、思春期と反抗期が重なったのもあり、弟についてこられるのも、弟と一緒にいるのをみられるのも嫌になった。
なんで勝手についてくるの?私は一人になりたいのに。好きな人に見られたらどうすんの?ブラコンだと思われたくないよ。そんなことばかり考えていた。
高校に上がった時、私は一人になった。やっと弟から解放される。両親が弟を可愛がるのを見なくて済む。そう思っていた。
一人暮らしになってわかったのが、孤独の寂しさだった。友達が遊びに来る。けど、家族という心の支えがなくなるだけで、こんなにも辛いものなのかと思った。
私を案じて、先生や友人が様子を見に来てくれたりもした。そんな私に、時々会いに来てくれたのが、弟だった。
あんなに毛嫌いしていたのに、来てくれるだけでこんなにも嬉しいのかと、家族というものの大切さを知った。
「早くあっち行かないの?」
私は意地悪をいう。
「お姉ちゃんが寂しそうだったからさ。来ちゃった。」
弟は、私を案じてそう答える。その言葉だけで、私の心が満たされていくのを感じた。
「お父さんお母さんは元気にしてる?」
「お姉ちゃんのこと、心配してたよ。やっぱり一人にさせるのは辛いって。」
私は、両親も心配してくれているのを聞き、目が潤んでいくのがわかった。
私は、別に一人暮らしに憧れていたわけじゃない。
私は、望んで一人暮らしを選んだわけじゃない。
私は、ただ知らぬ間に一人暮らしになっていた。
いつの間にかいなくなっていた弟をとなりに感じ、絞り出すように呟いた。
「私を、一人にさせないでよ。」
私の声が、広い一軒家に寂しく響いて消えていった。
短編集『あなたのとなり』は思いついた時、不定期に更新する短編として投稿していきます。
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