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あなたのとなり〜心の隣に誰かがいる短編集〜  作者: aduchi


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第4話 友達として

短編集『あなたのとなり』

 第4話「友達として」

2人の女子高生が、ただ買い物に行く物語です。

 朝の柔らかな日差しが、私を照らしていく。

 眠たい目をこすりながら、私はベッドから体を起こし、朝ごはんの香りのするところへ向かった。


「あら?今日は早いわね?」


 朝食を作り終え手を洗っている母が、笑いながら話しかける。


「今日友達と買い物の待ち合わせだからー。」


 味噌汁の温かな風味を楽しみながら、私は予定を母に伝えた。

 今日は晴音と電車に乗り、隣町のショッピングストリートへ行く予定があった。晴音が、彼氏に贈るものを物色したいのだという。

 彼氏がいた事がない私と出かけていいのか?とも思ったが、晴音が私を選んでくれて、多少の嬉しさはあった。

 晴音は多少サバサバした性格で、友達とつるむ感じではない。だが、最近できた2歳上の彼氏には、素の自分が出せているらしい。


「彼氏か。まだ分からんなー。」


 あのサバサバした晴音からは想像できないほど、私に買い物の同行を頼んできたときは、乙女の顔をしていた。

 

「はるねー。お待たせー。」


 私は、先に駅に着いていた晴音を見つけ声をかける。


「なつき、遅いぞー。」


 少し膨れて、でも笑いながら答えてくれた。

 初夏の日差しとしては温かく、頬を撫でる柔らかな風も、湿気を含んだ蒸し暑さを感じさせた。

 晴音と、最寄り駅から京浜東北線の上り列車に乗り石川町駅へ向かう。


「晴音、今日はどんなの買う予定なの?」


「うーん、厳密には決めてないんだけどさ、彼がネックレスみたいなの欲しがってたから、それかなー。」


 晴音が、必死に顔に出さないようニヤつきながら私に教えてくれる。晴音のこんな一面を見れるとは思わなかった。

休日の石川町駅には、横浜中華街や元町を訪れる観光客や買い物客が行き交っていた。はぐれないように晴音を確認しながら進んでいく。

 人並みが落ち着き、2人並んで歩けるようになったとき、ずっと気になっていたことを質問した。


「ぶしつけなんだけど、何で私が買い物に誘われたの?」


 少し晴音が困ったように考え込む。


「うーん、なんとなく?」


「なんとなくってなによー。」


「いいじゃない、スイーツおごるから機嫌直してよ?」


 私は納得しなかったが、スイーツをおごってくれるならと、釈然としない気持ちを飲み込んだ。



 以前の私にとって夏希は、よくわからないやつだった。まぁ、関わりがなかったと言っても差し支えがない。いつもつるんでる綾香と居たほうが気が楽だったし、他に友達なんて要らないとも思っていた。

 三年の同じ部活の先輩から告白されたのは、私の恋愛観を変える出来事だった。別に恋愛などしなくても生きていけると思っていた。だから私が、校内の乙女たちが憧れる王子様からアプローチを受けるなんて思っても見なかった。返事は、「とりあえずお試しに」ということにした。

 なぜ私なんかがお眼鏡にかなったのか知りたくて、彼にそれとなく聞いてみた。


「顔が好みとか、サバサバした性格が好きとかいろいろあるけど。一番は見た目より友達思いで、色々なところをしっかり見ていて、本当は優しい子なんだって思ったら、いつの間にか好きになってたんだ。」


 そんなこと言われたことなかった。確かに綾香とは友達同士だ。でも、部活内ではできるだけ関係を深くしようとは思わなかったし、ましてや先輩なんて、雲の上の存在だと思っていた。

 私は、中学時代に友達とうまく仲良くできなかった思い出がある。内気な子で、いつも私と綾香についてきていた。本当はもっと仲良くしたかったけど、周りの視線が許さなかった。

 どうしてあの子と仲良くできなかったのだろう。今ではその子の名前さえ思い出せない。おそらく、それを今でも引きずっているのだろう。他人と距離を置き、関わりを必要以上に求めなくなった。

 なぜ先輩は、私のことを優しい子と言ってくれたのだろうか。私の傷ついた心を、ちゃんと見てくれるのだろうか。そう思い始めたとき、私の心に彼という居場所ができていた。

 それでも、部活内で人気の先輩と付き合っているというだけで、自分のことは棚に置き、あなたは先輩とは釣り合わない。先輩に色目使ったんでしょ。と言ってくる奴が多かった。

 あぁ、人間ってなんてバカで愚かな生き物なのかと絶望しかけたとき、夏希が話しかけてくれた。


「あの先輩と付き合えたの!?本当におめでとう!」


 夏希は自分のことのように喜んでくれた。今まであんまり関わりはなかったはずなのに、他人をここまで嬉しがってくれるなんて……。そう思ったとき、私は固く閉ざされた氷が溶けていくのを感じた。

 「友達」というものを、もう一度作ってもいいのだろうか。この子なら、私の本音を言えるかもしれない。


「なつき!今度の土曜日に買い物一緒行かない?」


 考えるより先に、私は夏希を誘っていた。



 晴音はいつもより上機嫌に見えた。いつもなら一歩引いたような目をして、いろんなことに興味がないように見せていたのに。

 やはり彼氏ができたからだろうか?贈り物を選んでいる目が輝いて見える。


「なつき!これなんかどうかな?」


 ネックレスを手に取り、輝く瞳で私を照らす。

 それは今まで見てきた晴音とは全く違うものだった。

 彼氏が一人できるだけで、こんなにも人は変われるのか。そう思った瞬間、口から変な言葉が出てきた。


「あー、彼氏欲しー。」


短編集『あなたのとなり』は思いついた時、不定期に更新する短編として投稿していきます。

読んでもらえると嬉しいです。よろしくお願いします。


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