表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらコンプライアンス室 ~令和が歪める戦国絵巻~  作者:
第1部:コンプライアンス室爆誕~歴女の覚悟~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/12

第1章 第7話:迷走する辛口審査と、キャスター椅子の三太刀七太刀

川中島の戦いクライマックス。歴史好きなら「もしかしてあの…!?」と想像つくかもしれない名シーンです

濃霧がすっかり晴れ渡り、眩しい朝日が差し込む早朝の千曲通り。


私と望月先輩は、空っぽになった妻女山から息を切らして山を駆け下り、甲斐支社の本陣である『茶臼本店』へと辿り着いた。


「ハァ、ハァ……! なんとか、戻ってこれましたね……」


「ちょっと優奈葉ちゃん、足遅すぎ……。でも、なんとか間に合ったみたい……って、あれ?」


店のガラス窓に張り付いた私たちは、中で繰り広げられている異様な光景に絶句した。


なんと、まだ早朝だというのに、店内には『カフェ・ド・川中島』の社長をはじめとする経営陣がズラリと座り、ポカンと口を開けていたのだ。


「どういうこと!? コンペは午後からじゃなかったの!?」


どうやら、上杉陣営が「車懸かりの高速プレゼン」を仕掛けるために、寝ていた経営陣を強引にホテルから引っ張り出し、時間を大幅に前倒ししたらしい。


店内はすでに、両陣営が入り乱れる大乱戦の様相を呈していた。


「甘い! 甘すぎるぞ上杉ぃ!!」


審査員席の中央で、眼帯の山本さんが分厚いガラケーを握りしめながら吠えていた。


「こんな砂糖の塊みたいなスイーツを出して、糖尿の人の事を考えんのか!? ワシは辛党なんだよ! カフェインとカプサイシンしか勝たんのだ!!」


などと、お洒落なカフェのコンペに対して斜め上のクレーム(難癖)を大声で繰り出しながらも。


「……モグモグ。うん、生地がフワフワだ。美味い。モグモグ」


山本さんは、出された色鮮やかなマカロンや粉雪のようなティラミスを、信じられないスピードで両手を使ってガツガツと平らげていくのだ。

口の周りにクリームをべったりとつけながら、昭和のおじさんはスイーツの虜になっていた。


「なっ……!?」


車懸かりの陣で、次々とプレゼンを仕掛けていた越後支社の面々が、その光景を見てピタリと足を止めた。


(あんなに大声で文句を言いながら、完食しているだと!?)


(もしかして、我々のスイーツに何か重大な欠陥があり、それを隠蔽するために証拠隠滅を図っているのか!? いや、それとも何か恐ろしい罠か!?)


甘いものを貪り食う山本の矛盾した行動に、完璧だった越後のローテーションに一瞬の『迷い』が生じた。


「今だ! 隙ありぃぃぃ!!」


そのほんの一瞬の綻びを、歴戦の赤ジャージ軍団は見逃さなかった。


車懸かりの波状攻撃に目を回していた甲斐支社だったが、彼らのタフな営業力は伊達ではない。


「食らえ! 我らが魂の激辛ほうとうだ!!」


「むぐっ!?」


プレゼン用のタブレットを持ったまま硬直した越後社員の口に、武田陣営がレンゲで強引に『激辛ニンニク豆板醤ほうとう』をねじ込んだのだ。


「ゲホッ、ゴホッ! カライ! なんだこの暴力的な味は……って、あれ?」


むせた越後社員の顔が、瞬時に驚きに染まる。


「……う、美味い!? ニンニクのパンチが効いた濃厚な味噌に、コシのある太麺が絶妙に絡んで……いや、でもカフェのコンセプトには全く合ってない! 癒しの空間が汗だくになる! なんだこれは!!」


「がははは! 脳で考えるな、胃袋で感じろ!! ほれ、次のおかわり(プレゼン)だ!!」


お洒落なスイーツと、激辛ほうとう。


互いに互いの試作品をぶつけ合い、強引に相手の口にねじ込み合うという、もはやビジネスのコンペとは呼べない血みどろのフードファイト。


「もう食えん……胃が、胃が破裂する……」


「タブレットが……ほうとうの汁でベタベタだ……」


開始から数時間。両陣営の社員たちは、プレゼンの疲労と胃袋の限界を迎え、次々とフローリングの床に崩れ落ちていった。巻き込まれたカフェの経営陣も、「うちの店は、リラックスできる空間だったはずなのに……」と、あまりのカオスに魂が抜けたような顔をしている。


だが、そんな満身創痍の戦場において。


後方で指揮に徹していた両大将――武田支社長と上杉支社長だけは、まだ無傷で余力を残していた。


「ふぅむ。戦線は膠着状態か。……モグモグ」


審査員席の奥深くで、武田支社長が呑気に何かをつまみ食いしている。


よく見るとそれは、未遂に終わったキツツキ戦法(巨峰混入作戦)のために用意し、結局使われずに余ってしまった『山梨名産・種あり巨峰』だった。


「やはり疲れた時には甘いフルーツに限るな。この巨峰、実がパンパンに詰まっておるわ」


武田が油断しきった様子で、巨峰の皮をツルンと剥こうと視線を落とした、その瞬間だった。


「――隙ありッ!!」


店の入り口付近に陣取っていた白スーツの義将が、動いた。


「なっ……!?」


上杉支社長は、おもむろに近くにあった『静音性の高い高級ビジネスチェア(キャスター付き)』に跨った。


そして、両足で力強く床を蹴り、シャーッという滑らかな、しかし確実に床の摩擦音を響かせながら、一直線に武田の真正面へと『一気駆け』の突撃を敢行したのだ!


「信玄ッ! 覚悟ぉぉぉぉ!!」


上杉の雄叫びが店内に轟く。


キャスター付き椅子で滑走しながら、彼が右手に構えたのは、日本刀……ではなく、持参したマイ食器の『高級デザートフォーク』だった。


鋭く尖った銀色の三叉が、武田のつまみ食いしようとしていた巨峰めがけて、雷の如きスピードで突き出される。


「むむむっ!!」


武田は目を見開き、咄嗟に近くにあった『カフェのお洒落な木製トレー』を盾にして構えた。


ガキィィィィンッッ!!!


フォークと木製トレーが激突し、火花が散った(ような気がした)。


「甘いわ謙信! この巨峰はワシのものじゃ!!」


「ええい、よこせタヌキオヤジ! 貴様のような下品な男に、美しいフルーツを嗜む資格などないわ!!」


「やかましい! ならばお前は一生塩タブレットでも舐めておれ!!」


(――1561年、第4次川中島の戦い。武田本陣に単騎で突入した上杉謙信が、馬上から三太刀振り下ろし、武田信玄がそれを軍配で受け止めたという『三太刀七太刀みたちななたち』の伝説!!)


私の脳内歴史データベースが、今まさに目の前で繰り広げられている光景と、歴史上の名シーンを完璧にリンクさせた。


しかし、私は店舗の自動ドアを勢いよく開け放ち、腹の底から絶叫した。


「歴史に残る名勝負を、キャスター椅子と巨峰の奪い合いで再現するなァァァァァッ!!!」


私の渾身のメガトン級ツッコミが、早朝のカフェ・ド・川中島に虚しく響き渡った。


令和の川中島の戦いは、最高に低次元な大将同士の小競り合いという形で、ついにクライマックスを迎えるのだった。


(第9話・了)

読んでいただきありがとうございます!

ついに出ました大将の一騎打ちのシーン。時代を越え過ぎて超低レートで再現してみました(笑)

地味に昭和の軍師も敵の隙を作る功績を挙げさせました。川中島の戦い…結果やいかに?


次回、カフェ・ド・川中島の契約はどちらの手に渡るのか。8月24日06:50投稿です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ