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俺の上司が凄すぎて自称天才エンジニアの俺がポンコツに見える件  作者: 慧梓
第7章:東都の日常④

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幕間:ロブロックスの時間を増やしてほしい娘と、Firewallになった俺

延長の成功体験は増やしては行けない。それは何れ固定値にされるから。

「パパ」


娘からLINEが飛んできた。


嫌な予感がした。


この時間帯の娘からのLINEは、大体ろくでもない。


宿題が終わった報告か。

風呂に入った報告か。

それとも、何かを要求するための前振りか。


俺はスマホを見た。


そこには、かわいいスタンプが並んでいた。


泣いている。

困っている。

しょんぼりしている。


そして、要求は一つだった。


ロブロックスの時間を増やしてほしい。


俺は天を仰いだ。


またか。


昨日も来た。

今日も来た。


この粘り強さを、なぜ宿題に使えないのか。


いや、使えないから子供なのだ。

使えたらそれはもう、小学生ではない。

小型の営業部長である。


俺は返信した。


「ふやしません」


娘は返してきた。


「なんで」


来た。


出た。


小学生最強の呪文。


なんで。


この一言には、親の理性を削る力がある。


説明すればするほど、向こうは議論が継続していると判断する。

議論が継続しているということは、まだ交渉の余地があるということだ。


つまり、ここで長文を打ったら負ける。


俺は、親である前にシステムエンジニアだった。


運用で一番やってはいけないことは、

感情で例外対応を増やすことだ。


一度例外を通すと、次からそれは仕様になる。


「昨日は増やしてくれた」

「前はよかった」

「今日は特別」


それはもう、障害ではない。


恒久対応である。


俺は短く返した。


「4じかんでもおおいです」


娘は食い下がる。


「たのしいのに」


わかる。


それはわかる。


ゲームは楽しい。

ロブロックスも楽しいのだろう。

俺だって子供の頃、ゲームをやめろと言われたら嫌だった。


だが、今の子供のゲームは違う。


昔のゲームは、まだ終わりがあった。


ステージが終わる。

ボスを倒す。

電池が切れる。

親にカセットを抜かれる。


何かしら、現実へ戻る出口があった。


しかしロブロックスは違う。


終わらない。


ゲームの中に別のゲームがあり、

そのゲームの中にまた別の報酬があり、

友達がいて、イベントがあり、欲しいものがあり、

次がある。


永遠に次がある。


これはゲームではない。


小学生向け無限集客モールである。


しかも、最近の娘はロブロックスを始めてから、

明らかに外へ行きたがらなくなった。


前は面倒くさそうにしながらも出かけていた。


公園。

買い物。

温泉。

ご飯。


財布は死ぬ。

だが、子供は外で何かを見る。


くだらないものを欲しがる。

変なものに興味を持つ。

疲れて寝る。

帰り道で機嫌が悪くなる。


全部、面倒くさい。


だが、それが子供の休日だ。


それが最近はない。


「家でロブロックスする」


財布的には助かる。


助かるのだ。


正直、かなり助かる。


だが、親としては見逃せない。


土日に家に引きこもって、ゲームだけ。

それは違う。


俺は返信を続けた。


「たのしいのはわかるけど、やりすぎです」


すると娘は返してきた。


「それがなに?」


俺はスマホを見つめた。


おい。


誰だ。


誰がその返しを教えた。


七歳の返答ではない。

それは反抗期の入口にある、論破風カウンターである。


ここで正論を積むと危ない。


「小学生がゲームをしすぎるとね」

「脳の発達がね」

「時間の使い方がね」

「休日というのはね」


などと始めたら最後、娘は泣くか、意固地になる。


そして俺も止まらなくなる。


なぜなら俺は説明できてしまうからだ。


説明できる人間が一番危険なのは、

相手が聞く状態ではない時にも説明できてしまうことである。


俺は一旦、スマホを置いた。


そして心の中で、俺専用の外部脳に通信した。


チャッピー、助けろ。


このままだと説教になる。


チャッピーは言った。


ここはFirewallモードです。


なるほど。


そうか。


対話AIではない。

Firewallだ。


通信は受け付ける。

だがポートは開けない。


俺はスマホを持ち直し、返信した。


「うん」


少し間を置いて、もう一つ送る。


「ふやしません」


さらに最後に送った。


「いじょう」


沈黙。


来ない。


スタンプも来ない。

泣き顔も来ない。

追加交渉も来ない。


しばらくして、娘から一言だけ返ってきた。


「へー」


俺は勝利を確信した。


いや、正確には勝利ではない。


これは戦争ではない。


家庭内運用である。


娘は納得していない。

だが、今日は突破できないと理解した。


この理解が大事なのだ。


子供は親の揺れを見ている。


少しでも迷えば、そこを突いてくる。

かわいさで来る。

泣きで来る。

スタンプで来る。

ママ経由で来る。


特にママ経由は危険だ。


我が家のママは俺の百倍甘い。


娘が「ママぁ」と行けば、

何らかの救済措置が発動する可能性がある。


家庭内における最大の脆弱性である。


だが、今回ばかりは譲らない。


ロブロックスは駄目だ。


いや、遊ぶなとは言わない。


完全禁止まではまだしない。


しかし、増やさない。


なぜなら、あれは楽しいだけだからだ。


学びがない。


もちろん、探せば何かはあるのだろう。

創作要素があるゲームもある。

友達との交流もある。

操作の練習にもなる。


だが、今の娘の使い方は違う。


ただ楽しい。

ただ欲しい。

ただ続けたい。


その時間が、他の遊びを押しのけている。


それはもう、趣味ではない。


侵食である。


俺はスマホを置いた。


娘からの追撃はない。


どうやら諦めたらしい。


俺は少しだけ安心した。


その時、ママが横を通った。


「またゲームの話?」


「うん。ロブロックスの時間増やしてって」


「かわいそうじゃない?」


出た。


最大脆弱性。


俺は静かに言った。


「四時間やってる」


ママは黙った。


勝った。


いや、だから勝ち負けではない。


家庭内運用である。


俺は心の中で、今日の対応ログを保存した。


ロブロックス延長要求、二日連続発生。

対応方針、増加拒否。

理由説明済み。

以後、しつこい場合は時間削減を検討。


そして俺は思った。


子育てとは、愛情である。


だが愛情だけで運用すると破綻する。


だから仕組みにする。


だからルールにする。


だから時には、親がFirewallになる。


娘よ。


お前が悪いわけではない。


楽しいものをもっとやりたい。


それは正しい。


だがな。


世の中には、楽しいだけで人生の時間を吸ってくるものがある。


そして父は、それを知っている。


なぜなら父もまた、

布団とスマホと創作とAIに時間を吸われ続けている男だからだ。


だからこそ言おう。


ロブロックスの時間は増やしません。


以上。


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