第74話:サンリオのかくれんぼは断られたのに、イタリアンブレインロットには食いつかれた件
女の子は可愛いのが好きだろって偏見を持ってると
実は食いつかなくて大外しする時もあるって話。
結城家への帰省というものは、だいたい予定通りにいかない。
大人は大人で勝手に忙しく、子どもは子どもで勝手に散らばる。
俺は、その中で比較的自由に動ける大人枠だった。
つまり、便利な人間である。
甥っ子と遊ぶ。
娘の相手をする。
姪っ子の様子を見る。
荷物を運ぶ。
時には空気を読む。
親族イベントにおける俺くんの役割は、だいたいそういうものだった。
給料は出ない。
だが、たまにお菓子は出る。
そんな労働である。
その日の昼、俺は姪っ子に声をかけた。
「サンリオのかくれんぼやる?」
それは、かなり無難な提案だった。
サンリオ。
かわいい。
安全。
全年齢対応。
女子にも刺さりそう。
俺くんの中では、かなり堅い選択肢だった。
だが姪っ子は、こちらをちらりと見ただけで言った。
「あたしはいい」
終了である。
早かった。
ログインボーナスの受け取りより早かった。
「そっか」
俺くんは、あっさり引いた。
無理に誘うものでもない。
十二歳という年齢は難しい。
子ども扱いすると嫌がるし、大人扱いしてもまだ早い。
かわいいものが好きかと思えば、急に距離を取る。
少し前までなら喜んだものが、ある日突然「別に」になる。
仕様変更である。
しかも事前告知なし。
俺くんは心の中で、そっとメモした。
十二歳女子にサンリオは必ずしも刺さらない。
なるほど。
そういう年齢なのだろう。
俺くんはそう理解したつもりになった。
つもりだった。
その後、俺くんはSwitchを準備した。
目的は甥っ子である。
以前、九歳の甥っ子のために買ったゲームがあった。
イタリアンブレインロット。
名前からしてもう終わっている。
いや、終わっているというより、最初から始まる気がない。
だが小学生男子には、こういうものが刺さる。
謎の勢い。
謎の名前。
謎の生物。
意味不明なノリ。
だいたい、男子小学生という生き物は、うんこと叫び声と謎生物で動いている。
偏見ではない。
観測結果である。
だから俺は、実家の十一歳甥っ子に向けて、それを用意した。
「よし。これなら食いつくだろ」
俺の狙いは明確だった。
甥っ子を釣る。
遊ばせる。
その間に大人は休む。
完璧な作戦である。
すると。
「え!?」
背後から声がした。
俺は振り返った。
そこには、昼にサンリオのかくれんぼを断った姪っ子がいた。
そして姪っ子は、Switchの画面を見て目を輝かせていた。
「イタリアンブレインロット!???」
俺は固まった。
「……え?」
「それ知ってる!」
「え?」
「好き!」
「え?」
俺の語彙が死んだ。
さっきサンリオは断った。
あのサンリオを断った。
かわいいの王。
キャラクター界の安定株。
親戚の場で出しても炎上しない優等生コンテンツ。
それは断った。
なのに。
イタリアンブレインロットには食いついた。
「そっちぃ!?」
俺は、思わず声に出した。
姪っ子は当然のような顔で言った。
「ボンボンシールも買った」
「買ったの!?」
ライト層ではなかった。
履修済みだった。
ただ知っているだけではない。
グッズまで買っている。
これは偶然ではない。
俺は、自分が設置した罠を見た。
男子小学生用の罠である。
そこに、十二歳女子が全力でかかっていた。
しかも自分から飛び込んできた。
俺の中の分類表が音を立てて崩れた。
サンリオ。
女子向け。
かわいい。
刺さる。
イタリアンブレインロット。
男子小学生向け。
意味不明。
うるさい。
刺さる。
その表は、間違っていた。
いや、間違っていたというより、古かった。
現代の子ども文化は、性別で分けると普通にバグる。
かわいいから刺さるわけではない。
キモいから刺さらないわけでもない。
意味不明だからこそ刺さることがある。
むしろ、意味不明であること自体が価値になる。
俺は、目の前の姪っ子を見た。
昼にはサンリオを静かにスルーした少女が、今はイタリアンブレインロットに全力で反応している。
人間は難しい。
特に十二歳は難しい。
「サンリオは?」
俺は試しに聞いてみた。
姪っ子は少し考えてから言った。
「別に」
「ブレインロットは?」
「好き」
「なるほど」
何もなるほどではなかった。
だが、俺はそう言うしかなかった。
甥っ子は甥っ子で画面を覗き込み、姪っ子も当然のように混ざろうとしている。
ゲームの主導権は、いつの間にか俺の手を離れていた。
俺は悟った。
これは、子どもを遊ばせるためにゲームを用意したのではない。
大人が現代文化の敗北を観測するための装置だったのだ。
サンリオで釣れない十二歳女子が、イタリアンブレインロットで釣れる世界。
それが令和である。
俺は静かにSwitchを差し出した。
「……やる?」
姪っ子は即答した。
「やる」
昼の「あたしはいい」とは、まるで別人だった。
俺は心の中で、観測ログを更新した。
サンリオのかくれんぼは断られた。
だが、イタリアンブレインロットには食いつかれた。
結論。
子ども文化を、大人の感覚で分類してはいけない。
かわいいから正解とは限らない。
意味不明だから不正解とも限らない。
そして、甥っ子用に仕掛けた餌で姪っ子が釣れることもある。
俺は思った。
世界は今日も、知らないところでアップデートされている。
しかも、更新内容はだいたい読めない。
結果イタリアンブレインロットなのが凄いね
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