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俺の上司が凄すぎて自称天才エンジニアの俺がポンコツに見える件  作者: 慧梓
第5章 東都の日常③

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幕間:妻から三行LINEが来たので、俺は異常事態を察知した。

珍しく上機嫌な俺くんの妻の回です。

妻からLINEが来た。


しかも、三行。


我が家において、それは警報級の異常事態である。


普段の妻は、基本的に用件人間だ。


必要なことだけ言う。

必要がなければ言わない。

読んだら終わり。

返す必要がなければ返さない。


昨日など、俺が残業で遅くなると送っても、特に反応はなかった。


人身事故でさらに遅れそうだと送っても、やはり反応はなかった。


もちろん、別に怒っているわけではない。


妻の中では、


「把握した」


で処理が完了しているだけである。


そういう人間なのだ。


ところが今日。


妻から突然、LINEが来た。


『ガーデンセンターにいる』


俺は画面を見た。


珍しい。


さらに続いた。


『レンガないなー』


俺は眉をひそめた。


さらに珍しい。


そして最後に、


『ホームセンターに行く』


三行である。


俺はスマホを握ったまま、静かに思った。


これは、ただごとではない。


妻が用件以外で三行送ってくるなど、我が家では台風、地震、大型アップデートと同じカテゴリに分類される。


しかも、内容がガーデンセンター。


最近、妻はガーデニングに目覚めたらしい。


三年前、俺たちは東都で小さいながらも庭付きの一戸建てを買った。


借家では、庭いじりにも限界がある。


穴を掘るにも気を使う。

植えるにも気を使う。

何かを置くにも気を使う。

最終的には原状回復という四文字が、すべての自由を縛ってくる。


だが、持ち家なら違う。


掘れる。

植えられる。

置ける。

失敗しても、基本的には自分の庭である。


どうやら妻は、前からこういうことをやりたかったのかもしれない。


娘と楽しそうに土をいじり、花を植え、気づけば庭は、普通に庭になっていた。


俺は思った。


庭付き一戸建てを買った俺、偉い。


だが同時に、俺はこのLINEの意味も理解していた。


『ガーデンセンターにいる』


これは報告ではない。


『レンガないなー』


これは感想ではない。


『ホームセンター行く』


これは予定共有ではない。


全部まとめて翻訳すると、こうである。


「荷物が増える可能性があります。車両および人力を派遣してください」


俺は悟った。


召喚魔法だ。


しかも、かなり機嫌のいい時にだけ発動するタイプの召喚魔法である。


普段の妻なら、こんなに行数を使わない。


必要なら一行で済ませる。


『来て』


以上。


場合によっては、それすらない。


だが今日は違う。


三行。

自発的な行動共有。

ガーデンセンター。

レンガ。

ホームセンター。


これはもう、内心かなりテンションが高い。


長い付き合いになると、そういう微細な変化が分かるようになる。


他人から見れば、ただの業務連絡かもしれない。


だが俺には分かる。


これは、妻なりの上機嫌である。


そして実際、車内でも珍しく隣に座った。


珍しく会話もしてきた。


俺は確信した。


こいつ、今日かなり楽しいな。


普段は雑である。


反応は薄い。

返事は短い。

会話も必要最低限。

かわいい感じで「これ見て!」などと言ってくるタイプではない。


そんな可愛さは持ち合わせていない。


だが、たまにこういう日がある。


いつもより少しだけ近い。

いつもより少しだけ話す。

いつもより少しだけ行数が多い。


そして、その少しが、普段を知っている側からすると、やたら分かりやすい。


俺は助手席の妻を見ながら思った。


まあ、可愛いところもある。


普段は雑だけど。


もちろん、そんなことを本人に言うつもりはない。


言ったところで、たぶん変な顔をされる。


あるいは、


「何言ってんの」


で終わる。


だから俺は黙って車を出した。


そして、鉢だの土だの、謎に重い袋だのを運ぶ覚悟を決めた。


庭付き一戸建てを買った男は、家長ではない。


園芸物流部門の部長である。


俺は今日も、家庭内インフラとして稼働する。


妻が珍しく楽しそうなので、まあ良しとする。

俺くんは若くして持ち家を買ってますが

実際東都での相場はそれなりにお高めです。

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