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俺の上司が凄すぎて自称天才エンジニアの俺がポンコツに見える件  作者: 慧梓
第5章 東都の日常③

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第62話: ChatGPTにヒヤリハットを聞いてきたポンコツ後輩に現場が冷えた話

ポンコツ後輩女子が最新技術を使っても

結局中身が薄いとポンコツはポンコツのままって話

昼休み明け。

ポンコツ後輩女子が、やけに明るい顔で俺の席に来た。


「先輩っ、ヒヤリハットの改善案、ChatGPTに聞いたらいい感じの案が出ました!」


ほう。


ついに来たか。

現場にもAI活用の波が――


などと一瞬でも思った俺が甘かった。


隣で話を聞いていた皮肉屋SEの顔が、即座に終わった。


あれはもう、

“聞いてはいけない話を聞いた顔”

である。


嫌な予感しかしない。


俺は慎重に聞いた。


「ちなみに、どう聞いたの?」


後輩は得意げに答える。


「えっと、実際に起きた内容と、どこの工程で危なかったかと、現場の流れと、原因っぽいところをまとめて入れました!」


皮肉屋SEが、すぐさま口を挟んだ。


「待って。今すぐ止まって」


「え?」


「それ以上しゃべると、こっちの寿命が縮む」


後輩はきょとんとしている。

本気で分かっていない顔だった。


ああ。

ダメなやつだこれ。


俺も嫌な汗が出てきた。


「いや、ちょっと待って。固有名詞とかは?」


すると後輩は胸を張った。


「会社名は入れてません!」


俺と皮肉屋SEは、ほぼ同時に天を仰いだ。


違う。

そこじゃない。


会社名を書かなければセーフだと思ってる時点で、

もう認識が一段甘い。


現場の工程。

作業の流れ。

障害の起き方。

時間帯。

担当の切り分け。

使ってるものの癖。


そういう断片を並べれば、

知ってる奴には普通に推測される。


俺が言う。


「いや、社名だけ消してもダメだろ。内容次第では普通にまずいぞ」


後輩は首をかしげた。


「でも、相談したかっただけですよ?」


皮肉屋SEが深いため息をついた。


「善意で地雷踏むタイプが一番怖いんすよ」


「えぇー……」


「“えぇー”じゃないの。

 お前の中では、名札だけ外せば全部匿名化完了なんだろうけど、現場ってそういうもんじゃねぇから」


その言い方はどうかと思うが、趣旨は正しい。


後輩はまだ納得していない顔で言った。


「でも、ちゃんと改善案は出たんですよ? AIすごいなって思って」


その瞬間、皮肉屋SEが真顔で返した。


「で、その改善案は良かったの?」


「はい! たぶん!」


“たぶん”で持ってくるな。

現場に一番いらないやつだ。


俺が確認のために内容を見せてもらうと、そこには実に味わい深い文章が並んでいた。


抽象的すぎて何の対策にもなっていない。

かと思えば一部だけ妙に具体的で、逆に危ない。

さらに、現場の実情を分かっていないので、

「それが出来たら苦労しねぇよ」という案まで混ざっている。


俺が黙る。


皮肉屋SEが覗き込む。


数秒後。


「あー……」


その一声だけで、全部伝わった。


ちょうどその時、上司が通りかかった。


「何してるの」


俺が事情を説明する。

ポンコツ後輩がChatGPTにヒヤリハットを相談し、

改善案を持ってきたこと。

ただし入力内容がだいぶ怪しく、

しかも成果物の質も、まあ、その……ということを。


上司は改善案を一通り見て、静かに言った。


「AIを使うなとは言わない」


後輩が少しだけ安心した顔になる。


だが上司は、そのまま続けた。


「だが、“何を外に出していいか”を理解していない人間が使うと、便利な道具はただの事故増幅装置になる」


場がすっと冷えた。


後輩が小さくなる。


「……すみません」


上司は怒鳴らない。

怒鳴らないのに刺さる。

いつものことだ。


「あと」


上司は紙を戻しながら言った。


「これ、改善案としても弱い」


静かだが容赦がない。


後輩はさらに縮んだ。


俺もちょっとつらい。

いや俺は悪くないが、見ていてつらい。


上司はその場で数分考え、

情報を外に出さずに社内だけで回せる形に落とした、

簡潔な安全版テンプレをさっと作った。


分かりやすい。

余計な情報がない。

しかも現場で回る。


ついでに、何をAIに入れてはいけないかまで短く整理されていた。


強い。

相変わらず無駄がない。


後輩が、しょんぼりしながら言う。


「……AIの案、割と良かったと思ったんですけど……」


それを聞いた皮肉屋SEが、心底だるそうな顔で言った。


「割と良かった?

 いや、嘘でしょ」


後輩が固まる。


皮肉屋SEは続けた。


「ドブ川の水でも、もう少しマシなレベルで酷かったっすよ」


ひどい。


ひどいが、否定できない。


「情報漏らすリスク背負って、そのゴミ拾ってきたの?

 割に合わなすぎて泣けるんすけど」


後輩が半泣きになる。


俺は思った。

さすがに言い方は終わっている。

だが内容はだいたい合っている。


便利な道具を持たせても、

使う側が雑なら、出てくるのは雑な成果物である。


むしろ、おバカが文明の利器を握ると、

被害だけがスケールアップする。


救えない。


本当に救えない。


そして今日もまた、

うちの現場ではAI活用以前に

人間側のフィルタ実装が急務だという現実だけが、

静かに浮き彫りになったのだった。

道具は確かに便利ですが使い手次第ではただの

危険物でしかないですよね。。。


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