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俺の上司が凄すぎて自称天才エンジニアの俺がポンコツに見える件  作者: 慧梓
第5章 東都の日常③

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甥っ子と娘によるこどもの日ボンボンシール&ロバックスゲット大作戦

子どもは無邪気で可愛い。

それは事実だ。


だが時々、

その無邪気さが極めて高度な交渉技術として運用されることがある。


本日は、

俺くんの家にて発生した

こどもの日を大義名分にした報酬回収作戦について報告する。

その日、娘と甥っ子は妙に機嫌が良かった。


いや、正確には違う。

良い子を演じる完成度がやたら高かった。


いつもなら適度に騒がしく、適度に揉め、適度にこちらのHPを削ってくる二人が、

その日は妙に素直だった。


靴は揃える。

返事はいい。

頼んだことはすぐやる。

しかも、二人で妙に息が合っている。


嫌な予感しかしない。


俺はSEである。

本業柄、平常時に急にログが綺麗になると逆に怖い。

システムというものは、

何も起きていない時ほど、だいたい裏で何か仕込まれている。


そして案の定、夕方になって娘が来た。


「ねえパパ。きょう、こどもの日じゃん?」


来た。

イベントトリガー確認。

フラグ立った。


「そうだな」


「こどもの日って、なんかいいことある日だよね?」


ふわっとしている。

要件を明示しない。

まず空気だけ作ってくる。

雑談に見せかけた布石。

営業が上手い。


そこへ甥っ子も合流した。


「まあ、子どもの日だからね」


援護射撃である。

お前ら、さっきまで別々に遊んでたよな?

なんでこのタイミングだけ連携が完璧なんだ。


俺が黙っていると、娘が本題を投げた。


「ボンボンシールほしい」


ああ、なるほど。

最初はそこか。


ボンボンシール。

可愛い。安い。

そして“子どもらしい要求”として極めて自然。

こちらの警戒心を下げるには十分過ぎる。


俺は思った。


なるほど。今日はこの辺で終わるなら平和だな。


……甘かった。


俺がその空気に飲まれかけた瞬間、甥っ子が静かに続けた。


「あと、ロバックスも」


やはり二段構えだった。


来たよ本命。

しかも言い方が上手い。

“あと”で流すな。

ついでみたいに言うな。

ロバックスはついでではない。

明確に予算カテゴリが違う。


「いや待て。今、本命そっちだろ」


俺がそう言うと、二人は顔を見合わせた。

その顔がまた腹立つくらい自然だった。


娘は首をかしげて言う。


「えー? だってこどもの日だし?」


甥っ子も続く。


「今日くらい特別でもよくない?」


出た。

“今日だけ”理論。


だがこの手の要求における“今日だけ”は信用ならない。

システム障害の「今回だけ手運用でお願いします」と同じだ。

一度通ると次から前例になる。


俺は冷静に反論した。


「よくない。というか、ボンボンシールとロバックスを同列に並べるな。そこは予算の階層が違う」


すると娘が言った。


「じゃあボンボンシールだけでいいよ?」


ほう。

撤退に見せかけた圧縮提案。

要求を一段下げて、こちらに罪悪感を発生させる動き。

小学生にしては交渉がうますぎる。


さらに甥っ子が追撃する。


「でも、もしロバックスも少しだけなら、うれしい」


少しだけ。

便利な言葉だ。

人類は“少しだけ”に弱い。

ダイエットも課金も障害対応も、それで何度死んだか分からない。


俺が黙っていると、二人はさらに畳みかけてきた。


「今日はいい子にしてたし」 「お手伝いもしたし」 「ちゃんとケンカしなかったし」 「こどもの日だし」


最後に全部を束ねるように、

娘が満面の笑みで言った。


「パパ、うれしい顔見たいでしょ?」


強い。

あまりにも強い。


要求そのものではなく、

“断ると空気が悪くなる構図”を先に完成させてくる。


これはもはや買い物ではない。

家庭内レイドである。


ボスは俺。

だが数値上は完全に不利。

向こうはバフが乗っている。

こどもの日補正、笑顔補正、良い子補正、二人同時攻撃補正。

こちらは仕事帰りでMPがない。


そして何より、

俺は気づいてしまった。


ボンボンシールは前座。

ロバックスが本命。

しかし本当に恐ろしいのはそこではない。


この二人、そこに至るまでの“空気作り”まで含めて作戦として組んでいる。


朝から妙に良い子だったのも、

頼み事を素直に聞いていたのも、

全部このための事前準備。


つまりこれは、


甥っ子と娘による

こどもの日ボンボンシール&ロバックスゲット大作戦


である。


恐ろしいのは、

本人たちはたぶんそこまで自覚していないことだ。


無邪気にやっている。

だが無邪気だからこそ強い。

大人みたいに遠慮も打算も隠しきれずに漏れたりしない。

まっすぐ来る。

しかも二人で来る。


最終的に俺は、

「ボンボンシールは可。ロバックスは額と理由を審議」

という、いかにも中間管理職らしい着地をした。


全面拒否は空気が死ぬ。

全面承認は今後が死ぬ。


結果、

娘は「やったー!」と跳ね、

甥っ子は「交渉成立だね」とでも言いたげな顔をしていた。


いや、成立ではない。

こちらはまだ防衛ラインを死守している。


ただし、

その日の俺は知った。


子どもは守るべき存在である。

だが同時に、

条件が揃うと普通にこちらの財布と理性を攻略しに来る存在でもある。


そしてたぶん来年も、同じことが起きる。


今度は事前にログを取ろうと思う。



子どもの「今日だけ」は危険。

大人の「今回だけ」と同じくらい危険。


しかも今回は、

娘と甥っ子が連携して空気を作ってきたのが強すぎたですね。

あれは可愛い顔した交渉のプロです。


なお、

ボンボンシールで油断させてからロバックスを差し込む流れ、

普通に営業として完成度が高いので、

将来がちょっと楽しみでもあり、ちょっと怖くもあります。

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