第60話:契約書を確認したら、いつの間にか部長になっていた件
日本という国は本当にこういうことありますよね。
給料上げてください。
契約書を見直していて、俺は静かに固まった。
部長。
いや、待て。
どこの誰が部長だ。
少なくとも、俺は聞いていない。
もう一度見る。
見間違いではない。
ちゃんと書いてある。
俺の名前。
その横に、部長。
いやいやいや。
確かに俺はシステム管理者だ。
ついでに、うちに来てる派遣社員の取りまとめもしている。
現場調整もする。
障害が起きればだいたい最初に呼ばれる。
面倒事はなぜか回ってくる。
そこまでは認める。
でも、それはそれとして。
**部長ならもっと給料くれよぉ……。**
思わず心の声がそのまま漏れた。
肩書きだけ立派になっても困るのだ。
名刺の見栄えで米は買えない。
責任範囲だけ広がって、給与テーブルが据え置きなのは仕様ではなく不具合である。
役職だけ本番反映されて、待遇が未デプロイ。
システム屋に一番言ってはいけない運用を、自分の人生で食らうとは思わなかった。
契約書の中の俺は部長。
現実の俺は、今日も普通に火消し担当。
たぶん会社としては、こういうことなんだろう。
「実態としては部長相当ですので」
だったらなおさら金をくれ。
相当で止めるな。
そこまで言うなら、給与も相当にしろ。
そう思いながら契約書を閉じた俺は、とりあえず現実逃避としてコーヒーを入れた。
苦かった。
今日はたぶん、いつもより少しだけ苦かった。




