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俺の上司が凄すぎて自称天才エンジニアの俺がポンコツに見える件  作者: 慧梓
第5章 東都の日常③

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第58話:だいたいそうなると思ってた

何もかもばれてる時は、下手な言い訳をしない方が良い事ってありますよね。

 娘と甥っ子が俺の部屋を掃除した。


 いや、正確に言うなら、

 俺を部屋から追い出したうえで勝手に掃除した。


 しかも汚した原因のかなりの部分は、たぶんあいつら自身である。

 だが、そこはまあいい。

 結果として部屋は少し片付いたし、本人達も満足そうだった。


 偉いことは偉い。


 だから俺はロバックスを買った。

 購入制限をかけていた過去の自分に一度邪魔され、

 PC版ならもう少し得だったと後から知って軽くへこみ、

 給料日前の財布事情に不穏な影を落としながらも、

 それでもご褒美として購入した。


 さらに、普段は四時間制限にしているRoblox時間も、今日だけ七時間に延長した。


 理由は簡単だ。

 せっかく課金したのに、すぐ終わりではかわいそうだったから。

 春休みでもあるし、今日だけは特別。

 そう判断したのである。


 その結果、俺は一時的に


「神様仏様叔父様!」


 と崇められることになった。


 なお、その実態は、子供達を長めに遊ばせておくことで、その隙に俺が創作作業を進めるための布石でもあった。


 つまり優しさは本物だが、打算もある。

 大人とは、善意と都合を器用に両立させる生き物である。


 リビングからは、子供達のはしゃぐ声が聞こえていた。


「これ買う!」

「いやそっちじゃなくてこっち!」

「えー服のほうがいいって!」

「アイテムのほうが強いって!」


 ロバックスを得たことで新たな戦いが始まり、

 時間延長によってその戦いは長期戦に突入している。


 だが、その分だけ俺の作業時間も確保できる。

 これはいわば相互利益である。

 子供達は遊べる。

 俺は書ける。

 素晴らしい。

 非常に美しい構図だ。


 そう思いながら、俺は自室で静かにキーボードを叩いていた。


 久しぶりに、まとまった時間が取れている。

 話も進む。

 流れもいい。

 このままいけば、今日のノルマも十分達成できる。


 勝ったな、と思った。


 家庭内イベントを乗り越え、

 掃除のご褒美を処理し、

 ロバックス問題も解決し、

 時間延長までうまく機能している。


 いろんな意味で、今日は勝ちだ。


 その時だった。


 嫁が部屋の入口から、ひょこっと顔を出した。


「……何か、今日はやけに静かだね」


「うまく回ってるからな」


 俺が答えると、嫁は少しだけ目を細めた。

 こういう時の顔はだいたい危ない。

 何かを察している顔である。


「子供達、ずいぶん長くRobloxやってるけど」

「今日は特別で七時間にした」


「へえ」


 短い返事だった。

 だが、この“へえ”には色々入っている。

 長年一緒にいるとわかる。

 これは続きを促す“へえ”だ。


「……まあ、せっかくロバックス買ったし」

「うん」

「春休みだし」

「うん」

「掃除もしたし」

「うん」

「ご褒美としては、まあアリかなって」


 嫁は黙って聞いていた。

 頷いている。

 表情も穏やかだ。

 一見すると、普通に納得してくれているように見える。


 だが俺は知っている。


 この人は、こういう時ほど最後に刺してくる。


「で?」


「……で?」


「本音は?」


 来た。


 余計な言い訳を全部剥がして、核心だけを抜くやつだ。

 火力が高い。

 無駄がない。

 仕事モードの上司とは別方向で怖い。


 俺は一瞬だけ黙った。


 ここで誤魔化しても、多分無駄だ。

 この流れではもう見抜かれている。


「……静かに遊んでてもらえれば、その間に俺が創作活動出来るかなって」


 正直に言った。


 嫁は数秒黙ってから、ふっと笑った。


「だと思った」


 やっぱりか。


 わかっていたらしい。

 全部お見通しだったらしい。


「いや、でもちゃんとご褒美の意味もあるぞ?」

「うん、そこは本当でしょ」

「本当だぞ?」

「でも半分くらいは、自分の作業時間ほしさでしょ」

「……否定はしない」


「でしょうね」


 完全に見切られていた。


 ただ、責めている感じではなかった。

 呆れ半分、納得半分。

 いつものやつである。


 嫁はリビングの方をちらっと見て、それから俺に言った。


「まあ、子供達も楽しそうだし、あなたもその間に進むなら別にいいんじゃない?」

「だろ?」

「ただし」


 来た。

 “ただし”が来た。


「明日からはちゃんと戻しなよ」

「…はい」

「あと、今週カップ麺とか言ってたけど、自分で決めたなら文句言わない」

「…はぃ( ^ω^)…」


「よろしい」


 そう言って、嫁は部屋から出ていった。


 強い。


 やはり家庭内において、最後に全体最適を見ているのはこの人かもしれない。

 俺が局所最適で動き、子供達が感情で走り、

 その全部を見たうえで、最後に現実へ戻してくる。


 ありがたい。

 ありがたいが、ちょっとぐうの音も出ない。


 それでもまあ、今日はうまくいった方だ。


 子供達は楽しんでいる。

 嫁の許可も出た。

 俺の作業も進んでいる。

 ノルマも見えてきた。


 完璧ではない。

 ロバックス代は地味に痛いし、

 食生活は若干の犠牲を払う。

 だが、それを含めても、今日はたぶん勝ちである。


 リビングからまた声が聞こえる。


「叔父様ー!」

「これ見てー!」


 さっきまで神格化されていたはずなのに、呼び出しは普通に雑になっていた。

 うん。知ってた。


 俺は小さく息を吐いて立ち上がった。


 創作のための布石は打った。

 ミッションも進んだ。

 家庭内イベントも一応着地した。


 なら、今日はもう十分だろう。


 大人とは、

 善意と打算を両立させ、

 嫁に見抜かれ、

 それでも一日の勝利条件を静かに満たしていく生き物である。

結局。嫁には勝てない。男何てそんなもんです。

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