第57話:神様仏様叔父様らしい
子供というのはえてして調子のいい生き物なのです。
普段、甥っ子と娘のRoblox時間は四時間までと決めている。
理由は単純だ。
放っておくと、あいつらは平気で世界の果てまで遊ぶ。
時間の感覚など最初から存在しない。
気づけば朝だった、みたいな勢いでゲームに溶ける生き物なので、制限は必要である。
だから四時間。
そこは日頃から割ときっちりやっていた。
だが今日は少し事情が違った。
部屋を掃除した。
そのご褒美としてロバックスも買った。
しかも購入制限をかけていた過去の俺まで突破して、給料日前の財布にダメージを受けながら、どうにか報酬を支給したのだ。
そこまでしておいて、である。
「はい、でもいつもの四時間なんで終わりです」
は、さすがにちょっとかわいそうな気がした。
せっかく課金したのに、全然遊べない。
春休みでもある。
今日くらいは、まあいいか。
そういう気分になる程度には、俺も人の心を持っている。
というわけで、俺は言った。
「今日は特別に、七時間までな」
一瞬、空気が止まった。
「……え?」
娘が固まる。
甥っ子も、何を言われたのか理解が追いついていない顔をしている。
「今日だけ。特別」
「ほんとに!?」
「マジで!?」
一気に部屋の温度が上がった。
「やったああああ!!」
「神!!」
「神様!!」
「仏様!!」
「叔父様!!」
最後だけ急に雑になった。
いや、雑というか、盛りすぎである。
神と仏の並びに、叔父が同列で入ってくるのはだいぶ意味がわからない。
宗教体系としてどうなっているのか聞きたいが、本人達は完全にテンションで叫んでいるだけなので、たぶん何も考えていない。
というか、さっきまで「パパ最強!」とか言っていたくせに、もう称号が更新されている。
評価基準が極めて現金である。
「神様仏様叔父様!」
「叔父様ありがとう!!」
連呼されるたびに、じわじわ面白くなってきた。
いや、気持ちはわかる。
普段四時間のところを、今日だけ七時間。
子供にとっての三時間追加は、たぶん大人の感覚よりずっと大きい。
しかもロバックスもある。
服も欲しい。
アイテムも欲しい。
やりたいことは山ほどある。
そこへ時間まで追加されたら、そりゃ祭りにもなる。
だが、である。
「お前ら、ほんと調子いいな……」
思わず呟くと、二人は満面の笑みで即答した。
「うん!」
「だって今日は叔父様の日だから!」
意味がわからない。
いつ制定された。
だがまあ、調子がいいのは事実だった。
さっきまでロバックスの使い道でケンケンゴーゴーしていたのに、時間制限が緩和された瞬間、今度は二人揃ってこちらを崇め始める。
利害が一致した時だけ団結する感じ、実に子供らしい。
そして俺は、そんな二人を見ながら思った。
親とか叔父とかいう立場は、たまに妙なバフがかかる。
何かを買ってやる。
制限を少し緩める。
それだけで、急に英雄扱いされる。
もちろん、その評価は永続しない。
明日また時間制限を元に戻せば、たぶん普通に文句を言われる。
何なら「昨日はよかったのに」とか言われる未来まで見える。
神格化された叔父は、二十四時間も持たず失脚する可能性が高い。
だが、今日だけは違う。
今日は、部屋掃除のご褒美があり、ロバックスがあり、特別延長があった。
その積み重ねの結果、俺はどうやら神様仏様叔父様になったらしい。
……まあ、悪い気はしない。
多少調子がいいとしても、喜んでるのは本当だ。
春休みの一日としては、たぶん十分に楽しい部類だろう。
その後も二人は妙に丁寧な口調で、
「叔父様、これ見てください!」
「叔父様、この服かわいくないですか!」
などと言ってきたが、三十分後には普通に
「ねえこれどうすればいいの!」
「ちょっとこっち来て!」
に戻っていた。
うん。
知ってた。
親とは、あるいは叔父とは、
一瞬だけ神格化されたあと、すぐにいつもの便利な大人へ戻される生き物である。
でも、自分もそうだったので、何も言えませんね。




