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俺の上司が凄すぎて自称天才エンジニアの俺がポンコツに見える件  作者: 慧梓
第5章 東都の日常③

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第55話:幸せには、時々コストが発生する

ロバックスって1ポイント1円じゃないんですね。地味に堪えますよねぇ…

 子供アカウントの購入制限を突破し、俺はついにロバックスの購入を完了させた。


 長かった。


 いや、時間にすればそこまででもない。

 だが体感としては長かった。

 親アカウントと子供アカウント。

 設定と制限。

 そして過去の俺との戦い。


 それら全てを乗り越えた先に、ようやくご褒美は届いたのである。


「入った!」

「やったー!!」


 娘と甥っ子のテンションは、一気に天井を突き抜けた。


 目が輝いている。

 声のトーンが一段上がっている。

 さっきまで掃除の達成感で満足していたはずなのに、そこへさらにゲーム内通貨という現代的報酬が加わったことで、幸福度が完全に爆発していた。


 ……うん。


 ここまで喜ばれると、まあ悪い気はしない。


 掃除した。

 頑張った。

 ご褒美をもらった。

 子供達が嬉しそうにしている。


 流れとしては、非常に美しい。

 少なくとも親としての行動は、そこまで間違っていない気がする。


 そう思いながら購入内容を見直して、俺はある事実に気づいた。


「……あ」


 小さく声が漏れた。


「どうしたの、パパ?」

「何かあった?」


 子供達がこちらを見る。

 いや、何かあったというほどではない。

 致命的なトラブルでもない。

 ただ、知ってしまっただけだ。


 PC版で買えば、もう少し多くロバックスが入った。


 つまり今回、スマホ経由でそのまま購入した結果、

 もし購入方法を変えていれば得られたはずの“上乗せ分”を、俺は取り逃していたのである。


 しかも、けっこうわかりやすく。


「……PC版で買えば、200多かったのか」


 言ってから、じわじわ来た。


 やってしまった感がある。


 いや、今回の購入自体が失敗だったわけではない。

 ロバックスはちゃんと入った。

 子供達は大喜びしている。

 目的は達成している。


 ただ、“もっと効率のいい買い方があった”と後から気づくのは、地味に心に刺さる。


 システム屋として、こういうのは弱い。

 最適化できたはずの経路を見逃した時の、あの独特の敗北感。

 人はそれを、たぶん小さな後悔と呼ぶ。


「でも入ったからいいじゃん!」


 娘は明るく言った。


 正論だった。


 横で甥っ子も、すでに何に使うかの相談に入っている。

 子供達にとって重要なのは、“何円で買ったか”でも“どの経路が最適だったか”でもない。

 今、目の前にロバックスがあって、楽しい未来が確定していることだ。


 その感覚は、たぶん正しい。


 だが大人という生き物は、その正しさを理解しつつも、別のことを考えてしまう。


 今回の購入額は、だいたい三千円台だった。


 数字だけ見れば、まあ、出せなくはない。

 子供のご褒美としても、絶対にありえない額ではない。

 むしろイベントとして見れば、十分許容範囲だ。


 ただし。


 今は給料日前である。


 そこが問題だった。


 大問題だった。


 財布の中身が完全に終わったわけではない。

 生活が即死するわけでもない。

 だが、“今このタイミングでそこそこの額を使った”という事実は、今週の俺の食生活に静かな影響を与えるには十分だった。


「……まあ」


 俺は小さく呟いた。


「今週、ちょっと質素になるだけか」


 カップ麺の映像が頭に浮かぶ。


 いや、別にカップ麺が悪いわけではない。

 むしろ強い。

 安い、早い、うまい。

 給料日前の味方として、長年にわたり最前線で戦ってきた実績がある。


 ただ、

 “子供達の笑顔の代償として今週カップ麺率が上がる”

 と表現すると、急に親の人生っぽくなる。


「パパ?」


 娘が顔を覗き込む。


「ん?」

「ありがとう!」


 まっすぐ言われた。


 その横で甥っ子も、満面の笑みで頷いている。


 ……うん。


 まあ、そうなると弱い。


 PC版なら200多かった。

 もっと最適な買い方もあった。

 給料日前に三千円台はちょっと響く。

 今週の俺は、たぶんカップ麺と仲良くすることになる。


 それでも。


 目の前でこんなに嬉しそうにされると、全部まとめて「まあいっか」になるから困る。


 合理性だけで言えば、もっといい選択肢はあった。

 だが、あの場でスマホを出して、そのまま買って、すぐに喜ぶ顔が見られた。

 あれはあれで、十分に正しい。


 最適解ではない。


 でも、正解ではあった。


 子供達は楽しそうにRobloxの画面を見ている。

 さっきまで掃除していた二人が、今は報酬を手にして笑っている。

 その光景を見ながら、俺は自分の財布事情にそっと目を逸らした。


 いいのだ。


 今日は、ご褒美の日だった。

 掃除してくれた。

 頑張った。

 そして喜んだ。


 なら、今週の昼飯が多少カップ麺に寄るくらい、大したことではない。

 ……たぶん。


 親とは、子供の笑顔で満足しながら、あとで静かに家計と向き合う生き物である。

尚、作者のカップ麺生活は2週間目に突入した模様。

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