表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の上司が凄すぎて自称天才エンジニアの俺がポンコツに見える件  作者: 慧梓
第5章 東都の日常③

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/66

第54話:偉い子供には、報酬を与えるべきである

半年以上前に設定した設定何て忘れてますよね。って話。

 娘と甥っ子が俺の部屋を掃除した。


 正確に言えば、俺を部屋から追い出したうえで掃除した。

 しかも汚した原因の一部は確実にあいつらだ。

 だが、それでも掃除してくれたこと自体は事実である。


 偉いことは偉い。


 そのため俺は、親としてひとつの重大な判断を迫られていた。


 ――ご褒美を、どうするか。


「ロバックス欲しい」


 娘は迷いなく言った。


 だろうな、と思った。

 何となくそう来る気はしていた。

 掃除、お手伝い、ご褒美。

 そこからゲーム課金に着地する流れは、現代キッズとして極めて自然である。


 横で甥っ子も目を輝かせている。

 あ、これは共犯だなと察した。


「掃除したしね!」

「頑張ったし!」


 圧が強い。


 実際、頑張ってはいた。

 その結果として俺の部屋の物の配置が若干わからなくなった気もするが、そこは今は問題ではない。

 重要なのは、こいつらが“やったことに対する見返り”をしっかり期待しているという点である。


 教育上どうなんだ、という話はある。


 あるが。


 目の前でこんなにキラキラされると、親はだいたい弱い。


「……まあ、少しくらいなら」


 俺がそう言った瞬間、二人のテンションが一段上がった。


「やったー!」

「パパ最強!」


 現金な連中である。

 だがその現金さが、逆に子供らしくてわかりやすい。


 というわけで、俺はスマホを取り出した。

 娘の子供アカウントにログインし、Robloxの購入画面を開く。

 この辺りの作業は、最近のトラブルで多少慣れていた。


 以前なら「よくわからん」で済ませていたかもしれない。

 だが今の俺は違う。

 サポートと戦い、仕様と向き合い、親アカウントと子供アカウントの関係性まで一度見直した男である。


 多少の購入処理など、もう怖くない。


 そう思っていた時期が、俺にもありました。


 購入ボタンを押す。

 読み込み。

 そして表示されたのは、見覚えのある、しかし今は見たくなかった文字列だった。


「購入できません。」


「……は?」


 思わず声が出た。


 横で娘が不安そうな顔をする。


「パパ?」

「ちょっと待て。今、システムが何か言ってる」


 娘を安心させるために言い方は柔らかくしたが、俺の中では完全に戦闘モードだった。


 何故だ。


 何が悪い。


 通信か。

 端末か。

 Roblox側か。

 あるいは、また仕様か。


 俺は一度深呼吸し、原因の切り分けを始めた。


 まず、ログインアカウントは合っている。

 購入画面も開けている。

 ネットワークも生きている。

 つまり、表面的にはそこまでおかしな挙動ではない。


 だがエラーは出ている。


 こういう時、世の中の大半の人間は「なんで!?」で止まる。

 だが俺はSEである。

 人間が感情で叫ぶ時、システム屋は静かに犯人を探す。


 ……まあ、内心では普通に叫んでるけどな。


「おかしいな……」


 設定画面を開く。

 親アカウントとの連携状況を見る。

 支出まわりを確認する。


 そして、俺は見つけてしまった。


 購入制限:有効


 数秒、固まった。


 画面を見つめる。

 もう一度見る。

 見間違いではない。

 はっきりと、そこにあった。


 購入制限が、有効になっていた。


 つまり。


 子供アカウントでロバックスが買えなかった理由は、

 Robloxでもなければ、端末でもない。


 俺である。


「……俺か」


「え?」


 娘が首をかしげる。

 甥っ子も不思議そうにこちらを見る。


「犯人、俺だった」


「パパ?」


「俺が購入制限かけてた」


 言った瞬間、自分でちょっと笑ってしまった。


 そりゃ買えない。


 だって止めてるの、俺なんだから。


 過去の俺は、たぶんちゃんとしていた。

 子供が勝手に課金しないように。

 勢いで変なことにならないように。

 ちゃんと親として、購入制限を設定していたのだ。


 有能である。


 ただ問題は、その有能な俺が、今の俺の前に立ちはだかっていることだった。


 守る俺と、買ってあげたい俺が、真っ向から衝突していた。


 しかもしっかり、守る俺の方が勝っている。


 設定というのは、こういう時に本領を発揮する。

 感情ではなく、仕組みで止める。

 理屈としては極めて正しい。


 ただ、子供達の期待に満ちた目の前で食らうと、精神ダメージが地味に重い。


「買えないの?」


 娘が聞いた。


 その声に、わずかな不安が混じる。

 これはよろしくない。


「いや、買える」


 俺は即答した。

 親として、ここで引くわけにはいかない。

 少なくとも今日は、掃除のご褒美を出すと決めたのだ。


「ただ、過去の俺がちょっと優秀すぎただけだ」


「?」


「パパがパパを邪魔してる」


 自分で言ってて意味がわからないが、現象としてはそれが一番正しい。


 制限を見直し、必要な設定を変更する。

 確認画面を進める。

 ようやく道が開けた。


 横で子供達がじっと見ている。

 プレッシャーがすごい。

 たかが購入処理、されど購入処理。

 家庭内の期待を背負った課金は、妙に重い。


 ようやく購入画面が正常に進んだところで、俺は小さく息を吐いた。


「よし。たぶんいける」


「やった!」

「パパがんばれ!」


 応援される課金ほど、複雑なものもない。


 だがまあ、今回はいい。

 掃除した。

 頑張った。

 ご褒美をもらって喜ぶ。

 流れとしては健全である。


 ただひとつ、今日の件で確実に言えることがある。


 子供を守るための仕組みは、大事だ。

 そしてその仕組みは、時として未来の自分を正面から殴ってくる。


 しっかりしてるぜ、俺。

結局冷静にチャッピーに聞いて確認して解放デキマシタ。めでたしめでたし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ