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俺の上司が凄すぎて自称天才エンジニアの俺がポンコツに見える件  作者: 慧梓
第5章 東都の日常③

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第53話:子供達は、急に正義の味方になる

子供の行動は時として意味の分からない行動が多いです。

 休日の昼下がりだった。


 俺は自室で、ようやく少しだけ確保できた自由時間を噛みしめていた。

 仕事でもない。家事でもない。呼び出しでもない。

 ただ静かに、自分の部屋で休める。

 それだけで、十分に幸せだった。


 そう思った矢先である。


「パパ、ちょっと部屋から出てって」


 娘が言った。


 さらっと言った。

 人の部屋に来ておいて、えらく自然に言った。


「……は?」


「いいからいいから」

「おじちゃん部屋から出て」


 甥っ子までいる。

 しかも妙にやる気に満ちている。

 嫌な予感しかしない。


「何する気だ、お前ら」


 俺が聞くと、二人は顔を見合わせて、なぜか誇らしげに胸を張った。


「パパの部屋、汚いから掃除する!」

「見てらんない!」


 言い切った。


 いや待て。


 確かに、反論しづらい部分はある。

 机の上には紙が積んであるし、本棚の前には物が増えているし、床にも若干の混沌がある。

 若干で済むかはさておき、綺麗な部屋だとは俺も言わない。


 だが。


 だがしかし。


 その“汚くなる原因”の何割か、いやかなりの割合で、お前らじゃなかったか?


 昨日ここに持ち込まれた謎のおもちゃ。

 一昨日放置されたぬいぐるみ。

 なぜか俺の椅子の下に転がっていた色鉛筆。

 誰の仕業かと問われれば、犯人はだいたい身内である。


 つまりこれは、放火犯が消防活動を始めたようなものだった。


「……原因、お前らだろ」


 至極まっとうな指摘をしたつもりだった。

 だが二人は気にしなかった。


「いいの! 今からきれいにするから!」

「パパは邪魔!」


 邪魔扱いされた。


 俺の部屋で。

 俺が。


 納得いかないまま立ち尽くしていると、娘がぐいぐい背中を押してくる。

 甥っ子は妙に手際よくドアを開けた。


「はい、出て出て」

「終わるまで入っちゃダメだからね!」


 そのまま、俺は部屋の外へ追い出された。


 ぱたん、とドアが閉まる。


 しばし無言。


 廊下に取り残された俺は、閉ざされた自室の扉を見つめた。


 何だこの状況。


 ここ、俺の部屋だよな?


 家庭内で部屋から追い出される経験はそうそうない。

 少なくとも、俺の認識では住人側だったはずである。

 なのに現実は、立場が弱い。


 中から、がさごそと物音が聞こえる。

 時々「これ何ー?」「知らなーい!」みたいな会話も聞こえる。

 知らない物を勝手に判断するな。怖い。


 嫌な予感しかしないので様子を見たくなるが、さっき「入っちゃダメ」と念を押された。

 ここで覗けば、たぶん俺が悪者になる。

 理不尽だが、家庭とはそういう場所だ。


「……何で俺が追い出されてるんだ」


 思わず独り言が漏れた。


 部屋が汚い。

 それは事実だ。

 しかし、汚した側の一部が掃除を始め、なぜか俺が退場させられる。

 構図としてはだいぶおかしい。


 だが、不思議と悪い気もしなかった。


 中では二人がやけに楽しそうにしている。

 怒られてやる掃除ではなく、何かのイベントみたいなテンションだ。

 まあ、きっかけが何であれ、掃除してくれるなら助かるのも事実だった。


 しばらくして、リビングにいた嫁がこちらを見て笑った。


「追い出されたの?」


「追い出された」


「何したの」


「俺の部屋が汚いから掃除するって」


 そう答えると、嫁は一瞬だけ黙って、それから肩を震わせた。


「ふふ……よかったじゃない」

「いや、よくはないだろ」


「でも掃除してくれるんでしょ?」

「まあ、そうだけど」


「じゃあ、いいじゃない」


 よくない。

 よくないはずなのだが、反論しきれない。


 結局、俺は廊下で待機することになった。

 自室に入れないまま。


 しばらくして再び扉が開き、娘が満足そうな顔で言った。


「パパ! ちょっときれいになったよ!」


 “ちょっと”なのか、と思ったが口には出さない。

 甥っ子も得意げだった。


「頑張った」


「そうか。偉いな」


 そう言うと、二人は嬉しそうに笑った。


 ……まあ、確かに偉い。

 偉いことは偉い。


 ただ、ひとつだけどうしても言いたいことがある。


 部屋を汚くした原因のかなりの部分、やっぱりお前らなんだよな。


 でも楽しそうに掃除しているので、今日は黙っておくことにした。

 親とは、理不尽を飲み込む生き物である。

ただし、悪いことばかりではありません。

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