第52話:仕様変更は、突然に。
事件は、朝一で起きた。
いつものようにPCを立ち上げ、コーヒーを一口。
さて、昨日の続きをやるか――と思ったその瞬間。
画面が、違った。
「……あれ?」
見慣れたはずの画面が、どこにもない。
代わりに、見覚えのないUIが表示されている。
嫌な予感がした。
とりあえずメールを開く。
『仕様変更しました』
――一行だった。
「いや、雑すぎるだろ」
思わず口に出た。
その瞬間、隣からガタッと音がする。
「せ、先輩ぃ……!」
ポンコツ後輩が、顔面蒼白でこちらを見ていた。
「どうしました……?」
「UI……全部変わってます……!」
「見ればわかる」
「昨日までの……消えました……」
「見ればわかる」
俺は静かにため息をついた。
3ヶ月かけて作った画面が、跡形もなく消えている。
ログも残っていない。バックアップも――まあ、あるにはあるが。
それでも。
この変更は、聞いていない。
「……誰が決めた?」
「わ、わかりません……! 朝来たらこうなってて……!」
「なるほど」
つまり、いつものやつだ。
確認なし、事前共有なし、影響範囲不明。
そして、現場丸投げ。
完璧だ。
俺はコーヒーを一口飲んだ。
苦い。
非常に苦い。
「先輩……どうします……?」
ポンコツ後輩が、今にも泣きそうな顔で聞いてくる。
どうするも何も。
選択肢は、ない。
「……対応するしかないだろ」
「ですよねぇぇぇぇ!!」
机に突っ伏す後輩。
その横で、俺は静かにキーボードに手を置いた。
まずは影響範囲の洗い出し。
API仕様の差分確認。
UI変更点の整理。
やることは、山ほどある。
――その時だった。
「おはよー」
軽い声が、背後から聞こえた。
振り向くまでもない。
赤いジャケット。短髪。
そして、この空気を一切読まない声音。
上司だ。
「仕様変わったから、よろしくね」
「……」
俺は一瞬、固まった。
ポンコツ後輩も、固まった。
「……確認なんですけど」
「なに?」
「この仕様変更、いつ決まったんですか」
「昨日の夜かなー?」
「共有は」
「してない」
「理由は」
「言うのめんどくさかった」
「……なるほど」
納得はしていないが、理解はした。
つまりこれは。
上司案件だ。
「じゃ、お願いねー」
それだけ言って、上司は去っていった。
嵐のように。
いや、嵐よりタチが悪い。
被害が限定されないからだ。
しばらく、沈黙が続いた。
「……先輩」
「なんだ」
「これ……終わりますか……?」
「終わらせるしかない」
「今日中に……?」
「無理だろ」
「ですよねぇぇぇ!!」
再び机に沈む後輩。
俺は画面を見つめた。
変わり果てたUI。
書き換えを要求されるコード。
積み上げてきた3ヶ月分の努力。
全部、なかったことにされた。
――だが。
「……まあ」
小さく息を吐く。
こういうのには、慣れている。
むしろ、これが日常だ。
「やるか」
俺は静かにキーボードを叩き始めた。
その横で、後輩も観念したようにPCに向き直る。
どうせやるなら、最短で。
どうせ壊すなら、綺麗に。
削るが、壊さない。
――それが、この職場のやり方だ。
「先輩……」
「なんだ」
「私、ちょっと思ったんですけど」
「言ってみろ」
「異世界転生した方が、楽じゃないですか?」
「それはそうだな」
即答した。
「でもな」
「はい……」
「この世界でやるから、意味があるんだろ」
「……かっこいいこと言いますね」
「気のせいだ」
ただの諦めだ。
俺は画面から目を離さずに言った。
「……はい、対応しますね」
それが、俺の仕事だからだ。
(小声)
「……あー、これまた徹夜だわ」
仕様変更絶対許せないッス。
なので歌も作りました。怒りに任せて。ええ。怒りに任せて。
https://www.tiktok.com/@keisimusic/video/7625113098810117397?is_from_webapp=1&sender_device=pc




