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俺の上司が凄すぎて自称天才エンジニアの俺がポンコツに見える件  作者: 慧梓
第5章 東都の日常③

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幕間:部下が休日に何をしているのか、たまに確認したくない時がある

上司回です。

 部下の趣味というのは、できればあまり深く知らない方がいい。


 私はそう思っている。


 いや、別に、何を好きで何を作ろうが勝手だ。

 仕事に支障が出ないなら、プラモデルでも釣りでも謎の鉱石収集でも好きにすればいい。

 ただ、ごく稀に、確認した側が少しだけ後悔する趣味というものが存在する。


 あいつの趣味は、たぶん、その分類だ。


「……で、休日に何してるか聞いたら、自分の声を育成してるって返ってきたんだけど」


 私は休憩スペースでコーヒー片手にそう言った。


 向かいに座っていた同僚が、眉をひそめる。


「育成?」


「育成」


「声を?」


「声を」


「何それ」


「こっちが聞きたい」


 正確には、聞いた。

 聞いた上で、余計によく分からなくなった。


 昨日、なんとなく電話したのが悪かったのかもしれない。

 休日にあいつが珍しく趣味作業をしていると言うから、何気なく聞いたのだ。


 そしたら返ってきた。


 自分の声を録音して、学習用に調整してます。


 意味が分からなかったので、詳しく聞いた。


 そしたら意味が分からないまま解像度だけ上がった。


「母音と子音の出方がどうこう、破裂音がどうこう、次は連続性も見たいとか言ってたのよ」


「うわぁ」


「その“うわぁ”が正しい反応」


 同僚は半笑いになった。


「でも、そういうの好きそうじゃないですか、あの人」


「好きそうなのがまた嫌なのよ。あいつの場合、冗談じゃなくて本気だから」


「本気で何してるんですか、それ」


「本人いわく、俺だけど俺じゃない感じがちょうどいいらしい」


「何の話です?」


「私も途中で聞くのをやめようかと思った」


 やめなかったけど。

 なぜなら、あいつは妙な方向にだけ異常に筋が通っているからだ。


 意味不明な趣味を語っているようでいて、話の構造だけはやたらしっかりしている。

 目的、方法、比較条件、今後の検証予定。

 そこだけ取り出すと、だいたい仕事の打ち合わせと変わらない。


 違うのは、対象が自分の声だというだけだ。


「まあでも、あの人ってそういうとこありますよね」


「ある」


「無駄に深い」


「本当に無駄ならまだいいんだけどね。たまに変なとこで実務に接続してくるのが腹立つのよ」


「分かります」


 分かってしまうのが嫌だった。


 あいつは普段、妙に面倒くさそうな顔をしているくせに、

 自分の興味範囲に入った瞬間だけ急に回転数が上がる。

 しかも、浅く広くではない。変なところだけ掘削機みたいに深い。


 前にもあった。

 何の流れだったか忘れたけれど、ちょっとした雑談から妙に細かい知識が飛んできて、

 最終的に「だからこの運用の詰まり方、構造が似てるんですよ」で仕事の話に着地したことがある。


 その時も思った。


 こいつ、趣味の生やし方が気持ち悪いな、と。


 でも同時に、少しだけ厄介だとも思った。


 こういう部下は、雑に切り捨てると危ない。

 変なところに才能が埋まっているからだ。


「で、結局どうなんです?」


「何が?」


「その、育成した声」


 私は少し考えてから答えた。


「聞いてない」


「聞いてないんですか」


「聞くと面倒なことになりそうだったから」


「賢い」


「でしょ」


 だが、本当は少しだけ気になっていた。

 あいつがあそこまで納得した声で「かなり面白いです」と言うのは珍しい。

 面白い、便利、使える。

 あいつがその三つを揃えて言う時は、たいてい本当に何か見つけている。


 私はコーヒーを一口飲んで、ため息をついた。


「まあ、仕事に持ち込まないなら好きにしなさいって感じね」


「持ち込みそうです?」


「本人は持ち込まないって言ってた」


「じゃあ大丈夫では」


「“本人は”ね」


 同僚が苦笑する。


「信用ないなぁ」


「違うの。あいつは自分で持ち込む気はなくても、こっちが何かに使えると気付くと急に危険になるのよ」


「ああ……分かる気がします」


 そう。

 あいつの危険性は、暴走そのものより、理屈が立った瞬間に急に実装可能圏へ入ることだ。


 だから私は、あえて一歩引いている。

 知らない方が平和なことも、世の中にはある。


 その日の夕方、資料確認のついでに、私はあいつへメッセージを送った。


> 例の趣味、仕事には使わないでよ

> 面白がって変なことしそうだから


 返事はすぐ来た。


> 今のところその予定はありません

> ただ、案外ナレーションには向くかもしれません


 私は即座に打ち返した。


> 使う気満々じゃない


 数秒後。


> まだ検証段階です


 まだ、という言い方が嫌だった。


 私はスマホを机に置いて、天井を見た。


「……やっぱり確認しなきゃよかったかも」


 ぽつりと漏らすと、隣の席の同僚が笑った。


「でも、嫌いじゃないでしょう?」


「嫌いではないのが困るのよ」


 変な部下だと思う。

 かなり変だ。

 正直、趣味としてはだいぶ気持ち悪い部類だと思う。


 でも、まあ。


 ああいう、どうでもいいことに妙に本気になれるやつは、

 嫌いじゃない。


 たぶん本人は、今日もどこかで真顔で録音しているのだろう。


 あいうえお。

 かきくけこ。

 ばびぶべぼ。


 想像してしまって、私はまた少しだけ後悔した。


「……月曜、絶対その話ふらないでおこ」


 下手にスイッチを入れると長い。

 それはもう、仕事で十分知っている。

俺くんの趣味は大体作者の趣味であることが多いです

仕方ないね┐(´ー`)┌

因みにUTAUは楽しいから皆さん是非(っ ॑꒳ ॑c)遊んで見てくださいw

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