第43話:AIの使い分けは理解してるのに、何で仕事は使いこなせねぇんだよってなった件
うちの職場には、妙な後輩がいる。
ポンコツ後輩女子。普段の仕事はだいぶ怪しい。確認は抜けるし、認識はずれるし、たまに話が途中で蒸発する。 なのに、雑談になると急に解像度が上がる。
その日も昼休み、休憩スペースで何となく創作の話になった。
「そういえば、〇〇女子さんって小説書きますよね。最近も書いてるんですか?」
俺がそう聞くと、彼女はいつもの軽い調子で答えた。
「最近は書いてないですね。ChatGPTに投げて、アイディア出ししてもらってます」
へぇ、と思った。そこまでは今どき珍しくもない。
「ChatGPT以外だと何使ってます?」
「Geminiですけど、メインはチャッピーですね」
「理由は?」
すると彼女は少し考えてから、思ったよりちゃんとした口調で言った。
「ええと……アイディア出しはチャッピーが強いのですが、Geminiに書かせると、より文章として整ってしまうので」
「ふむ」
「自分で書けないのは、ちょっと嫌だなって」
俺は一瞬、言葉を失った。
いや待て。そこまで分かってるのか?
AIごとの特性を把握して、用途を分けて、しかも自分の主体性まで意識してる?
何だその、やたら健全なクリエイター判断は。お前、そんなにちゃんとしてたのか。
「なるほど。補助として使うのはいいけど、完成まで持っていかれると、自分のものじゃなくなる感じですか」
「そうですそうです。手伝ってもらうのはいいんですけど、全部やられると違うなって」
「へぇ……」
普通に正しい。普通に正しすぎて、逆に腹が立ってきた。
その会話を、近くで缶コーヒーを飲んでいた皮肉屋SEが聞いていたらしい。
彼は少しだけ眉を上げてから、いかにも面倒くさそうな顔で口を挟んだ。
「へぇ。そこまで分かってるんだ」
ポンコツ後輩女子は、褒められたと思ったのか少し嬉しそうにした。
「まあ、はい。一応そのへんは」
「じゃあ余計に意味分かんねぇな」
「え?」
皮肉屋SEは、何でもないことみたいに続けた。
「ChatGPTは発想向き、Geminiは整いすぎる、自分で書けないのは嫌。そこまで分析できるのに、何で仕事になると急に全部雑になるんだよ」
空気が止まった。
俺は静かにコーヒーを飲んだ。そう、それなんだよ。
「いや、それとこれとは……」
「同じだろ。道具との距離感の話なんだから」
皮肉屋SEは淡々としていた。 怒っているというより、純粋に不思議がっている時の顔だった。
「創作では主体性を守りたいんだろ?」
「はい……」
「なのに業務では主体性どこに置いてくるんだよ。毎回タスクに振り回されて終わってるじゃん」
「うっ」
「AIに書かれすぎるのは嫌なくせに、仕事はいつも状況に書かれてる側なの、どういうこと?」
やめてやれ。いや、やめなくていいかもしれない。だいぶ的確だ。
ポンコツ後輩女子はわずかに視線を泳がせながら、小声で言った。
「で、でも……創作は好きでやってることなので……」
「仕事もお前がやることだろ」
「それはそうなんですけど……」
「好き嫌いで処理性能変わりすぎなんだよ」
皮肉屋SEは一口コーヒーを飲んで、さらに追撃した。
「創作の時だけやたら解像度高いの何なんだよ。業務になると急に設定二段階くらい落ちるじゃん」
「そんなことないです」
「あるよ。お前、この前だって依頼メールの主語消して送ってただろ」
「それは……相手が分かるかなって……」
「分かるわけねぇだろ。お前の頭の中は共有サーバじゃないんだよ」
強い。いつにも増して強い。
ポンコツ後輩女子は明らかに押されていたが、それでも諦めずに反論した。
「でも、AIの違いをちゃんと分かって使ってるのは、ちょっと偉くないですか?」
そこで俺は吹きそうになった。その状況でそこを評価ポイントとして差し込めるの、ある意味すごいな。
皮肉屋SEは少しだけ考えてから、素っ気なく頷いた。
「そこはまあ偉い」
「ですよね!」
「ただ、その理解力あるやつが添付ファイル付け忘れる方が怖い」
即死だった。
ポンコツ後輩女子は小さくうめいて、机に突っ伏すみたいにテーブルに額をつけた。
「だってぇ……そっちは現実じゃないですか……」
「創作も現実だろ」
「いや、そういう哲学の話じゃなくて」
「現実逃避の精度だけ高いな、お前」
俺はそこで、ようやく口を挟んだ。
「要するにあれですね」
二人がこっちを見る。
「AIの使い分けは理解してる。けど、自分の仕事の使い方は理解してない」
ポンコツ後輩女子が「ひどい!」と抗議し、皮肉屋SEが「端的だな」と言った。
そのまま昼休みは終わった。
そして午後一。 彼女から来た確認メールは、件名が空欄で、本文が一行で、添付ファイルだけが二重についていた。
俺は受信画面を見つめながら、静かに思った。
何でそこまで理解できてんのに、仕事できねぇんだよ。
AIとの距離感は調整できるのに、締切との距離感は毎回バグっている。




