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俺の上司が凄すぎて自称天才エンジニアの俺がポンコツに見える件  作者: 慧梓
第3章 東都の日常②

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第43話:AIの使い分けは理解してるのに、何で仕事は使いこなせねぇんだよってなった件

 うちの職場には、妙な後輩がいる。


 ポンコツ後輩女子。普段の仕事はだいぶ怪しい。確認は抜けるし、認識はずれるし、たまに話が途中で蒸発する。 なのに、雑談になると急に解像度が上がる。


 その日も昼休み、休憩スペースで何となく創作の話になった。


「そういえば、〇〇女子さんって小説書きますよね。最近も書いてるんですか?」


 俺がそう聞くと、彼女はいつもの軽い調子で答えた。


「最近は書いてないですね。ChatGPTに投げて、アイディア出ししてもらってます」


 へぇ、と思った。そこまでは今どき珍しくもない。


「ChatGPT以外だと何使ってます?」


「Geminiですけど、メインはチャッピーですね」


「理由は?」


 すると彼女は少し考えてから、思ったよりちゃんとした口調で言った。


「ええと……アイディア出しはチャッピーが強いのですが、Geminiに書かせると、より文章として整ってしまうので」


「ふむ」


「自分で書けないのは、ちょっと嫌だなって」


 俺は一瞬、言葉を失った。


 いや待て。そこまで分かってるのか?


 AIごとの特性を把握して、用途を分けて、しかも自分の主体性まで意識してる?


 何だその、やたら健全なクリエイター判断は。お前、そんなにちゃんとしてたのか。


「なるほど。補助として使うのはいいけど、完成まで持っていかれると、自分のものじゃなくなる感じですか」


「そうですそうです。手伝ってもらうのはいいんですけど、全部やられると違うなって」


「へぇ……」


 普通に正しい。普通に正しすぎて、逆に腹が立ってきた。


その会話を、近くで缶コーヒーを飲んでいた皮肉屋SEが聞いていたらしい。  

彼は少しだけ眉を上げてから、いかにも面倒くさそうな顔で口を挟んだ。


「へぇ。そこまで分かってるんだ」


 ポンコツ後輩女子は、褒められたと思ったのか少し嬉しそうにした。


「まあ、はい。一応そのへんは」


「じゃあ余計に意味分かんねぇな」


「え?」


 皮肉屋SEは、何でもないことみたいに続けた。


「ChatGPTは発想向き、Geminiは整いすぎる、自分で書けないのは嫌。そこまで分析できるのに、何で仕事になると急に全部雑になるんだよ」


 空気が止まった。


 俺は静かにコーヒーを飲んだ。そう、それなんだよ。


「いや、それとこれとは……」


「同じだろ。道具との距離感の話なんだから」


 皮肉屋SEは淡々としていた。  怒っているというより、純粋に不思議がっている時の顔だった。


「創作では主体性を守りたいんだろ?」


「はい……」


「なのに業務では主体性どこに置いてくるんだよ。毎回タスクに振り回されて終わってるじゃん」


「うっ」


「AIに書かれすぎるのは嫌なくせに、仕事はいつも状況に書かれてる側なの、どういうこと?」


 やめてやれ。いや、やめなくていいかもしれない。だいぶ的確だ。


 ポンコツ後輩女子はわずかに視線を泳がせながら、小声で言った。


「で、でも……創作は好きでやってることなので……」


「仕事もお前がやることだろ」


「それはそうなんですけど……」


「好き嫌いで処理性能変わりすぎなんだよ」


 皮肉屋SEは一口コーヒーを飲んで、さらに追撃した。


「創作の時だけやたら解像度高いの何なんだよ。業務になると急に設定二段階くらい落ちるじゃん」


「そんなことないです」


「あるよ。お前、この前だって依頼メールの主語消して送ってただろ」


「それは……相手が分かるかなって……」


「分かるわけねぇだろ。お前の頭の中は共有サーバじゃないんだよ」


 強い。いつにも増して強い。


 ポンコツ後輩女子は明らかに押されていたが、それでも諦めずに反論した。


「でも、AIの違いをちゃんと分かって使ってるのは、ちょっと偉くないですか?」


 そこで俺は吹きそうになった。その状況でそこを評価ポイントとして差し込めるの、ある意味すごいな。


 皮肉屋SEは少しだけ考えてから、素っ気なく頷いた。


「そこはまあ偉い」


「ですよね!」


「ただ、その理解力あるやつが添付ファイル付け忘れる方が怖い」


 即死だった。


 ポンコツ後輩女子は小さくうめいて、机に突っ伏すみたいにテーブルに額をつけた。


「だってぇ……そっちは現実じゃないですか……」


「創作も現実だろ」


「いや、そういう哲学の話じゃなくて」


「現実逃避の精度だけ高いな、お前」


 俺はそこで、ようやく口を挟んだ。


「要するにあれですね」


 二人がこっちを見る。


「AIの使い分けは理解してる。けど、自分の仕事の使い方は理解してない」


 ポンコツ後輩女子が「ひどい!」と抗議し、皮肉屋SEが「端的だな」と言った。


 そのまま昼休みは終わった。


 そして午後一。  彼女から来た確認メールは、件名が空欄で、本文が一行で、添付ファイルだけが二重についていた。


 俺は受信画面を見つめながら、静かに思った。


 何でそこまで理解できてんのに、仕事できねぇんだよ。


AIとの距離感は調整できるのに、締切との距離感は毎回バグっている。

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