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俺の上司が凄すぎて自称天才エンジニアの俺がポンコツに見える件  作者: 慧梓
第3章 東都の日常②

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第41話:地方特急で帰るだけだったのに上司の一言で怪談になった件

出張帰りだった。


 朝から地震と雨。嫌な予感しかしなかったので、俺は珍しく追加料金を払って地方特急の指定席を取った。


 こういう日に変な節約をするとろくなことにならない。

 座れるなら座って帰る。合理的判断である。


 なので、そのまま上司に報告した。


「地震と雨で確実に遅れてると思ったので、追加料金払って座れるやつ取りました」


 するとすぐ返事が来た。


「これで夢の無い国に直通できますね♪」


「雨がやまないなら元同僚さんのところへ行くのはどうです?」

 


…何を言っているんだこの人は。



「や。あいつん家行くと、駅前でお小遣い溶かすので。」


 綺麗に返したつもりだった。


 だが、上司はそこで別方向から刺してきた。


「その特急、名前が独特ですね?」


 そこなのか。


「そうなんですよ。別の便はもう少し格好いい名前なんですけど」


 ここまでは普通の雑談だった。


 問題は次の一言だ。


「有名な断崖絶壁の名所から飛び降りた人が、窓辺にいそうな響きですね」


 やめてほしい。


 課金して乗った列車を一瞬で呪物にするな。


「やめてください。急に外見られなくなるじゃないですか」


「こっち見てそうです」


 やめろ。


 文字だけで怖くするな。


「月曜九時とか二時間ドラマじゃないんで。何も起きませんよ」


 送ってから思った。


 いや、特急に課金してる時点で、普段より何か起きてはいる。


 だが上司は、その揺らぎを見逃さなかった。


「ちゃんちゃんちゃーん」


 開始音を入れるな。


「開始しないでください」


「なんだ、イノシシか」


 何でそうなるんだ。


 会話の流れが分からない。


 だが、この人との会話を整合性で追うのは無駄である。

 理屈で追うほどこっちが負ける。


 そして上司は、そのままさらに別方向へ飛んだ。


「そして、いまだ上がれず」


「申請書の対応状況シートが、続々と溜まっていきます」


 急に現実に戻すな。


 怪談から業務に戻る速度がおかしい。


「明日消しておきます。拳銃で」


 少し雑だったかなと思ったが、上司は怯まない。


「そもそも、家に帰ったら撃たれるんじゃないんですかね」


 俺は泣いた。


「泣いた」


「そこは泣いていいかも」


 優しいのか雑なのか判定が難しい。


 しかも、ここで終わらない。


「ほんとの敵は、家にいる」


 少し考える。


 家庭内を敵認定するのも危険だが、職場を敵認定するのも危険である。


「平穏って何でしょうね」


「職場かな」


 さらっと言うな。


 いや待て。

 それはそれで俺には少し違う。


「最近、いやずっとですけど、個性の暴力でいつも土下座してるんですが」


 送った瞬間、少し嫌な予感がした。


 すると上司は言った。


「誰からです」


 俺は固まった。


 急に面談みたいな温度を出さないでほしい。


「えっ」


「もしかしたら、ご褒美ですか」


 撤回する。

 やはりこの人は真面目じゃない。


「さて、最寄り駅はと」


 俺は会話を切った。


 これ以上続けると危ない。

 精神的にではなく、会話の着地点的に危ない。


 だが上司は最後まで上司だった。


「良かったですね」


 何がだ。


 車窓は怪談になり、俺はイノシシ扱いされ、業務シートは溜まり、家に帰れば撃たれる想定までされた。


 何一つ良くない。


 するとさらに追撃が来た。


「ほんとの敵は、家にいる」


 またそこを擦るのか。


「そっち擦るんですか」


 俺がそう返すと、上司は最後にこう締めた。


「気を落とさず。頑張ってください」


 だから何一つ解決していない。


 していないのに、なぜか会話だけは綺麗に締まっていた。


 この人は強い。


 返しが強いとか、語彙が強いとか、そういう話ではない。


 会話の途中で怪談を始めても、業務地獄を差し込んでも、最後に励ませば全部まとまった感じになると思っている。


 そして実際、少しまとまって見えるのが厄介だった。


 結局その日、俺は無事に帰宅した。


 窓辺に何かが立つこともなかったし、駅前で金を溶かすこともなかった。

 家で撃たれることも、…たぶんなかった。多分(*´°∀°`)

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