第38話: 「野球脳の後輩にロジックで指導したら、俺の方がポンコツ扱いされた件」
「先輩、これ俺に振られてるタスクって、守備範囲どこっすか?」
出た。
野球脳。
俺は静かにモニターを見ながら答える。
「守備範囲っていうか、仕様書に書いてある通り全部だが?」
「全部っすか?ショートで外野まで見る感じっすか?」
いや知らん。
「全部だ」
「え、それセンターカバーまで入ってません?」
なんでそんな具体的なんだよ。
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こいつは新人のくせに、やたら例えが野球だ。
そして困ったことに――
その例え、妙に分かりやすい。
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「じゃあこのタスク、どのタイミングで投げればいいです?」
「投げるっていうか、レビュー出せばいい」
「何回です?1回で決めにいく感じですか?」
お前は何と戦ってるんだ。
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「……別に1回で通らなくてもいい。段階踏め」
「なるほど、バントで進める感じっすね」
違う。
いや、合ってるのか?
一瞬思考が止まる。
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その隙を突くように、後輩は畳みかけてくる。
「じゃあ今の俺、フルスイングしすぎってことっすか?」
「……そうだな」
「やっぱっすよね。なんか空振り多い気してたんすよ」
いやお前、普通に有能だろ。
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気づいた時には、完全にペースを握られていた。
俺はロジックで説明しているはずなのに、
なぜか全部、野球に変換されていく。
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「先輩、これ本番っすか?それともノックっすか?」
「……ノックだ」
「了解っす。じゃあ多少ミスってもいいっすね」
なんで俺より理解が早いんだ。
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その時だった。
「――いいじゃん、その教え方」
後ろから、あの声。
振り返るまでもない。
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「野球で例えると、分かりやすいんでしょ?」
上司がコーヒー片手に言う。
「はい。めちゃくちゃ分かりやすいっす」
後輩が即答する。
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「じゃあそれで統一しなよ」
軽い一言だった。
だが、次の瞬間。
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「今日のタスク、全部“試合”として考えていいから」
「今はまだ3回。焦らなくていい」
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後輩の目の色が変わる。
「……了解っす。じゃあ確実に出塁していきます」
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俺は理解した。
こいつは今――
完全にゾーンに入った。
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「あと」
上司が俺を見る。
嫌な予感しかしない。
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「アンタ、説明ちょっと固い」
やめろ。
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「“いいスイングしてる”くらい言ってあげなよ」
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……は?
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後輩がこっちを見る。
期待に満ちた目で。
やめろその目。
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「……いいスイング、してる」
言ってしまった。
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「マジっすか!?ありがとうございます!!」
なんでそんなに嬉しそうなんだよ。
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上司は満足そうに頷いた。
「ほら、伸びるでしょ」
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その瞬間、理解した。
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ロジックで教えてたのは俺のはずなのに、
育ててるのは完全にあの人だ。
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そして俺は今日も――
ポンコツ側に回る。




