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俺の上司が凄すぎて自称天才エンジニアの俺がポンコツに見える件  作者: 慧梓
第7章:東都の日常⑤

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第93話:平和だなぁ……



俺は自称天才エンジニアである。


理論は完璧。

ロジックは美しい。

想定外は想定済み。


――の、はずだった。



---


「平和だなぁ……」


朝。


コーヒー片手に俺――結城紫苑は呟いた。


実に平和だった。


問い合わせなし。


障害なし。


急ぎ案件なし。


素晴らしい。


こういう日こそ創作が捗る。


人生とは素晴らしいものだ。


「その台詞やめてください」


隣から逢沢が言った。


「なんでだよ」


「死亡フラグです」


「そんなオカルトあるか」


「前回も言ってました」


「気のせいだ」


「その後サーバ落ちました」


「……」


「その前はネットワーク障害でした」


「……」


「その前は」


「もういい」


過去を掘り返すな。



---


「僕もやめた方がいいと思うな」


向かいから東雲が顔を上げる。


「お前までか」


「経験則だよ」


「非科学的だ」


「でも当たってる」


「偶然だ」


「偶然が三回続くと統計になるらしいよ?」


「誰が言った」


「知らない」


知らないんかい。



---


俺はため息を吐いた。


こいつらは失礼だ。


非常に失礼だ。


人を何だと思っている。


俺は自称天才エンジニアだぞ。


平和なものを平和と言って何が悪い。


「今日は本当に平和だから」


「はい」


逢沢が返事をした。


「はい」


東雲も返事をした。


「何だその返事」


「別に?」


「別に」


腹立つなこいつら。



---


その時だった。


背後から声が飛んできた。


「紫苑くーん」


堂条さんだった。


嫌な予感がした。


「何でしょう」


「相談」


「嫌な予感しかしません」


「大丈夫」


「大丈夫じゃない時に言うやつです」


「急ぎじゃない」


「はい」


「でも面倒」


「はい」


「たぶん紫苑くん案件」


「帰ります」


「まだ九時半」


「帰ります」


「だめです」


だめだった。



---


結局。


面倒な案件だった。


しかも見事に俺案件だった。


「何で俺なんですか」


「紫苑くんだから」


「理由になってません」


「紫苑くんだから」


「説明を放棄しないでください」


堂条さんはにこにこしている。


嫌な予感しかしない。



---


その後。


昼までかかって案件は解決した。


大事にはならなかった。


なってない。


なってないのだが。


「ほら」


逢沢が言った。


「何がだ」


「平和じゃなかった」


「違う」


「違わない」


「障害じゃない」


「でも面倒だった」


「面倒だったけど」


「平和じゃない」


「平和じゃない」


東雲まで乗っかってきた。


腹立つなこいつら。



---


俺はコーヒーを飲み干した。


そして静かに決意する。


もう二度と。


少なくとも職場では。


平和などと言うまい。


そう思った。


その時だった。


「紫苑くん」


堂条さんが再び現れた。


「はい」


「もう一件」


俺は天を仰いだ。


誰だ。


今日平和だとか言ったやつ。


俺だった。



---


―つづく―


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