第93話:平和だなぁ……
俺は自称天才エンジニアである。
理論は完璧。
ロジックは美しい。
想定外は想定済み。
――の、はずだった。
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「平和だなぁ……」
朝。
コーヒー片手に俺――結城紫苑は呟いた。
実に平和だった。
問い合わせなし。
障害なし。
急ぎ案件なし。
素晴らしい。
こういう日こそ創作が捗る。
人生とは素晴らしいものだ。
「その台詞やめてください」
隣から逢沢が言った。
「なんでだよ」
「死亡フラグです」
「そんなオカルトあるか」
「前回も言ってました」
「気のせいだ」
「その後サーバ落ちました」
「……」
「その前はネットワーク障害でした」
「……」
「その前は」
「もういい」
過去を掘り返すな。
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「僕もやめた方がいいと思うな」
向かいから東雲が顔を上げる。
「お前までか」
「経験則だよ」
「非科学的だ」
「でも当たってる」
「偶然だ」
「偶然が三回続くと統計になるらしいよ?」
「誰が言った」
「知らない」
知らないんかい。
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俺はため息を吐いた。
こいつらは失礼だ。
非常に失礼だ。
人を何だと思っている。
俺は自称天才エンジニアだぞ。
平和なものを平和と言って何が悪い。
「今日は本当に平和だから」
「はい」
逢沢が返事をした。
「はい」
東雲も返事をした。
「何だその返事」
「別に?」
「別に」
腹立つなこいつら。
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その時だった。
背後から声が飛んできた。
「紫苑くーん」
堂条さんだった。
嫌な予感がした。
「何でしょう」
「相談」
「嫌な予感しかしません」
「大丈夫」
「大丈夫じゃない時に言うやつです」
「急ぎじゃない」
「はい」
「でも面倒」
「はい」
「たぶん紫苑くん案件」
「帰ります」
「まだ九時半」
「帰ります」
「だめです」
だめだった。
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結局。
面倒な案件だった。
しかも見事に俺案件だった。
「何で俺なんですか」
「紫苑くんだから」
「理由になってません」
「紫苑くんだから」
「説明を放棄しないでください」
堂条さんはにこにこしている。
嫌な予感しかしない。
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その後。
昼までかかって案件は解決した。
大事にはならなかった。
なってない。
なってないのだが。
「ほら」
逢沢が言った。
「何がだ」
「平和じゃなかった」
「違う」
「違わない」
「障害じゃない」
「でも面倒だった」
「面倒だったけど」
「平和じゃない」
「平和じゃない」
東雲まで乗っかってきた。
腹立つなこいつら。
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俺はコーヒーを飲み干した。
そして静かに決意する。
もう二度と。
少なくとも職場では。
平和などと言うまい。
そう思った。
その時だった。
「紫苑くん」
堂条さんが再び現れた。
「はい」
「もう一件」
俺は天を仰いだ。
誰だ。
今日平和だとか言ったやつ。
俺だった。
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―つづく―




